院長のへんちき論(豊橋の心療内科より)

毎日、話題が跳びます。テーマは哲学から女性アイドルまで拡散します。たまにはキツいことを言うかもしれません。

漫画家・つげ義春さん

2013-03-24 00:18:36 | 漫画
 漫画家、つげ義春さんの名前を知っている人は、よほどの漫画マニアかけっこう年配である。

 昭和40年代に「ガロ」という漫画雑誌があった。白戸三平さんが忍者ものを描いていた。ちょうど漫画より写実的な「劇画」が登場したころで、さいとうたかおさんの「ゴルゴ13」もこのころ始まった。

 つげ義春さんはこの「ガロ」に何篇か読み切りを寄せた。漫画ファンだった私は、こんなに面白い作品はこれまでになかったと思い、毎月「ガロ」が発売されるのを心待ちにした。

 つげ義春さんは水木しげるさんのアシスタントをしていた人で、背景の茂みは水木さんと同じく詳細に描きこまれていた。

 作品で印象に残っており、かつ世評もよかったものが「李さん一家」、「紅い花」、「ねじ式」である。「紅い花」はテレビ映画化もされた。

 だが、その後のつげ義春さんの消息は分からない。昭和60年ころ20年ぶりに漫画集を出したが、さして面白くなかった。伝え聞くところによると、つげ義春さんは神経症で、耐久力がないらしいとのことだった。

 世間では「ねじ式」が最高傑作だと、おおいに讃えられたが、高校生だった私にはそうは思えなかった。実験作としてなら、夢のような不条理や脈絡のなさを漫画にした功績はあるけれども、大衆作品としての面白さはなかった。あれ以上の実験はさらにわけが分からなくなるだけで、事実、つげ義春さんはそこで行き詰まった。

 「ねじ式」の冒頭に出てくる正座をした男性の細密画は、アイヌ団体会長の写真の模写である。この写真は当時の「文芸春秋」誌の見開きに掲載されたものである。これまで誰も指摘しないから、私がここで指摘しておく。(当時、他人の写真作品を絵画に模写するのは盗作と言えるのではないかという議論が、油絵の世界であった。)

 話を戻すと、「ねじ式」は新し物好きの連中が高く評価しただけで、作品としては面白くない。やはり「紅い花」が最高傑作であると私は思う。赤い花によって少女の初潮を示し、少女のエロチシズムをあそこまで描き切った作品を、小説の世界にも映画の世界にも私は知らない。漫画という表現形態をもってして初めて可能だったのではないかと私は思っている。

 「ねじ式」という前衛が称揚されたのは、当時さかんだった学生運動と無関係ではないだろう。学生運動家は前衛を好んだ。これは世界的な風潮で、ビエンナーレ(という国際的な美術展)にも今思えばわけの分からない「作品」がたくさん出品された。

 そうした中、私は希望に燃えて大学に進学していったのだった。