院長のへんちき論(豊橋の心療内科より)

毎日、話題が跳びます。テーマは哲学から女性アイドルまで拡散します。たまにはキツいことを言うかもしれません。

一流に疲れる・その2(酒場放浪記)

2013-03-28 05:30:38 | 社会
 高度経済成長が進むにつれて、これまで特別な日にしかしなかった外食が日常的に行われるようになった。

 料理漫画「包丁人味平」が始まったのが1973年、5分間のテレビ番組「食いしん坊!万歳」が始まったのが1974年である。庶民の料理に対する興味は高まっていき、1983年から始まったグルメ漫画「美味しんぼ」は空前の大ヒットとなった。

 私がグルメという言葉を初めて知ったのもそのころだった。患者さんが「今日はグルメを食べてきた」と言った。グルメとは料理のことかと調べてみて、料理ではなく食通のことだと知った。

 老舗のレストランや料亭はもとより、続々と新規の店が開業し、それぞれに味を競うようになった。

 こうして庶民の料理への欲望はさらに膨らみ、テレビ番組「料理の鉄人」などが高視聴率を得た。現在でもグルメ番組は続いている。それらはレポーターを店に走らせて、一流の料理をさもうまそうに食べるシーンを流している。

 話は変わるが、BS月曜日午後9時からの「酒場放浪記」という番組がとても面白い。俳人の吉田類さんが、東京や地方のなにも特徴のない居酒屋を訪問して酒を味わうという、ゆるーい番組である。

 名もない居酒屋だから特別な酒が置いてあるわけではない。料理も素人が間に合わせに作ったような料理だ。ひどいときには電子レンジでチンしただけの料理が出てくることもある。こだわりなぞとは無縁である。

 レポーターの吉田類さんが、その料理をうまいうまいと言って食べる。女将の心づくしの料理だなぞと世辞を言うこともある。この番組は、ついつい引っ張られて見てしまう。

 思えば私たちがいつも行くのはこのような居酒屋ではなかったか。芋の煮っ転がしやレバーのカツが出てくるような一流でもなんでもない店である。そのような居酒屋をただ淡々とレポートしているから惹かれるのだろう。安心できるのだ。

 この番組は、現在みな再放送である。5,6年前のビデオを流している。当時は注目されなかった番組なのだろう。それが今、注目されるのは、私たちが一流料理人たちのこれでもかというパフォーマンスに疲れてしまったからではあるまいか。

 豪華な一流料理に食傷してしまうと、私たちが戻るべき店はこういうところなのだと思い出して、ほっとするのである。