Pの世界  沖縄・浜松・東京・バリ

もの書き、ガムランたたき、人形遣いPの日記

テンの行く末

2010年04月16日 | 家・わたくしごと
 村上春樹の『1Q84』の第3巻が今日発売されたと朝のニュースで流れている。夜の9時から熱狂的なファンが神保町の本屋に並んでいたそうだ。なんだか村上春樹の小説も、マイクロソフトが出す新しいソフト、任天堂のゲーム機、ハリーポッターの小説のような存在になっていることに驚く。私はまだ1巻すら読んでいないのだけれど。
 ところでぼくは、きのう佐渡トキ保護センター野生復帰ステーションの順化ケージでトキ9羽を襲った「であろう」テンが捕獲されたというニュースを聞いてふと思いだしたことがある。それは村上春樹の短編小説『人喰い猫』に描かれたちょっと薄気味悪い話だった。それは、どうしようもない状況の中で、亡くなった老婦人を動物の本能によって食べてしまう三匹の猫の話をテーマにしたものなのだが(この話は『スプートニクの恋人』の中にも再び登場する)、この小説では「その後の猫」について考える場面が登場する。私はそれを思い出して、トキを「襲撃」したテンはいったいこのあとどうなってしまうのだろう、と真剣に考えてしまった。テレビに映し出された犯人の容疑をかけられているテンは檻の中でリンゴを与えられて、けなげな姿でうずくまっている。
 『人喰い猫』の小説の中も、この中に登場する「彼女」は「僕」にこう言うのだ。
「でもその猫たちはそのあとどうなったのかしら?」と。そして結局「新聞というのはきっと世界中どこに行っても同じなのね。本当に知りたいことはいつもきまって書かかれてないのよ」と続く。彼女は猫のその後をこう想像する。一つは、「人間を食べたという理由で殺される」、もう一つは「『君たちもいろいろたいへんだったね』と頭を撫でられて無罪放免になる」の二つ。すると「僕」はこう答える。「施設に入れて更正させる、そして菜食主義に変える」。
 昨日捕獲されたテンはどうなるんだろう。確かにどのマスコミも、ぼくがもっとも知りたいこと、「檻に入れられたテンの行く末」について語っていないのだ。まさかトキ保護センターがテンのフカフカの毛皮に目がくらむなんてことはないだろうし……。