風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

自民党総裁選:雑感

2021-10-02 09:22:30 | 時事放談
 自民党の第27代総裁は岸田文雄さんに決まった。河野太郎さんが失速したと言われていたが、一回目の投票でも岸田さんが(僅か一票差ながらも)一位だったのは驚いたが、無難なところに落ち着いたというところだ。
 日経新聞の政治部長は、「自民党が望んだのは党内の『安定』だった」と書き、読売新聞の政治部長は、「『発信力』より『安定感』が決め手になった」と書いた。一番、凡庸な、と言っては失礼にあたる。が、確かに河野さんほどの危なっかしい変化や大胆な改革は期待できないが、岸田さんも、幹事長などの党役員に任期を設定することを公約に掲げるなど改革を志向し、事実上、二階さんに引導を渡したことは記憶されていい。何より、「政界の異端児」河野さんが首相になった暁の政局運営で、自民党を挙げての組織的バックアップが期待できるのかどうかには不安があった。また、高市早苗さんのように首相になっても靖国に参拝するという言い分は正論なのだが、現実の政治となると話は若干異なってくるので(と、小心者の私はビビッてしまう)、そういった勇ましくて危なっかしい言動も、とりあえずは回避された。因みに、私は(ブログ記事からも分かるように)、記念すべき第100代の日本国・内閣総理大臣は女性こそが(従い多少の無茶は押して高市さんこそが)相応しいと密かに願っていたので、やや気落ちしている(笑)
 こうして見ると、政治家はやっぱり遠い存在で、総裁選の前まで、見た目は河野さんにしても高市さんにしても「ややポジティヴ」だったが、短期間であれ集中的に人となりや言動に接すると、河野さんは政策面や人柄面での奇矯さも手伝って「ややネガティヴ」に1ランク落とし、高市さんは政策通ぶりと“しなやか”な強さを持ち合わせて「(普通に)ポジティヴ」に1ランク上げた。他方、岸田さんは、「酒豪だが、行儀のよいイケメン」が定評ながら、一年前の総裁選では「つまらない男」 「決断できない男」とまで揶揄されて、まだ薄っすらとその痕跡は残るが、開き直りもあったのか、ちょっとは男ぶりをあげた(という言葉は差別用語か!?)。
 その意味で、石破茂さんが、「なぜ(党員票と議員票とで)落差が生じるのかは党全体として考えないといけない」 「このズレを直していかないと、いつまでたっても『自民党は国民の意思と違うよ』ということを引きずってしまう」と、負け惜しみで語られたことには、違和感がある。総裁選はすなわち首相を決める選挙だという連想からのご発言と思われるが、今回はあくまで自民党という組織のリーダーを決めるものであり、私たちは政治家のことをそれほど分かっているわけではなく、従いAKB48のセンターを決めるように(と言っては言い過ぎか)、ファンによる人気投票で決めることではないと思うからだ。何より、自民党員・党友は、国民と言ってもイコールではなく、むしろ自民党ファンとしての、さらにはその中でも恐らく左・右に、偏りがある。また、国民の代表を選ぶのは国民だが、国民が選べるのはそこまでで、政治家個人と、その私的集まりである政党とは分けた方がいい。政党やその中の派閥などの組織を選ぶのは政治家個人の嗜好であり、そのような組織のトップは、何を期待されるのかに依るが、私も民間企業にいるバイアスがかかるせいか、ファン目線よりもその組織に固有の論理で選ばれるのが(いろいろ問題はあるにせよ)自然のように思う。
 各国の反応は相変わらず興味深い。
 主要メディアは、だいたいリベラルで、言いたい放題だ。米NYタイムズ紙は、「国民の好みを無視し、不人気の菅総理とほとんど差別化できない候補者を選んだようだ」と、また英エコノミスト誌も、「世論を無視して岸田氏を選んだ」と、日本のリベラルの肩を持つかのような報道をしたらしい。さらに英エコノミスト誌は、「(強いビジョンを持たない)岸田氏が記憶に残るリーダーになるとは思えない」とまで酷評したのは余計なお世話で、日本のリベラルの恨み節をなぞっているだけだろう。英フィナンシャル・タイムズ紙は、「(自民党は)新しい世代のリーダーに賭けるのではなく、安定性に未来を託した」と指摘し、岸田氏については専門家の声を紹介する形で、「ミスター・ステータス・クオ(現状維持の男)」と伝えたのは、手厳しいが、距離感の取り方としては好感が持てる(さすが日経傘下だ)。
 岸田さんの人となりについて、英BBCは「無味乾燥で退屈だと言われているが、長い間、党内では将来のリーダーとして期待されてきた」、ロイター通信は「調整役として知られる」、フランスAFP通信は岸田氏を「カリスマ性を欠いた、穏便なコンセンサスの精神を培ってきた元外相」、ロシア国営タス通信は「穏健な保守主義」で「酒好き」と紹介したという。さすが、ちょっと突き放した感じの、ウォッカの国・ロシアだ(かつて訪露時の酒豪ぶりが記憶にあるのだろうか)。
 韓国大統領府の関係者は、「我が政府は、新しくスタートすることになる日本の内閣と、韓日の未来志向的な関係発展のために引き続き協力していく」とコメントしたという。毎度の「未来志向的」なのは結構だが、相手に言う前に自ら率先垂範して欲しいものだ。中国外務省の報道官は、「日本の新政権と協力し、中日関係を正しい軌道に乗せ健全で安定した発展を推進させることを望む」と、新政権への期待感を示したという。ここで言う「正しい軌道」とは何を指すのだろう。相互主義の国際関係にあって「正しい」という価値判断を含む形容には違和感がある。いろいろ細かいところで一致しなくても大きくは外交関係を損ねない戦略的互恵の関係維持を言うのなら分かるが、まさか「正しい」歴史認識に基づき中華思想に沿った相互尊重(という名の下での中国への敬意)を言うのではないだろうな・・・
コメント
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