(人工内耳の構造。日本耳鼻咽喉科学会のHPより引用。)
人工内耳の装着手術件数が年々増えています。手術をすると聾者は耳が聞こえるようになるので、その効果はたいへん期待されています。
そんなに聞こえるようになるなら、手術をどんどんやればいいじゃないかという声が聞こえそうですが、ことはそんなに単純ではありません。
学習院大学の滝川一廣教授は、聾者の内言語世界がすでに手話で確立されている場合、そこに音声言語という異質の内言語を持ち込むことには慎重であるべきだと指摘しています (2007-10-02) 。
中部地方で最も人工内耳に詳しいあいち小児保健医療総合センターの服部琢医師は、音声言語が獲得される発達段階の幼児の年齢月齢と、人工内耳埋め込み手術の最適時期を慎重に検討しておられます。彼は人工内耳によって幼児が音声言語を獲得するのに、手話の習得はかえって妨げになるのではないかと推測しています。
ここで再び手話禁止論が台頭してくる可能性があります。
ボランティア精神で手話を学ぼうとしている人はたくさんいます。それならついでに、過去において手話容認派と禁止派の対立が聾教育界であったことや、現在、人工内耳の発達によって、手話習得の弊害が考えられるようになってきたことにも注意を向けていただきたいと思います。
註:滝川教授の所論は「そだちの科学9号」に載っています。本書には服部琢医師の記述もあります。この雑誌は現在でも入手可能です。