院長のへんちき論(豊橋の心療内科より)

毎日、話題が跳びます。テーマは哲学から女性アイドルまで拡散します。たまにはキツいことを言うかもしれません。

動物モデル

2013-03-26 00:22:41 | 学術
 実験動物として有名なのは、ヌードマウスである。このマウスは毛がないからそう呼ばれるのだが、毛がないことがこのマウスの特徴ではない。

 このマウスには免疫機構がない。だから、無菌室で育てなくてはならない。免疫機構がないから、他種の動物の組織を移植しても拒否反応を起こさない。そのため、がん細胞を移植して観察することができる。

 ほかに私が知っている動物モデルに、キンドリングマウスがある。このマウスは、空中に放り上げると、てんかん発作を起こす。このマウスに、抗てんかん薬を投与すると、一回放り上げても発作を起こさなくなる。この性質を利用して、何回放り上げるとてんかん発作を起こすかによって、発作を起こす閾値が計測できるようになった。

 私の恩師、故青木久生先生は、家系的に高血圧症を起こすラットを開発した。このラットによって高血圧症の治療が格段に進歩した。青木先生はこのラットによって世界的に知られ、このラットは青木ラットと呼ばれている。

 東大の精神医学グループは、猿で統合失調症のモデルを作った。覚せい剤中毒者がしばしば統合失調症のような症状を呈することから、猿に覚せい剤を注射し続け、猿が一見、慢性の統合失調症のようになるようにして観察した。しかし、この猿は本当に統合失調症になったのか証明できなかった。青木ラットのように遺伝しないから、その都度覚せい剤を投与しなければならず、現在ではこのような猿を作っているとは聞かない。

 私が20代のころ、マウスでうつ病モデルを作ろうと一生懸命になっている先生がM大にいた。彼はマウスを輪の中で強制的に走らせ続け、マウスにストレスを与えた。だが、私はこの努力はうまくいかないだろうと思った。なぜならば、うつ病はストレスだけが原因ではないから。もう一つは、マウスを走らせ続けることが必ずしもストレスになるとは限らないから。

 4,5年でその先生は、うつ病マウスを作るのを諦めた。あれから30年以上、うつ病マウスはまだできていない。そして、うつ病マウスを作ろうとしていた先生が昔いたことを、もう誰も知らない。