バッハオーフェンは、母権制の痕跡として、古代ローマの「袋詰めの刑」に注目している。殺人はすべて「親殺し」とされ、罪人は犬、蛇、雄鶏、猿とともに袋詰めにされて、川や海に流される。彼は、母なる大地から締め出されてしまうのだ。なぜなら彼は、「人はみな母なる大地から生まれ、母なる大地へと還る」、という自然の秩序を破壊してしまったのだから。
「古代においては、死刑は破壊された自然の秩序を回復するための供犠だった」、というバッハオーフェンのこの主張は、阿部謹也先生によって「刑吏の社会史」の中で引用されている。
「処刑される者の血が大地に触れてはならない」、という観念は、世界各地で見られる。フレイザーの「サイキス・タスク」に数多くの実例が収録されている。もしも血が大地に流されたら、作物は実らず、家畜は子を産まなくなる。そのように人々は考えるのだ。
ヨーロッパで17世紀に猛威をふるった魔女狩りにしても、そうだ。魔女を火あぶりにしたあと、灰は必ず川へ流したという。キリスト教の時代になっても、母なる大地という古代からの観念は、生きていた。