風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

中国流の脅威

2023-09-17 15:27:11 | 時事放談

 欧州委員長フォンデアライエン氏は、世界のEV市場が「巨額の国家補助金で価格が人為的に低く抑えられた中国製EVで溢れている」と批判し、「我々の市場を歪めている」と主張したそうだ(13日付時事)。EV化を先導し炭素税導入をチラつかせて日本の自動車メーカー(特にハイブリッド車)を牽制して来たEUが今度は何を言い出すか・・・とも思うが(苦笑)、中国の非道はご指摘の通りで、今に始まったものではない。中国を忖度してきたEUもようやく重い腰をあげたかという印象である。

 今から5年前、2018年の『通商白書』は、中国の鉄鋼産業において引き起こった過剰生産能力問題に関して、過去15年間の経緯と問題の要因について事例検証を行っている。中国の鉄鋼産業でWTO加盟を契機に投資が急速に拡大し、結果として設備が余剰となったのは、「主に地方政府所管の国有企業への過大な融資・政府補助等が要因であると考えられる」と結論づけた。融資については、「多くは大型商業銀行や政策性銀行、株式商業性銀行の地方支店で(中略)時に地元企業への融資判断が甘くなりやすい」点が指摘され、「市況と逆行した銀行による過大かつ低利な融資が関係していることが示唆される」とともに、企業への政府補助金の交付元は地方政府が大半を占め「事実上企業の赤字補填および低収益性の企業の延命措置となったことが示唆される」、としている。

 経産省の検証はデータをもとにしたマクロなもので、肌感覚からはちょっと遠い。当時、巷ではミクロに、国営企業だから市況に関わらず、すなわち需給を慮ることなく従業員に給与を支払い続けるために操業を続け、在庫をためて叩き売らざるを得なくなって、世界を大混乱に陥れた、と非難された。これが国家資本主義かと、嘆息したものだ。

 先の『白書』は、「中国中央政府は2000年代から中国鉄鋼産業の過剰生産能力を問題視していた」とも述べている。では何をしたかと言うと、「2005年には国務院『鉄鋼産業開発政策』において、鉄鋼産業の構造調整の必要性が唱えられ、小規模施設の廃棄等が指示されている。また2013年には『深刻な生産能力過剰問題の解消に向けた指導意見』において設備の新規建設の禁止及び削減目標の設定が行われる等、数多に及ぶ生産能力調整政策を実施した」のだそうだ。なんだかまどろっこしいが、これが国家資本主義の実相である。

 また、『白書』は、中国の鉄鋼産業で生じた過剰生産能力問題は、今後は他産業においても生じる可能性があるとして、集積回路産業を挙げているが、太陽光パネルに関しては現実化し、中国以外の競合メーカーが淘汰されてしまった。

 かつて中国が「世界の工場」としてもてはやされ、日本やアメリカやドイツをはじめとする外資が挙って進出し、安い労働力を使って安い製品を世界中に輸出し、世界を潤す一方、それぞれの国内産業の空洞化を招いたのは自業自得で、世界の市況は外資によってそれなりにコントロール出来ていた。ところが豊かになった中国が自律的に自国の経済運営を考え、「中所得国の罠」を抜け出すべく、2015年に「中国製造2025」などと言い始めて、国策として先端技術の国産化を目指すようになると、融資や補助金によって、世界の特定産業に歪みをもたらすようになった。華為には8兆円もの開発費が補助金交付されたと言われ、14億人の国内市場で量産効果をあげて、世界に打って出る頃には、世界の通信機器メーカーに太刀打ち出来るところはなかった。

 カナダを代表する通信機器メーカーだったノーテル・ネットワークスのサーバーがハッキングされ、大量の顧客情報や技術情報が流出したのは2004年のことだった。その後、2009年までにノーテルは経営破綻するが、同社の情報がどこに流れたのか定かではない。確かなのは、結果として華為が衰退するノーテルから大口顧客を奪い、5G移動通信ネットワークをリードする開発人材約20名を引き抜いたという事実である(以上は、2020年7月6日付Bloomberg)。ノーテルは華為のその後の飛躍の跳躍台に使われた可能性があり、その後のカナダの中国との確執もそこに(one of themかも知れないが)根差している可能性がある。

 中国がせいぜい数千万人規模の中・小国家であれば、その国家資本主義的な経済運営が世界経済に整合的ではなくても、影響は限られる。しかし14億人と言えば、EUの3倍近く、平均的な国家規模で言えばゆうに20~30ヶ国に相当し、そんな超大国の国営企業は世界的に見れば独禁法違反と言うべきで(笑)、それを誰も言い出さないのが不思議でならない。その国際経済と整合的ではない経済運営は、原則として自由であるべき経済秩序を脅かし、今や、その教科書的な存在だったアメリカでさえもインフレ抑制法など中国寄りの政策で対抗せざるを得ない始末である。

 欧州委員長の発言を受けて、中国共産党系の環球時報は社説で、「中国の新エネルギー車はドイツで最近開かれた国際自動車ショーで輝きを放ち、羨望や嫉妬の声さえ聞かれたが、われわれは欧州の反応がこれほど『行き過ぎ』たものになるとは予想していなかった」と指摘、「公正な競争を通じて市場を勝ち取る自信と勇気が欧州に欠けているのであれば、EV産業で競争力を確立することは不可能だ」と言い放った(9月15日付ロイター)。中国は、と言うより中国共産党は、プロパガンダを得意とし、福島原発処理水の海洋放出で見られたように、行動はいざ知らず、ウソを拡散して恥じることがない。国際社会にとって整合的ではなく如何に迷惑かを思い知らせるには、アメリカのように体力があるなら対抗措置をとって対立をエスカレートさせるのも結構だが、EUや、また今はまだ中間財を中国に輸出して中国経済のアキレス腱を握る日本などはCPTPP加盟問題で厳しく審査するなど、中国の行動変容を求めて地道に力強く働きかけて行くしかない。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする