医師が医療ミスをしても、それを彼らが自ら公表する義務はない。
医療というサービスは、どんな治療にもリスクがあり、結果が不確実だ―――
といっても、全ての治療が同じくらいリスクがあり、不確実と言うわけではない。
初歩的な、例えば胎児の状態を見る機器の、データの読み方とかでの
ミスを、繰り返す医師もいる。
そして彼らは、同じようなミスを繰り返し、胎児や妊婦の命を奪っている―――
このようなメッセージを、もう少し感情的に、具体的に、訴訟プロセスを
紹介しながら書いている本。
医療訴訟を主に手がける弁護士。
個人的ネットワークから、「この訴訟しようとしている相手は、他の依頼主と同じだ」
といった感覚で「リピーター医師」の存在を知ったと言う。
彼の主張では、なぜリピーター医師がいるのか、という問いに
・「医師賠償責任保険」によって、医師は年間5万1千円ほどの保険料で、
訴訟、賠償にかかる費用を1億円まで保証してくれる
・(刑事裁判でなく)民事裁判で被害患者と医師が争ったときは、
被害患者が勝訴しても行政処分(医師免許剥奪など)にはならない
→2003年の「厚生労働大臣医療事故緊急対策アピール」で、行政処分の対象になる方針を発表、
しかし実際は、(医道審議会などの検討を見ると)民事裁判の争点などを
行政処分の基準に照らし合わせるのは困難、なかなか出来ない、というような具合らしい
・医師は、国家試験で医師免許を取得しても、その後の研修義務はなく、
免許更新などのシステムもないため勉強しなくてもいい
・現在、カルテの改ざんは刑法上の罪(文書偽造罪)にはあたらない。
証拠の隠蔽などが簡単に行える状態
といったことを挙げている。
要は、患者が医師を信用して身体を切られたり薬を投与されたりということを
出来ない状況がある。医師の、医療の質の保証を、ということだ。
そしてこの思いに至った、いくつもの事件を詳細に列挙し、「裁判」で
どのような手続きを踏み、裁判上には医療訴訟がどのような問題があるかを訴える。
本の感想は・・・
まず、以上のような訴訟は、大半が産科への訴訟であり、そこで行われるのは
「治療」とはあまり思われない。たとえば「介助」というような感じ。
だから患者側のリスクや不確実性などの意識が低い。
あと、決定的なのは、お産による「もたらされるべき幸福感」だと思う。
妊娠は病気ではなく、お産は治療ではない。
その後に待っているのは、苦痛からの解放とか安心感ではなく、幸せな家庭、とか
そういうものなのだ。
だから、それが阻害されたときの「なぜ(私たちだけが)!?」という思いは強い。
紹介されている2、3件の「リピーター医師」の様子は確かに目を覆いたくなるもの。
ドイツやフランスでは、日本の医師会に当たるような、職業団体(強制加入)が
行政処分に当たるような、自浄機能をもっているらしいが、
日本の医師会は強制加入でもなく、ミス後の指導や研修体制もない。
だから・・・
私は、訴訟ではなく医師団体の中での処罰みたいなものが機能すべきだと思う。
「過去のミスを公表しろ」と著者は言うが、それでは
それこそ、リスクの高い治療をする医者はいなくなるだろう。
あとは、産科に限って言えば、出産期の高齢化が本当にリスクの高い出産を増やしているのだと思う。
何人も産めるわけでもなく、「ようやく授かった」子供、というケースも多くなる。
だからといって、女性の出産時期が今後早くなるだろうか、といったら難しい。
そこでは、昨日厚労相が発表した、「産前の定期健診」に対する全額補助なんかは
正攻法的な施策だろう。
にしても、「赤ちゃん」と連呼するのは、他の専門用語が並ぶ中で違和感があった。
ですます調の文体にも・・・。非常に感情的な印象。
それでも、(仕事に関係なかったとしても)読んで損はない本。