風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

韓国擾乱

2024-12-21 10:39:57 | 時事放談

 韓国国会は14日、非常戒厳を宣布した尹錫悦大統領の弾劾訴追案を可決した。尹氏は職務停止され、憲法裁判所が尹氏を罷免するか復職させるか審理することになるようだ。

 忙しない師走に入って、驚かされることが相次いだ。韓国では3日の夜に非常戒厳が宣布され、その僅か6時間後には解除された。まさか戦争か大災害でも起こったのかと訝ったら、さにあらず、尹氏が血迷って、国政を安定的に運用する能力を失ったことを自ら白状するのような(元検事総長にしては)軽挙妄動で、背後の政治闘争にもっと目を向けてあげた方がよさそうだ。韓国の民主主義が機能したと安堵する声が多いが、そもそも「法」の支配よりも「感情」が支配する国であり、反対デモは(報道によればKポップのコンサートのように)若者たちも多く参加して平和的に行われているようだが、国連貿易開発会議(UNCTAD)が韓国の地位を発展途上国から先進国のグループに変更することを可決してから既に3年が過ぎてなお、検事総長出身の尹氏を錯乱!?させてしまうほどの与野党の確執の異常さには、今更ながら驚かされるとともに、相変わらずやなあ・・・とつい溜息が漏れる。そしてシリアでは8日にアサド政権があっさり崩壊した。権威主義体制とは、こういうものかも知れない。習近平氏の中国や金正恩氏の北朝鮮も、ある日、ぷっつり息絶えるかもしれない。習氏も金氏もさぞビビったことだろう。そして、反体制派を徹底弾圧する強権政治と、不満の芽を徹底除去する監視社会に、益々傾くのだろう。

 韓国の話に戻る。

 非常戒厳を宣布した際、尹大統領は野党「共に民主党」が22件もの弾劾訴追案を発議し、行政府を麻痺させていると非難した。確かに弾劾訴追案は報道されているだけでも、省庁トップ、裁判官、検事、放送通信委員長など多岐にわたるそうだ。とりわけ「共に民主党」は党代表の李在明氏など同党の政治家に対する不正捜査や裁判を妨害し続け、自分たちの意に沿わない司法判断をするからといって裁判官や検事を弾劾までするに至るのは、三権分立を脅かすものだ。また、あらゆる議案に反対する一方、スパイ法(国家保安法)の廃止を含め、従北親中の「共に民主党」に有利な法律を多数通過させようともしているらしい。国家機能を麻痺させているのはむしろ「共に民主党」のように見える。

 おまけに李代表には、飲酒運転や検事詐称事件に始まり、対北朝鮮送金、市長時代の大長洞開発不正など複数の疑惑があり、現在5件の裁判を抱えているそうだ。先月には、公職選挙法違反事件の一審で懲役1年、執行猶予2年の有罪判決を受けており、最高裁判決が来年前半にも出るとみられ、憲法裁判所が尹大統領の罷免を決める前に李代表の有罪が確定すれば、10年間、被選挙権が剥奪され、次の大統領選挙に出馬できなくなるという。そのため李代表は、控訴審の弁護士を選任せず、訴訟に関する通知を受け取ろうともせず、訴訟を遅延させることを狙った行為ではないかと与党議員から批判されている。尹大統領の弾劾が決まって、李代表が「次は一日も早く罷免を」と訴えたのは、早く大統領選挙に持ち込みたい自己都合でもあるようだ。

 他方、大統領夫人(金建希)の株価操作や賄賂授受の疑惑を巡って野党の追及が加速し、国会での多数の力で特別検察官の任命を可決すると、尹大統領が拒否権を行使して止めるというサイクルが三度も繰り返されているそうだ。頑なに夫人を庇う尹大統領の姿勢には与党内からも苦言が呈されているようだが、もとより夫人のスキャンダルは国家を左右するほど大層なものではなく、「叩けば叩くほど政権支持率が下がる」類いの、政争カードの一つに過ぎない。その意味では、尹大統領が与党から辞職するよう働きかけられたのを拒み、弾劾訴追を受けて立つと表明したのも、その方が時間がかかり、その前に李代表の有罪が確定する公算が高まると判断した自己都合と見られる。与党・尹大統領と言い、野党「共に民主党」と言い、同じ穴の狢である。

 韓国内のこうしたドロドロの政争は、国内に閉じてやってもらう分には全く構わないが、外交に、とりわけわが国に影響があるとすれば問題である。実際に一回目の弾劾案の結論には次のような内容が含まれていた。「価値外交という美名のもとで地政学的バランスを度外視し、朝中露を敵対視し、日本中心の奇異な外交政策に固執し、東北アジアにおいて孤立を招き、戦争の危機を触発した」。今回の弾劾騒動は、韓国の民主主義が機能したからではなく、いつもの左右のイデオロギー闘争であった証拠でもある。

 こうして、尹大統領が進めて来た親日・親米路線は、当初懸念されていたように、挫折する。尹大統領自身も、歴代大統領と同様に収監か自殺かというような不幸な末路を辿るのだろうか。

 韓国社会の分断は米国のそれ以上であって、三韓時代に遡り、現代の北(朝鮮)、左、右に繋がる歴史的なものだとすれば、根深い。いや逆に、儒教における「正義」の考え方をバックボーンに、地政学的要衝ゆえの「恨」の文化をもつ国だからこそ、党派性から脱却できず、歴史的・構造的なものとなっているのではないだろうか。この「恨」について、呉善花さんがうまい説明をされていた。「韓国の『恨』は、韓国伝統の独特な情緒です。恨は単なるうらみの情ではなく、達成したいけれども達成できない、自分の内部に生まれるある種の『くやしさ』に発しています。それが具体的な対象をもたないときは、自分に対する『嘆き』として表われ、具体的な対象を持つとそれが『うらみ』として表われ、相手に激しく恨をぶつけることになっていきます」(文春新書『朴槿恵の真実』から)。

 そして、尹大統領が懸念するように、北は南の党派対立を陰で煽っていることだろう。ロシア、中国、イラン、北朝鮮の枢軸が形成されつつあるややこしい時代に、朝鮮半島の南ではコップの中の争いが西側の足並みを乱す、困った国だ。これは韓国人の民度を示すというよりは、他国の影響を受けやすい半島という土地柄のもたらす不幸と言えるのかもしれない。尹大統領が無理をして来ただけに、その反動は如何ほどのものになるのか、私たちには想像もつかないが覚悟しなければならないのだろう。

 朝鮮半島は、日清・日露戦争当時も、朝鮮戦争当時(と言っても現在まで続いているが)も、今も、日本にとって頭痛のタネであり続ける。

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