(北方四島の海洋生態系。自然保護協会のHPより引用。)
野生動物がけがをすると、もう自然界では生きていけません。他の肉食動物に食われるか、蟻などの昆虫にやられます。
肉食動物は手負いの個体や子どもの個体なら襲いやすいから襲います。善悪の問題ではなく、肉食動物も生きていかなくてはならないから、そうします。そうでないと、今度は肉食動物が絶滅します。これがいわゆる「自然界の厳しい掟」であって、今風の言い方なら「生態系の保存」ということになります。
大むかしは人間もこの生態系の内部にいましたから、けがをすると生きられませんでした。ところが医療が発展して、人間は少々のけがなら生きていけるようになりました。
むかしからの私の読者ならここまで言えばもうお分かりだと思いますが、医療の発展は実は生態系の破壊に他ならないのです。人間の存在そのものが、生態系の破壊と言ってもよいくらいです。
現在、「進歩的な」人々は生態系の保存に熱心です。でも、本当に保存したいなら、古代のように乳児死亡率を格段に上げる必要があります。また、けがをしたら部族の移動の足手まといになりますから、自らその地に残って死を待たなくてはなりません。
生態系を守るためなら医療の発展を望んではいけません。昨日、私は総合診療科を礼賛しましたが、それは生態系の保存に逆行する立場になるということです。
「それなら、お前はなぜ医療をやっているのか?」と問われるでしょう。私はいまそこにいる病人を援けたいし、一方将来にわたる生態系の保存も望んでいるという、矛盾した存在であることを認めざるを得ません。
他人のことを引き合いに出すのは女々しいかもしれませんが、世の中の大多数の人が、私のように矛盾をかかえたまま生きているのではないでしょうか?誰だか忘れましたが、古代ギリシャの哲人が「矛盾こそわが命」と言っていたことを思い出します。