今年、後半に読んで印象に残った本。数冊レビューしたい。
『経済学に何ができるか』猪木武徳
おそらく読んだのは2回目だが、新鮮な発見があった。
まずは、アダム・スミスが言った「2つの人間類型」。ひとつは野心・虚栄心に突き動かされる「弱い人」、ふたつめは公正で醒めた判断と行動をする「賢い人」。文脈的に、弱い人を非難する展開になりそうだがそうではない(これがオルテガと違うところ)。経済は、前者「弱い人」が繁栄させたというのだ。野心・虚栄心から富の増大を目指し、世間一般の評価を気にしてさらなる富を目指す。近年のデフレは、もしかするとこの「弱い人」が減ってきたからかもしれない。消費行動などで「賢くなれ」と教育される私たちだけど、みなが賢くなった社会には、もしかすると市場原理とは違う消費の仕組みが(経済の安定のために)必要かもしれない。
もうひとつ、強く心に残ったこと。「中間組織の役割」だ。民主主義の進展、個人主義の浸透で、平等化は進んだのかもしれないが、ひとりひとりはより無力になった。個人は弱いのだ。自分自身が、その当たり前に見える事実を直視してこなかったことに気づいて愕然とした。だからこそ、今の時代だからこそ「中間組織」が必要なのだ。それが企業でもいいし、コミュニティーでもいい。associateすることで力を持てるし、共同の善を追求できる。権力に対峙したり、精神的な敵(アルコール依存症など)にも力を発揮できる。
今の時代にこそ中間的組織が必要ーーー何に属せばよいのだろう。ひとつは企業である。日本でその帰属先はおそらく一番身近である。企業の「コミュニティ性」は弱まってきているとはいえ、ゆるやかにつながりやすい場所である。私が仕事で接する人たちは、学校にも企業にも属してこなかった、家族にさえ「属している」と思えなかった人も多い。彼らの感じている孤独感が少し理解できたように思えた。彼らにこそ、企業(仕事)、そして何かに属するという経験(それはうちの団体自体に、会費を払ってつながるというのでもよいと思う)が必要だし、私がそれを必要と思うのもこういう理由からだったのだなと納得できた。