院長のへんちき論(豊橋の心療内科より)

毎日、話題が跳びます。テーマは哲学から女性アイドルまで拡散します。たまにはキツいことを言うかもしれません。

致死量とはなにか?

2014-09-05 00:07:27 | 生物
(創元推理文庫)

 青酸カリはごく少量で死にます。むかしの睡眠薬は一瓶飲めば死ねました。現在の睡眠薬はいくら飲んでも死ねません。一晩二晩ぐっすり寝て、それで何事もなかったように覚めてしまいます。

 少し前には大量服薬が流行り、それは若者のあいだでOD(over dose)というスラングで呼ばれて、私はしょっちゅう救急科に呼ばれてうんざりしていました。ODが流行ったのは、現在の睡眠薬では死なないということが知られたからです。「死なないから」ODをやる。「生命の危険がないのに、周囲を大騒ぎさせることができる」ODという方法をとる若者を私は卑怯だと思いました。もっと命を賭けた切実な行為なら同情すべき面もなくはなかったのですが。

 「致死量」とよく言われます。死ぬのに十分な薬物の量ですが、この量の意味は意外に知られていません。たとえば青酸カリなら10gでも100gでも死ねます。こうした十分量を致死量と考えている人が多いのではないでしょうか?

 また反対に、致死量とは死ぬ最小の量と考える人もいるかもしれません。実はいずれも違います。それは致死量には個体差があるからです。ある人には致死量でも、別の人は死なないかもしれません。そのため、致死量とはどういう量なのかが曖昧なのです。

 そこで考え出されたのが「LD50」(lethas dose 50)という考え方です。これは多数の生物個体に同量の毒物を与えたときに、ちょうど50%の個体が死ぬ量です。このような量なら、だいぶ幅を狭く決めることができます。

 医学部の薬理学の講義でこの概念を知ったときに、私は目から鱗が落ちたのでした。