リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

プレリュード・フーガ・アレグロのヘ長調編曲(4)

2022年03月20日 20時16分45秒 | 音楽系
996の嬰ヘ短調版はそのうちやってみようと思いますが、話を998に戻しましょう。今回の見直しアレンジではとにかく実用的であることを念頭に置きました。バスのラインはできるだけ開放弦を多用して、オリジナルと同じバスのラインは求めないことにしました。

実際ヴァイスにしても例えばソナタ28番(名だたる海賊)のプレストの10小節目や後半冒頭のバスの動きなんかオクターブ飛びまくりです。そういう動きこそがリュート的だと当時は多分認識されていたようで、それはバッハの「リュート作品」の中にいくらでも例を認めることができます。

以前のヘ長調版ではとにかく完全にオリジナルと同じバスライン、もちろん上声部も1音たりとも省略しない、という方針でした。ギター編曲では物理的に不可能な部分はあっさりと声部を捨ててしまうというをやっていますが、そこは本家?のリュートです。そんなわけにはいきません(という意地もある?)。ただ実はそれでもその方針を100%貫くという訳にはいかず、3音くらいバスをオクターブ下げました。

今回は同じヘ長調でもバスを積極的に開放弦で弾いたりオクターブ上げるという処置を施したために、左手の負担は大幅に減りプレイヤビリティはかなり上がったと思います。それでもまだリュート奏者が作った曲と比べると難しいところが多いし、リュートの「美味しいところ」を使ってない(使えない)ところが多いです。

【謹告】

2022年03月19日 10時18分02秒 | 日々のこと
例年4月1日の当ブログではヨタ話を掲載しておりますが、本年は世情を鑑み掲載しないことに致します。2004年12月にバーゼルの風としてブログを開設して以来、4月1日休載は3度目ですが来年は掲載できることを願っています。ネタはいっぱいあるのですが・・・

プレリュード・フーガ・アレグロのヘ長調編曲(3)

2022年03月17日 11時04分58秒 | 音楽系
ホピー(ホプキンソン・スミス)のレッスンを受けているとき、

「この楽譜、イタリアの出版社から今度出るんだけど、今生徒でバロック・リュートに取り組んでいるのはショージだけだから一部差し上げましょう」

ということで996の楽譜を頂きました。編曲はヘ短調でした。まぁ彼はこの調で録音しているので当然楽譜も同じ調です。

「私はこの曲は嬰ヘ短調がいいと思っているんですけどね」

なんて無礼にも楽譜をくれた師匠の編曲にケチをつけてしまいました。

これは私の「1音上コンセプト」に基づくもので、996はオリジナルがホ短調ですから1音上の嬰ヘ短調ということになるわけです。

「おー、でもその調ってうまくいくのかい?」
「多分行くと思います。ラ、レの開放弦が使えるし、1,4コースのファ(ナチュラル)は、嬰ヘ短調の導音であるミのシャープとして使えます」
「なるほど・・・」

実はエラそうにコンセプトをぶち上げたのですが、一部を嬰ヘ短調に直してみたものの全曲編曲するには至りませんでした。

ところが昨年の春頃にエバンジェリーナ・マスカルディというイタリア人女性リュート奏者がYouTubeに上げた996は嬰ヘ短調で演奏しているのです。この調を使って弾いている人はいなかったので、このときはひょっとして私の「1音上コンセプト」と同じ考えで、これは先にやられたかと思いましたが、どうもそうではなかったみたいです。

エバジェリーナはここ20年来頭角を表してきた実力派で、ホピーがスコラ・カントルム退官した後の後継者として最も有力な候補と目されていました。私も彼女なら間違いないと思っていたのですが、いろいろ事情があったんでしょう、実際はユリアン・ベールがホピーのあとを継いでいます。

プレリュード・フーガ・アレグロのヘ長調編曲(2)

2022年03月17日 11時04分58秒 | 音楽系
このヘ長調版、実は私がバッハ作品を演奏するにあたって、「1音上」の調で全て演奏してはどうなのかという統一コンセプトの一環なのです。2013年のリサイタルで、995番をト短調からイ短調で演奏したのもその流れです。

これは当時のリュート奏者たちのピッチがかなり低くバッハの使っていたピッチより1音低かったのでは、という私の仮説に基づいています。

例えば997番はハ短調、998は変ホ長調、999はハ短調、ヨハネ受難曲のアリオーソのリュートパートも変ホ長調、これらの調は別にリュートで稀な調というわけではありませんが、揃いも揃ってちょっと響きにくい系の調がならんでいます。よく見てみると全て1音上はバロック・リュートに都合のいい調ばかりです。

これはもしや、と思った訳です。リュート奏者のピッチが低めだったのは1,2コースの弦が切れにくくなるようにするということだったと考えました。リュート奏者的なニ短調調弦はバッハにはハ短調調弦の楽器に聞こえていたというのが私の仮説です。でもこう考えたら全ての曲がすいすいと演奏できるようになるかというとそういうわけではないところが難しいところです。

戦術核

2022年03月16日 10時46分04秒 | 日々のこと
ウクライナは今大変なことになっていますが、膠着状態から脱するためロシアが戦術核を使う恐れも出てきたという報道がありました。戦術核というのはWikiによりますと;

米ソ間の核軍縮協定などでは射距離500km以下のものが戦術核兵器であると定義されている。
この分類は使用目的と運用方法によるもので、必ずしも核弾頭の威力の大小とは一致しない。

とのことです。新聞なんかでは低出力の核爆弾なんて書いてあるものですから、それなら通常兵器で攻撃しても変わらんじゃん?と思っていたのですが、実際は広島や長崎に落とされた爆弾と同じくらいの出力らしいです。

これは何メガトンもある核爆弾に比べて低出力、あくまでも相対的に低いということで、広島・長崎級の核爆弾が現代では「小さい」「低出力」であっても被害はやはり甚大です。

核軍縮というのも広大な地域を遠く離れたところからICBMでブチ込むとか巨大爆撃機で落とす核爆弾に対してだけらしく、いわゆる戦術核というものに対しては行われていないようです。今朝読んだ新聞に載っていたのですが、知りませんでした。戦術核ってちっちゃな核兵器だとばかり思っていましたが、実際は広島・長崎級です。やはり通常兵器の破壊力とは桁が違うわけです。そりゃそうです、通常兵器で出来ることだったら何も核兵器を使うことはないですから。

そんな恐ろしいものを絶対に使わせてはなりません。ただ一発使っただけで世界が破滅に陥るとか第3次世界大戦勃発だ、とわめくつもりはありませんが、世界はかなり混乱に陥ることは間違いなく、戦後のことを考えるとロシアにとってはかえって不利なんではないかと思います。ロシアにはここは冷静に考えてもらいたいと思います。でもそもそも冷静に考えていたらウクライナ侵略はしなかったでしょうから、怖い話です。

プレリュード・フーガ・アレグロのヘ長調編曲(1)

2022年03月15日 17時45分37秒 | 音楽系
バッハのプレリュード・フーガ・アレグロBWV998は変ホ長調で書かれています。この曲は私がBWV1000の次に手がけた曲で、大昔の編曲譜には1976年と書かれているので、何と46年前ですねぇ。

このときは原曲の変ホ長調で書きました。とても弾きにくいところが多く、加えて当時使っていた日本製のバロック・リュートではこの調はあまりきれいに響いてくれませんでした。

その後知り合いのリュート奏者がニ長調版を出版したので弾いてみましたが、あまりしっくりとこないし、いつの間にかその後あまり演奏することはなくなりました。

2016年の「Bach on Lute」でオールバッハプログラムを組んだとき、998をプログラムに入れることにしました。このときはぐっと下げてハ長調です。ハ長調版は都合のいいところも多いのですが、メロディのラインが低すぎるというのが気になりましたが、まぁこの版でリサイタルは演奏しました。

実はこのリサイタル用にヘ長調版を作ってリサイタルに臨もうとしていたのですが、「完全版」を目指そうと全てのバスを原音と同じポジション(つまりバスをオクターブ上下しない)で書いたものですから左手にかなりの負担がかかっていました。

このまま練習を続けたら左手が持たないかも知れないと判断して、急遽ハ長調版を作って演奏したのでした。今思うとヘ長調版を改良すればよかったのですが、なぜかそうしませんでした。

90年代の作品(26)

2022年03月14日 17時48分08秒 | 音楽系
まだまだあります90年代の作品。

今回は演劇「人形館」のテーマ・ミュージックです。1991年9月頃の作曲、音源制作です。11月の文化祭で行う演劇「人形館」のための音楽を沢山制作しました。「人形館」とはWikiによりますと、1978年、東京都豊島区立雑司ヶ谷中学校演劇部と渡辺茂によって作られた、とあります。学校の図書館にあった演劇集の本から選んできたと聞いていました。

ウィキペディア「人形館」

本曲はサビから始まり、AメロBメロと続きます。Bメロでは何度か転調を繰り返し盛り上がり、サビにつながります。そして「ガラスが割れる音」とともに最後のサビが半音上のキーに転調します。(4:00あたり)その後フェイドアウトします。

この曲は序曲でもありますので、舞台の緞帳が下がっている状態で始まり、3:30あたりで会場が暗転、緞帳が上がります。ステージは暗転のままです。そして3:50あたりでステージに置いてあるガラスの人形ケースにスポットライト、4:00の「ガラスが割れる音」と共に中に入っている人形がガラスを割って出てきます。そして音楽のフェイドアウトとともに主人公の少女にスポットライトがあたり、モノローグ、という少し凝った趣向になっています。

渡部茂氏のシナリオには、歌の指示がいくつかあり歌詞が書いてありましたので、それらにも全てメロディを付けて編曲した音源も制作しましたが、それは残念ながら残っていません。でもいくつかは覚えています。「くさってる」(くっくっくっくっくさってる、くっくっくっくっくさってる、人間なんてみーんなくさってる)と「裁判だ」(さいばんだ!さいばんだ!・・・)は覚えていますがもっとあったかな?全体がミュージカル仕立てなので沢山音楽を作ったのは覚えています。楽譜は多分残っているとは思いますが。

Wanna be a doll (人形館のテーマ音楽)

みんなのリュート通奏低音(10)最終回

2022年03月13日 16時59分31秒 | 音楽系
ここまで駆け足で少し抽象的な内容もありましたが、ここからがやっと通奏低音の入り口になります。このくらいできてやっと通奏低音をやっていく体制が整ったということです。

できそうもないことを並べ立ててお前は通奏低音をアマチュアに弾かせないようにしているんだろう、なんて思った方もいらっしゃったかも知れませんが、そうではありません。物事には積み上げが必要であり、必要なことをすっとばしてできるようになることはありません。

何もハーモニーを理解せずソロフレーズの蓄積もないのにジャズのアドリブはできません。ロックの華麗なギターソロも指の俊敏さを養わないとできません。クラシックギターのアルハンブラの想い出もトレモロ奏法をきちんとイチから練習しないとできるようにはなりません。そしてこれらはいずれもそう簡単なことではありません。リュートの通奏低音も然り。

私は意味不明のジャズのソロ、よたよたのロックギターのソロ、ボッツンボッツンの指もつれトレモロのアルハンブラのような通奏低音を聴くにつれ、大変残念に思ってきました。また反対に通奏低音に近づこうともしない方も残念に思っていました。

いずれの場合も演奏をするという行為と正面から向きあっていません。ですからどうしても知識偏重で頭でっかちになりがちです。(リュートは他のモダン楽器などと比べると幸か不幸か「暗記事項」が多いのです)どうかアマチュアの皆様には健全な演奏をめざすべく、これまでにあげたポイントを少しずつでもいいですから取り組んでいっていただきたいと思っています。始めはあまり成果が出ず途切れ途切れの演奏になってしまうかも知れません。でも取りあえずはそれでいいのです。本連載で挙げたことに取り組む姿勢があれば、それが通奏低音、ひいては演奏そのものの上達への近道につながることだと思います。

みんなのリュート通奏低音(9)

2022年03月12日 17時42分37秒 | 音楽系
ハーモニーの勉強は通奏低音を行うにあたってとても重要です。ハーモニーを勉強するとなると、きちんと勉強しなければと和声学の本を買ってきて読んで、三和音はこういうものだ、セブンスはどうだ、転回形はこんなのが、なんて頭に詰め込んでいる方がいます。真面目な姿勢はとてもいいのですが、そもそも順序が間違っています。まず実際の曲を沢山弾き(曲体験)そして調べ次に和声の本にあたるというのがスジです。

曲体験というのは弾いた曲数とそのために使った時間のかけ算です。和声の勉強するというには曲体験が少なすぎるという方が多いです。また和声学の本はこれさえマスターすれば全てがわかるという魔法の経典ではなく、単に和声に関する整理とまとめをした本にすぎないということも知っておく必要があります。。

またどういう和音がつながって曲が構成されているかを知ることもとても重要です。これは曲を弾いてみたり、楽譜を見ながら演奏を聴いて和音のつながりを理解するというのが実践的で有用です。バロック音楽の場合は特徴的な和音の流れがありますのでそれらを理解し直感的に分かる必要があります。

ここまでは和音の「認知(recognition)」に関することです。次に重要なのは和音の「再構成(reproduction)」です。これは覚えたバロック音楽的な和音のつながりを楽器で再現することです。これはこのシリーズで述べてきた実践的な事柄がベースになります。どういう和音なのか、どう和音がつながるかという認知とそれを自分で再構成できるようにするスキルが必要です。
(済み)

{ポイント8}
机上の和声学ではなく実際的な和声学を!


確定申告

2022年03月11日 11時49分21秒 | 音楽系
昨日確定申告を済ませました。いつもは国税庁のHP作成しそれを印刷して市の税務署に持って行ったのですが、今回からデバイスなしでeTaxができるとのことでしたのでそちらを選択しました。

デバイスの代わりにマイナンバーカードとスマホを使っていくようでしたので、HPの説明通りに進めていきました。まぁ結果としてできましたが、結構煩雑でした。煩雑になった理由は、そもそもHPからの申請方法が何通りもあって、さらにその説明が冗長であることだと思います。途中で確認のためガイドビデオを見ましたが、これがまた冗長の極み。画面にお二人が登場して対話形式で説明を始めるわけですが、そもそも対話形式である必要は全くありません。ビデオはお二人の自己紹介から始まるのですが、別にお二人がマツイさんだろうとタナカさんであろうとどうでもよろしい。You Tuber 作ってもらった方がよかったのでは。こういうのが上手なYou Tuber は一杯いますのでコンペでもしたらよかったのに。

マイナンバーカードは数字4桁の暗証が3つか4つ設定されて、さらに6文字以上の英数混在の暗証も必要で煩雑極まりありません。デバイスなしのeTaxもなんかガイダンスがごちゃごちゃしています。これってそもそもデバイスがないとeTaxできなかったというスタート時から誤っています。最初から今のデバイスなし方式でやればよかったのです。多分、この方式はある程度ITのスキルを持っている人でないと難しいので普及しずらいのでは。ひょっとしてまだデバイスが売れないといけないので、デバイスなし方式のeTaxをわざと少しわかりにくくしているのかも知れませんよ。