社会福祉士×ちょっと図書館司書の関心ごと~参考文献覚え書き

対人援助の実践、人材育成、図書館学を中心に気まぐれに書物をあさり、覚え書きをかねて投稿中~

『精神は在宅の「懐かしさ」で支えられる-在宅ホスピスの可能性-』徳永進

2010-08-16 15:59:21 | 医学
『臨床精神医学』39(7)

人はなぜ「在宅ホスピス」を望むのか?という素朴な疑問に対し、筆者の臨床経験を踏まえた所見が記されている。
「在宅ホスピス」がブランド化されつつある現在、少し立ち止まって、「なぜ在宅での看取り?」「在宅医療?」を素直に振り返ることができた。

引用
・病院やホスピス病棟では生まれない「懐かしさ」が家にはある。
・死は人工物で囲んではいけない。人間だから、自然の中で死を、というわけにはいかないが、生活の場が可能ならそこがいい。暮らしの匂いがするところが、人間にとっては自然に一番近いところだと思われる。


私は「在宅での看取りがベストである」とは考えていない。
長く一人暮らしをしてきた人が「せめて最期くらいは、人の中で過ごしたい」と望んだり、「家族に迷惑をかけずに逝くことが、自分にとっての最良の死に方だ」と望む人と出会ったからだ。突き詰めて話をすれば、「自宅が一番だけど…」ということになったかもしれない。しかし「一人では生きていけない」ことを身をもって実感し、考え抜いた末の答えであったから、それが彼らの「意思」であったと思う。
どんな選択であれ、それが病院、施設、自宅であれ、彼らが望んだ選択が最優先されることが一番だと考える。
今後は、自宅ではない「在宅」を最期の場として選択される人が増えていくだろう。
自宅ではない「在宅」で、「懐かしさ」を感じることは難しい。せめて「暮らしの音」を感じながら、それが「安心感」につながるよう、援助者は意識していかねばならないと感じた。


臨床精神医学 2010年 07月号 [雑誌]

アークメディア

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「子どもと家族の緩和ケア」 上別府圭子・東樹京子 『臨床精神医学』39(7)

2010-08-09 11:46:25 | 医学
子どもの緩和ケアの特徴と、臨床精神医学の接点について述べている。洋書からの引用が多い。
3つの症例が紹介されており、子どもの「悲嘆」の表現方法やそれに対する家族の反応、さらに援助者としての姿勢・課題等、とても分かりやすい。

引用
十分な緩和ケア提供を阻む障壁(洋書からの引用)
⇒「子どもが先に死ぬのは順番が違うという抵抗感」「子どもが死ぬときに味わう医療提供者側の失敗感」をあげ、その結果、この領域への<回避>が生じている。

子どもの緩和ケアと成人のそれとは、根本的に大きな違いはない…とした上で、子どもの緩和ケアの特徴を成人と比較して紹介(洋書からの引用)
⇒「緩和ケアを必要とする状態が多様であり、疾患もばらばらで希少疾患も多く、多くの学問や専門家を必要とする」「発達についても配慮せねばならず、<1人の>子どもであっても時間の経過によって<変化している>…など


子どもは年齢によっては、ケアの提供決定や病気の告知について「2番目の存在」になりやすい。
一方で、治療が長期間に及ぶことで、「理解できにくい年齢」から「おおよそのことは理解できる年齢」に変化していく。
感情や身体の発達は、人間としての喜ばしい成長である一方、援助者にとってはとても難しく、そして一番大切にしなければならない側面であると感じた。

臨床精神医学 2010年 07月号 [雑誌]

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「緩和ケアにおける面接」山田了士『こころの科学』No.149/1-2010

2010-08-02 10:29:28 | 医学
がんの緩和ケアにおいて、援助者が患者/家族と面接を行う上での留意点について、精神科医の立場から紹介している。
昨今クローズアップされているスピリチュアルペインについて、症例を通して説明されていることろが、大変わかりやすかった。

引用
・スピリチュアルペインとそのケアの理解について…小澤竹俊氏、村田久行氏の解釈を引用
「存在とは時間存在(未来があり、それに希望が伴うなど)、関係存在(大事な人とのかかわりなど)、自律存在(自分で意思や行動を選べること、他人の役に立つなど)の三つの柱からなり、このどれかが障害されることによってスピリチュアルペインが生じる」

・がんの進行した患者さんでは次がない可能性がどうしてもある。「わかったつもり」にならないように注意しながら、その日しか聴けないかもしれない話の中で、患者さんにとって何が一番大事なのかを理解する。


『人の理解の立体把握』…これは学生時代の恩師が、ゼミや実習前指導において、徹底的に教えてくれたことである。この考え方と小澤・村田両氏の解釈による「スピリチュアルペインが生じる要因」は、とても近いものであると感じた。
ソーシャルワーカーは特に、家族問題の解決支援等で「関係存在」の修復に機能を発揮できると考える。また『人の理解の立体把握』の考え方に立てば、その理解を専門性のひとつとして教育を受けているソーシャルワーカーは、やはり全人的ケアの実現には不可欠だと、思わずにはいられない。

こころの科学 149号

日本評論社

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「英国・子どものホスピスの現状」多田羅竜平(2008)

2010-06-03 19:50:14 | 医学
『週刊医学界新聞』第2778号 2008年4月21日

英国にある子ども専門ホスピスについて紹介。
歴史、制度、課題等、とても分かりやすい論文である。


・1982年 英国オックスフォードに、世界最初の子どものホスピス「ヘレンハウス」が設立される
・イギリスの子どもホスピスは、母体は全て慈善団体であり、運営の95%は寄付でまかなわれている
・対象児童:神経疾患をはじめとした、長期療養を必要とする難病の子どもたち
・入院の目的:レスパイトケアが多い
・「ヘレンハウス」には常勤換算で1.4人のSWが配置されている
・死別後のケア-「ヘレンハウス」では、約半数が継続的なケアを希望し、平均2年程度続けられている


死別後のケアは、平均2年程度続けられている…ということであれば、今の日本で、どのくらいの人が適切なビリーブメントケアを受けられずに苦しんでいるんのか、と切なくなる。
どうすれば、この状況を打破出来るのか…。とても悩む。

*日本では、今年から2012年にかけて、全国で3カ所(北海道、神奈川県、奈良県)の子どものホスピスが開設されるそうだ。もっともっと普及して欲しい。





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「日本におけるホスピス・緩和ケアの発展の経緯、現状、将来」柏木哲夫(2007)

2010-03-19 20:37:38 | 医学
『現代医学 55巻2号』

ホスピス、緩和ケアの歴史について、日本およびイギリス、アメリカを中心に概観している。
ひとつひとつについての詳細の情報は得られにくいが、大きな節目を知ることはできる。

引用
・近代的な意味でのホスピスの始まり~1967年 セント・クリストファ・ホスピス(イギリス)
・日本における緩和ケアの始まり~(特定のベットは持たなかったが、チームを組みケアを提供するという在り方が、それと言える) 1973年 淀川キリスト教病院
・緩和ケアは、「病むこと」を病態生理学的以上としてのみではなく、患者が苦悩し、家族が打撃を受けるという視点からもとらえ、次のことを実践する(9項目のうち、本ブログでは6番目の項目に注目)~患者が病気に苦しんでいる間も、患者と死別した後も家族の苦難への対処を支援する。


「患者が病気に苦しんでいる間も、患者と死別した後も家族の苦難への対処を支援する。」
これは職種問わず、対人援助業務に携わっている人であれば、だれしもが必ず一度は必要性を感じる項目であろう。
今は特に、がん末期患者を看取った家族を支援することが中心になっている印象を受けるが、それであっても十分に提供されているとは思えない。
心理学を研究する大学の付属機関、NPOによるもの、そして自助グループによるもの…様々な提供体制で実施されているが、患者本人の死後に、適切なケアを受けられるような「つなぎ」の作業は、十分に行えているのだろうか?

せめて専門機関や自助グループへの「つなぎ」は、きちんと担っていくべきであろう。




コメント (3)
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「逝かない身体 ALS的日常を生きる」川口有美子(2009)医学書院

2010-02-07 20:26:55 | 医学
ALSに罹患した実母の在宅介護記録。
家族の葛藤、本人とのコミュニケーション形態の変化などなど…疾患が進行する過程をとても細やかにそして冷静につづっている。
医療者、福祉関係者等、援助者サイドからは絶対に表現できない/されないであろう「実態」がリアルに書かれている。

引用
・他の疾患はどうだか知らない。でもとにかくALSとは、「受容」するどころのものではないのは確かだった。家族にとってもALSが飽かずに繰り出す障害に、知恵を絞って対抗する日々である。
・介護疲れとは、スポーツの疲労のように解消されることなどない。この身に澱のように溜まるのである。
・ALSの人が家族ともども入居できるケアホームがあったら、利用したい人はたくさんいるはずだが、いまだにそのような場所はない。
・ALSの人の話は短く、ときには投げやりなようでもあるけれども、実は意味の生成まで相手に委ねることで最上級の理解を要求しているのだ。
・(介護をしていた実母が亡くなった後)残された人は燃え尽きてしまうわけにはいかない。これからは、自分の人生をそれぞれに生きていかなければならないのだ。「自分の好きなことをしなさい。」これはALSの介護をしてきた家族にとっては大変難しい。


眼球の動きもとまり、瞼も閉じたままの状態であっても、その人の感情を「脈拍」や「血圧」「顔色」で感じ取る…これは、濃密な時間を共有した者だけがなせるものであり、そしてこういったコミュニケーションのあり方を述べられるのは、家族介護者だけであろう。
本書を読むと、援助者が考える(受けた教育を含む)「支える」ということと、家族介護者が感じるそれとは、やはり大きな違いがあるのではないかと感じる。
それは「職業」としての倫理や方法論というものではなく、もっと根本の、「その人とどう向き合いたいか」にあるのではないかと感じた。

あまりにも圧倒的な記録で、でも冷静で…。何とも表現しがたいくらいに、考えさせられた。


逝かない身体―ALS的日常を生きる (シリーズケアをひらく)
川口 有美子
医学書院

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「地域連携パスで開業医が果たす役割-疾患を地域で診るために-」 岡田晋吾

2010-01-20 20:38:51 | 医学
『がん医療マネジメント研究会』NEWS LETTER 10(2008年4月)

青森県の開業医に対するインタビューをもとに、地域連携パスの有用性を説明。
開業医という立場からどのように活用し、そして普及させていくかを述べている。

引用
・大都市圏を除けば、地域にそう多くの専門医がいるわけではない。そのため、どこがどの部分を担うのか、というネットワークつくりのツールとして、地域連携パスが有効である。
・連携パスの作成・運用にあたって重要となるのは、「顔の見える関係を築くこと」である。


「疾患を地域で診る」というサブタイトルに少し違和感があったが、「疾患を悪化させない」「うまくコントロールしていく」ために、地域の医療機関が情報を共有する…ということであると解釈できた。
「地域連携パス」「地域連携クリニカルパス」は、自治体レベルで、職能団体レベルで、医療機関レベルで、様々な形態で開発され普及し始めている。

単に必要項目を「埋める」のではなく、それをどのように活かし、地域住民(患者さん、ご家族)に反映させていくかが大切だと感じた。

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「ケア期間からみた在宅ホスピスケアの問題-短期間(7日以内)で終了する末期がん患者の在宅ケア-」

2009-09-03 09:00:43 | 医学
川越厚、松浦志のぶ、染谷康子、大金ひろみ
『癌と化学療法』35,December,2008

第19回日本在宅医療学会学術集会での報告でもある。

川越氏の実践現場である「パリアン」における、短期間(7日以内)のがん患者と14日以上のがん患者の支援方法を比較検討している。
訪問看護の視点から、訪問頻度や緊急電話の頻度を分析し、「計画的な訪問看護(通常訪問看護)を適切に行えば、訪問看護師が緊急対応しなければならない頻度は低くなり、看護師へかかる負担を軽減することができる」という結論を導き出した。


引用
在宅ホスピスケアは通常、経時的に「開始期」「安定期」「終末期」に分類される。
「開始期」→病院から自宅への移行に伴う不安
「終末期」→死を前にした不安

診療所に在宅ホスピスケアの依頼が入った時点での、患者の療養場所による違い
→在宅で療養…開始期が終了している
 病院で療養…死亡までの1週間以内に開始期と終了期を同時に経験しなければならない


経験では分かっていても、それは理にかなっているのか?と感じることは多くある。筆者も述べているように、この論文は「臨床的な経験知は、エビデンスに基づいているのだろうか」を裏付けする論文である。それゆえに、「ハッ」とするような新しい発見は少ないが、自身の実践を後押ししてくれるような、そんな勇気が湧く論文であると感じた。

患者の新規依頼時に、患者が療養している場所によって、支援方法が異なってくる…という結論はとても重要である。
医療サービスの導入と同時に、介護体制をも構築しなければならないケースこそ、ソーシャルワーカーの果たす役割は大きいと感じる。
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「神戸における地域緩和ケアネットワーク」関本雅子(2006)

2009-08-20 13:07:51 | 医学
『緩和ケア』16-6

神戸市内でクリニックを開業している医師による論文。

自身のクリニックの実践内容と、神戸市での取り組みの一部を紹介している。

・在宅への移行に際して、医師と看護師がその調整役となり、場合によっては訪問看護ステーションやケアマネージャーの紹介(他機関も含む)も行っているとのこと。


在宅ホスピスケアにおけるケアマネージャーは、看護職が望ましい…と述べている。理由の詳細はないが、おそらく、医療的なニーズが多く、それに関する専門知識が豊富にある職種のほうが連携等が行いやすい…というのもあるのではないだろうか。
もしそうであるのなら、あえて主張したい。
短期間での円滑な連携が、在宅ホスピスケアの質のをも左右すると言われている。「連携」を重んじ、その教育を受けてきたソーシャルワーカーも、「望ましい職種」と言えるのではないだろうか。
医師・看護師、ケアマネージャーも医療職…となった場合に、視点やケアに偏りはないのだろうか?とふと不安に感じた。
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「在宅医療専門機関を利用した末期がん患者の在宅終末期医療の特徴と介護者(遺族)による評価

2009-07-12 14:38:44 | 医学
秋山明子、沼田久美子、三上洋 (2009)『緩和ケア』Vol.19 No.3

在宅医療専門機関を利用した介護者(遺族)の評価に対する調査報告(調査は無記名自計式)。
介護者(遺族)の評価による在宅療養のニーズ検討を行っている。

引用
調査結果:「家族はできるかぎりの介護ができた」「他の医療機関と連携できていた」の項目に関する在宅療養の評価が高いほど、看取り時の後悔が少ない。

・「これでよかった」という選択ができれば、介護者(遺族)の満足は高い⇒納得ができるだけの情報提供と、納得ができる決断をサポートすることが必要。


調査結果(=論文としての結論」は、「そうだろう」と思った。が、それ以上の「何か」が読み取れなかった。調査が量的なものであるがゆえに、「生の声」が拾いにくかったせいもあるのかもしれない。
調査そのものは、「がん」「非がん」の両者を対象としているものの、論文テーマが「がん」に限定されているせいもあり、「非がん」はその「対照」としての分析にとどまっている。
がん・終末期・在宅というテーマは多くあるが、がん以外の「非がん」を焦点としたものは少ない印象を受ける。それゆえに、是非とも、両者の「独自」のより詳しい結論が見たかった。




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