院長のへんちき論(豊橋の心療内科より)

毎日、話題が跳びます。テーマは哲学から女性アイドルまで拡散します。たまにはキツいことを言うかもしれません。

八幡洋氏のハーマン批判

2014-09-24 00:42:36 | 心理
   (みすず書房刊。)

 上の本の原書が出版されて、著者のジュディス・ハーマンという女性心理学者は時代の寵児になりました。硬い本なのにペーパーバックになり、版を重ねました。ハーマンは全米で講演旅行をおこなったりしました。

 ものすごく大雑把に何が書いてあるかというと、「現在の神経症症状はPTSDで、幼少時のつらい体験(トラウマ)が抑圧されて意識に登ってこないからである。だから、幼少時のトラウマを思い出して言語化できれば、PTSDは治癒する」ということです。

 こうした考え方はハーマンが初めてではなく、すでにフロイトが言っていたことです。フロイトの「抑圧」という概念は、現在批判にさらされていますが、全生活史健忘(いわゆる記憶喪失症)という病をうまく説明することができます。

 ハーマンがフロイトと違うところは、「思い出させ療法」を全米に広めたことです。その療法のおかげで、(これまで忘れていたが)自分は幼い時に父親からレイプされたと、裁判所に訴える中年婦人が万単位で出現したのです。すでに高齢になっている父親たちはびっくりしました。

 きのう紹介した八幡洋氏の「怪しいPTSD」は、ハーマンを徹底的に批判しています。その後、ハーマンや「思い出させ療法」がどうなったか、父親を裁判所に訴えた婦人たちがどうなったか、ここで言うのはやめておきましょう。「怪しいPTSD」に詳述されています。