Pの世界  沖縄・浜松・東京・バリ

もの書き、ガムランたたき、人形遣いPの日記

ぼくは12歳

2011年05月16日 | 
 高校生から大学生にかけて、よく読んだ詩集の一つが岡正也『ぼくは12歳』だった。著者は私と同じ1962年生まれで、中学1年の7月、自らの命を絶った。同じ時代を生きたということ、ビートルズを熱心に聞いていたということ、そんなことが身近に感じられたことをよく覚えている。
 彼の詩には美しく着飾った一切の言葉がない。俳句や短歌とも違い、ストレートに自分の気持ちを吐露する数行に、心を打つ何かがある。しかし幼児の絵みられるような「無垢なる抽象画」にある種の感動を覚えるのは違う。彼は詩を自分なりに理解した上で、短い言葉に息吹を与えている。そこには聴覚、味覚、視覚、触覚に訴えかける何かがある。
 私は数日前から彼の詩が読みたくなって、週末、東京に帰った折、実家の書庫の隅に眠っていた文庫本を探し出した。もう20年以上、この詩集から遠ざかっていた気がする。最初からゆっくり読み返しているうちに、なんだか自分に対してすっかりつらくなって、悲しくなって、何度も天井を見上げた。
「君が生きていれば、今、私と同じ歳だ。君は、知らない同級生たちに、すっかり大人に慣れてしまった同級生たちに、子どもが見えなくなってしまった同級生たちに、この詩を通して今なおこうしてやさしく語りかけているのかい?」

 ぼくの心
 
  からしをぬったよ
  体に
  そうしたら
  ふつうになったんだ
  よっぽど
  甘かったネ
  ぼくの心って
         岡正也『ぼくは12歳』(角川書店、1982年、112頁)