漫画家の寺沢武一さんが心筋梗塞のため8日に亡くなっていたことが分かった。享年68。
代表作は、1977年に「週刊少年ジャンプ」に発表されたデビュー作でもある『コブラ』で、翌78年11月から連載開始された。葉巻を咥え、左腕に「サイコガン」を装着した不死身の男・コブラの活躍を描くSF作品で、私にとって、故モンキー・パンチ氏の『ルパン三世』と並ぶ、漫画界の二大ヒーローである。いずれもアメリカン・コミック・タッチの作画であることが共通している。いずれも主人公は「粋でいなせ」(これはルパン三世に寄せられた形容だったと記憶する)で、寺沢さんご本人は「もともとコブラの声というのはクリント・イーストウッドの山田康雄さんのイメージなんです。だから常に山田さんだったらこうんな風にしゃべるだろうな、というのを意識して書きました」と語っておられ、ここでもルパン三世と共通するものがある(ご存知の通り山田康雄さん=ルパンと言ってもいい)。そして何より、いずれもキャラクター・デザインのモデルになっているのが、1970年代のフランス映画界を代表する、女性に人気のアラン・ドロンに対する、男性に人気のジャン=ポール・ベルモンドである。それが片や一匹狼の宇宙海賊・コブラであり、片や世界を股にかけて活躍する大泥棒・ルパン三世という仕儀なのだ。就職で上京し、横浜の独身寮で暇つぶしに買い求めたデラックス版コミック『コブラ』全10巻完結セット(ジャンプコミックスデラックス、1988年11月1日発売)は、いまだに捨てられない(アマゾンで調べたら、中古本がなんとセットで11,400円~13,980円で出品されている)。同様に、中学生の頃、なけなしの小遣いで買ったコミック『ルパン三世』(双葉社)のオリジナルと「新」併せて三十冊近くも捨てられない(こちらは50年近く前のものだから、もはや骨董品扱いだろう、酔狂としか言いようがない)。
そうは言っても、メイプル超合金のカズレーザーさんが、コブラに憧れ、コブラに似せて、葉巻は咥えないまでも、金髪と真っ赤を基調とした衣装で通しておられるのには敵わない。かつて出演したテレビ番組で「赤いヒーローって強いし、かっこいいじゃないですか。おれも、かっこよくなりたいっていうのはあるから、赤を着ようと」と告白されたそうで、左腕をサイコガンに改造したいと話すほどだ。いや彼だけではない。「幼い頃、コブラがあまりにも好きすぎて なぜ自分の左腕は抜けないんだろうと 何度も何度も引っ張ってた 本当に大好きな先生が亡くなったことに心が痛む ボクにとってコブラも先生も永遠のヒーローです 心よりご冥福をお祈りします」と綴ったのはGACKTさんである。
寺沢武一さんの話に戻ると、1998年に人間ドックで悪性の脳腫瘍が判明し、手術を受けたことを公表されていたそうだ。放射線、抗がん剤治療を受けながらも、その後、再発し、二度目の手術で左半身に麻痺が現れたことも公表され、後遺症で車椅子生活を送っておられたようだ。そんな中、既に1980年代初頭からパソコンを使った作画や彩色のパイオニアとして知られ、「デジタル漫画(デジタルコミック)」という名称を生み出された。絵がとにかく精緻でお上手である(だからこそ魅かれる)。「カラー原稿は、背景の隅々にまで手が入れられており、漫画原稿にかかわらず単品のポップアートとしても通用する領域に達しており、海外における評価も高い」(Wikipedia)そうだ。
今、読み返しても古さを全く感じさせないが、そうは言っても、あの時代に出会えたことに感謝するほかない。ご冥福をお祈りし、合唱。