亀井幸一郎の「金がわかれば世界が見える」

マクロな要因が影響を及ぼす金(ゴールド)と金融の世界を毎日ウォッチする男が日常から市場動向まで思うところを書き綴ります。

入札急増 米国債消化の行方 

2021年03月22日 23時39分33秒 | 金融市場の話題
先週末19日に注目されたのは、米連邦準備理事会(FRB)が午前中に発表した、「補完的レバレッジ比率(SLR)」と呼ばれる銀行の自己資本比率を規制する措置の一時的執行停止を止めること。つまり規制を元に戻すというもの。リーマンショック後の国際金融危機後に、大手銀行が過度のリスクを取る投資に走ったことで資本が傷つき、金融危機に至った反省から設けられたもの。新型コロナパンデミック(世界的感染拡大)による金融経済の混乱の中で、この規制を1年間の期限付きで解除し、銀行が国債を保有しやすくしていた。ちょうど1年前、感染拡大阻止を目的に世界同時多発的に経済活動が停止され、金融市場の資金流入も干上がった状態となり、米国債の取引も極端に細る事態に至った。その結果、価格は乱高下し正常な市場機能が失われた際に、緊急避難的な措置としてFRBは緩和措置を講じていたもの。早くも1年が経過し3月末に期限が到来することになっていた。市場は当時と比べ「安定した」と判断し、予定通り3月末で終了すると発表したもの。

折しもインフレ懸念の高まりや、FRBの緩和策の早期終了観測から国債が売られ、長期金利の上昇に市場が神経質になっているタイミングでもある。銀行が国債の持分を減らす可能性のある決定ゆえに、さらに長期金利を押し上げるとの懸念が市場で高まるのはもっともなことだろう。発表後に10年債利回りは1.75%に接近したものの一時的な動きで、その後低下した。結果的に懸念されたほどには、市場の反応はみられなかった。この日の動きをみる限り懸念は杞憂(きゆう)に終わったことになるが、債券市場の置かれている環境は前年に比べ大きく変わっているのも確かだ。それゆえ、これからも荒れる可能性は否定できない。

まず新発債の発行が絶えない。言葉を変えれば大量入札が毎週行われている状況にある。米国の財政赤字は急膨張している。米財務省の発表では2月単月で3109憶ドルの赤字は、前年同月比32%増で過去最大となった。9月に始まった2021会計年度の赤字額の累計は2月までの5カ月間で累計1兆0467億ドル(約114兆円)と、こちらは前年同期比68%増。

21会計年度が終わる9月末までに2兆3000億ドルまで膨らむ予想とされるが、すでに意味を成さない予測になっている。なぜなら、この中に1.9兆ドルのアメリカ・レスキュー・プラン8追加救済法案)の1.9兆ドルは含まれてないからだ。このところの米長期金利の上昇には、単に大型救済プランのコアの政策1人あたり1400ドルの現金給付などによる個人消費の高まりからくるインフレ見通しや、経済過熱がもたらすFRBによる緩和策の想定より早い方針転換、つまり引き締めへの転換を読んでのもの以外が含まれている。それは、債券需給の悪化ということ。大量発行は、早晩壁に突き当たることになるのではと思われる。

債券需給のゆるみは、いずれFRBの市場介入を必要とする事態に至る可能性がある。バンクオブ・アメリカの予想では、今年の2年から30年債の発行予定額は2兆8000億ドルとされる。昨年は1兆7000億ドル、19年は9900憶ドルだった。一方、現時点でFRBが買い取る国債の予定額は、これすなわち量的緩和策の毎月800憶ドルなので、21年は×12カ月で9600億ドルとなる。内外投資家が2兆ドル近く入札で消化に協力してくれないかぎり、安定的な発行は難しい。こうして考えてくると、「補完的レバレッジ比率(SLR)」の適用緩和は、延長しても良かったということになるのかもしれない。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 金利高耐性を感じさせる金の上昇 | トップ | トルコ・リラ急落と金の関係   »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

金融市場の話題」カテゴリの最新記事