風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

日本は蚊帳の外?

2018-06-03 13:19:59 | 時事放談
 どうやら米朝首脳会談は12日に開催されることになったようだ。トランプ大統領が会談中止の通告をしてから一週間余り、国際社会からはなかなか目が離せない、興味深いゲームが続いている(日本では、モリ・カケこそ廃れたが、日大アメフト問題でもちきりだったが)。
 既に北朝鮮の国際社会復帰“後”に向けた宣伝戦が始まっているようだ。
 北朝鮮は「1億年たっても日本は北朝鮮に入れない」などと豪語したものだったが、その極端な数字は、傲慢さのあらわれと言うよりも、レトリックとして真意を理解せよ、とでも言わんばかりだ(笑)。昨日も、朝鮮労働党機関紙・労働新聞(電子版)は論評で「日本が『拉致問題』に執着しているのは、わが国の対外的イメージに泥を塗ろうという不純な下心以外の何物でもない」と非難し、また「既に解決された問題を騒ぐ前に、過去にわが国を占領して、わが民族に耐え難い不幸と苦痛を与えた前代未聞の罪悪を謝罪し、賠償するのが筋だ」と口汚く主張したという(時事)。
 「多くの北朝鮮専門家の指摘によれば、北朝鮮エリートは、自国に対する評価も含めて外部世界の状況をかなり正確に掌握しているらしい」(中西寛・京都大学教授)が、やはりこうした感情的に反応する場面では、脇の甘さが出るのだろうか。労働新聞が言う北朝鮮の「対外的イメージ」とやらがどんなものか聞いてみたいものだ(少なくとも泥にまみれていないと思っているのは事実のようだ)。あるいは、国際的犯罪者・・・と言って言い過ぎなら、戦後、人類がまがりなりにも営々と積み上げてきた核不拡散の努力を「自衛」の名の下に踏みにじる、戦後秩序への反逆者のイメージを、韓国で御しやすい革新派の大統領が登場し、米国で安全保障も通商もひとまとめにしてディールにしてしまって恥じないビジネスマン大統領が登場した、千載一遇のタイミングを捉えて、折角、刷新しようとしているときに、水を差すな、ということだろう。
 中国や韓国が「侵略」「植民地支配」などと日本のことを口汚く罵るから、日本人もつい心に負い目を抱えているが、あれは公平に見て西洋的な意味での「植民地支配」や「占領」とは言えないと思われる。当時、東アジアにロシアの圧力が強まることが懸念され、朝鮮半島が独立を維持できそうにないことが、日本の安全保障上、最大の関心になったことから、条約という正当な手続きを踏んで日本がやむなく併合したものであって、勿論、帝国主義の時代にあって、欧米諸国の植民地支配にありがちな諸問題など一切なかった・・・などと奇麗ごと(韓国人の発想になぞらえればファンタジー)を言うつもりはないが、日本の議会では台湾にしても朝鮮半島にしてもその経営を内地の延長で行うかどうかといった議論があり、GDPの10数パーセントを投資したと言われている。
 それを、国際犯罪である拉致と比し、古色蒼然とした「賠償」なる言葉の煤を払って持ち出すとは、そのレトリックの真意は、日本の技術とカネを寄越せ・・・ということに尽きるのだろう。既に私たちの「記憶」ではなく「歴史」の一コマになったことだが、サンフランシスコ講和条約から日韓基本条約に至るまで、韓国の怨念あるいは複雑な民族感情が噴出し歴史認識問題として持ち上がって紛糾し、実に14年もの歳月をかけた、あの余り生産的とは言えない交渉が思い起こされる。日本は「乗り遅れている」だの「蚊帳の外」だのと、北朝鮮が言うのはこれまたレトリックで、これほど北朝鮮から注目!?されているのだから、それを日本人がオウム返しに言って心配する必要はない。歴史的に、隣接する中国やロシア(ソ連)の間で揺れた朝鮮半島の「振り子外交」から生まれた心理戦の一つと言ってよいのだろう。
 かつて韓国は、対日戦勝国(つまり連合国)の一員であるとの立場を主張し、日本に戦争「賠償」金を要求した。サンフランシスコ講和条約締結の時にも、戦勝国(つまり、何度も言うが連合国)としての署名参加を申し入れたが、アメリカとイギリスに却下され、1951年9月8日の日本国との平和条約調印式への参加も許可されなかった。第二次大戦中、韓国が連合国だったとは歴史のどこをどう引っくり返せば出てくるのか不思議・・・と思ってWikipediaを読むと、「第二次世界大戦中に韓国人で構成された組織的兵力が中国領域で日本軍と交戦した事実は韓国を連合国の中に置かねばならないという我々の主張の正当性を証明している」と言うことらしい(まあ、そういう散発的なイザコザがローカルになかったとは言い切れないが)。そして戦勝国(連合国)のロジックが通用しないと分かると、次には、36年間の日本の支配下での愛国者の虐殺、韓国人の基本的人権の剥奪、食料の強制供出、労働力の搾取などへの「賠償」を請求する権利を持っていると主張した。
 ここで登場するのが、久保田発言(韓国に言わせれば妄言)として知られることになる日本側首席代表の外務省参与・久保田貫一郎氏の反論である。「日本は植林し、鉄道を敷設し、水田を増やし、韓国人に多くの利益を与えたし、日本が進出しなければロシアか中国に占領されていただろう」と、当然のことを主張したのだった。当時を知る日本人が多かった時代にあっては、日本ではごく普通に受け入れられたことであろうが、植民地支配は韓国に害を与えただけと(タテマエだけでも)考える韓国側からは「妄言」として批判され、日韓会談は中断したのだった。
 その後も、久保田氏は、(日本が)まるで暴言したかのように(韓国が)外国に宣伝することは妥当ではないし、(自分の主張は)撤回しない、また発言が誤りであったとは考えないと主張したが、韓国側は、会談に今後出席できない、これは完全に日本に責任があると述べ、会談は終了し、韓国は「久保田妄言」への報復として李承晩ラインを設定し、竹島を占領するという、日本人には甚だ不愉快だが韓国にとっては民族的プライドを賭けた(?)蛮行に発展する。このやりとりを見ていると、韓国の本質は変わらないものだと感慨深い。久保田氏は極秘公文書「日韓会談決裂善後対策」(1953年10月26日) で、韓国について「思い上がった雲の上から降りて来ない限り解決はあり得ない」と記述し、韓国人の気質について「強き者には屈し、弱き者には横暴」であると分析した上で、李承晩政権の打倒を開始するべきであるとの提言すら残している(このあたりもWikipedia)というが、名言というよりごく当たり前の真実だろう。
 結果として、韓国政府が朝鮮にある唯一の合法的な政府であると確認され、日本から韓国に対し計11億ドル(3億ドル無償、2億ドル有償、3億ドル以上の民間借款)もの経済援助が行われた。当時の韓国の国家予算は3.5億ドルだったというから、如何に巨大だったか(漢江の奇跡もむべなるかなと)知れる。そして、日本は韓国に対し朝鮮に投資した資本及び日本人の個別財産の全てを放棄するとともに、韓国は対日請求権を放棄することに合意した(それでも慰安婦や徴用工の個人の請求権など、なんだかんだと蒸し返しているのは周知の通りだが)。こうした文脈からすれば、将来、北朝鮮を統一あるいは統一的に経済発展する道が開かれれば、是非、(日本のカネなどアテにせず)韓国ご自身にご活躍頂きたいものである。
 折しも産経新聞(電子版)は、「海峡を越えて 『朝のくに』ものがたり」というシリーズ企画を掲載している。その中には、日本が戦後、北朝鮮地域に残してきた水豊ダムなどの資産は現在価値で9兆円以上もあるとか(これについて産経は「朝鮮北部の奥深い山に分け入り、ダムや発電所、鉱山、工場を築いていった日本人の血と汗が染みついている」と書いているが、こうした歴史的事実は忘れ去られてはならないだろう)、桁は違うが、戦後、日本の商社やメーカーによる北朝鮮へのプラントや機械類の輸出は1970年代後半にピークを迎えたが、1983年に北朝鮮が起こしたラングーン爆破テロ事件で、国際社会から孤立を深めたことを逆手にとって、以来、北朝鮮は支払いを止めており、関係者によれば、未払額は元本だけで約400億円、利子や延滞分を合わせると計2200億円に上る(日本の関係機関は毎年6月と12月末に郵送とファクスで「請求書」を北側へ送り続けているが、返事すらない、ナシの礫だそうだ)といった記述がある。もし北朝鮮が日韓基本条約を認めず「戦後賠償は終わっていない」と言うのを(拉致問題解決のためにも)無視できないとするならば、こうした抗弁をしつつ交渉するのかと思うと、気が遠くなりそうだ。2002年の小泉訪朝に伴う日朝平壌宣言で経済協力が謳われたとき、一説によると北朝鮮は1兆円規模を期待していたという。北朝鮮の国家予算は謎だが、韓国の事例から類推すれば、北朝鮮の国家予算はこの三分の一(日本の国家予算の三百分の一)ほどだろうか。
 こんな南・北朝鮮であるから、米朝首脳会談も一筋縄では行かないのは(過去の交渉を見るまでもなく)明らかである。さて、どうなることやら。ニューズウィーク日本版は先々週、「交渉の達人 金正恩」とタイトルして金正恩委員長を持ち上げ(その後、トランプの中止カードに妥協)、先週は「米朝新局面 今後のシナリオ」とタイトルして、今後の展開を曖昧なものにして時が過ぎるとネガティブに予想する、というように、二週続けて外してしまった。それほど読み切れない難しい局面であることは否定しないが、トランプ嫌いという米国メディアの色眼鏡はいったん外してみた方が良さそうに思う(日本の安倍嫌いも同様かも)。
コメント
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