社会福祉士×ちょっと図書館司書の関心ごと~参考文献覚え書き

対人援助の実践、人材育成、図書館学を中心に気まぐれに書物をあさり、覚え書きをかねて投稿中~

「社会福祉援助技術としての葬儀‐ターミナル・グリーフケアの狭間に‐」大西次郎(2012)

2022-08-30 13:08:11 | 社会福祉学

『佛教大学大学院 社会福祉学研究科篇』第40号(2012年3月)

 

遺族に焦点をあてたグリーフケアではなく、死にゆくその人を中心にとらえた支援とは?について、

論じている。

「終活」という言葉が登場する少し前に書かれた論文であり、「そういう捉え方をしていた時期もあったな」

という部分も多い。しかし、葬祭、ターミナルケア、グリーフケアといった事柄について丁寧に概説されており、

頭の整理には大変役に立った。

 

引用

・特別養護老人ホームを主体とする生活施設へ高齢者が入居するその時こそ、彼(女)ら自身の死に対する悲嘆を汲み取るべき、一つの重要な契機なのである。

・(先行研究を概観した結果を踏まえ)死後の処置にまつわる行為の中で、死に逝く本人へ向けた眼差しは極めて乏しいのである。

 

私は現在、特別養護老人ホームに勤務しているが、施設での看取りは「一般化」していると認識している。しかし本論文で指摘されているような高齢者自身への喪失へのサポートはなく、「看取りに対する意思確認」を「家族」に行うことで、「看取りケア」を実践していると職員が体感している部分が多い。

 

コロナ禍で面会ができていない入居者でも、「看取り」のステージにくれば、一定の制限はあるものの面会は可能となっている。職員は「家族」には思いを確認するが、本人にはどの程度確認できているのか?…正直なところ、十分ではないと考えている。それは入居時点で、重度の認知症のために意思確認が困難であることも一つの原因ではあるが、それよりも、入居者がそれまで生きてきた時間に職員が目を向けていない、ということも少なからず原因であると考えている。

「認知症の手がかかる人」「体が大きいから、移乗介助が大変な人」「食事介助に時間がかかる人」…いま、目の前にいる入居者に対して、いまのその状況にネガティブにとらえがちであることも否めない。

施設での看取りが増加していくことを考えると、ターミナルケア・グリーフケアという以前に、その人を捉えるチカラが、支援者に求められているのであろうと痛感している。

 

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「DV被害者である親が経験する子育ての実態」増井香名子、岩本華子(2022)

2022-08-01 10:11:49 | 社会福祉学

副題:当事者インタビューの分析から児童福祉実践への示唆

DV被害者である女性が、その現実と向き合いながら子育てをしていく実態について、当事者のインタビュー調査を通して明らかにしている。

 

引用

・被害親(DVを受けた母親)の子育ては、加害親(DVの加害者)による暴力と支配により「親機能の奪われ」を経験すること、一方で暴力と支配に対抗し「親機能の必死の遂行」を行っていることが明らかになった。

・日常のなかで子育てを遂行することがさまざまに壊され困難がもたらされるなかにおいて、被害親の相当ながんばりにより子どもの育ちが実際に支えられていることが明らかになった(←被害親のストレングス)。

 

インタビューの回答内容は、読んでいてしんどい気持ちになるものもあるが、それは現実に起きていることなのである。

そう思うと、過酷な状況下においても、必死にその場面をしのぎ、日々を生き抜いていることの強さに驚かされる。

DV被害者は弱者であると思われがちであるが、子どもの前では「強さ」を発揮していることが多くある。

筆者も述べているが、その「強さ」に気づき生かしていくことが、長期化していくであろう子育て支援を効果的にしていくのだと思う。

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「学校教育における慢性疾患や障害のある子どものきょうだい支援の課題」滝島真優(2021)

2022-06-13 16:16:52 | 社会福祉学

【副題】教員によるきょうだい児の認識とかかわりの現状分析から 『社会福祉学』第62巻第4号

きょうだい児に対する教員の認識を明らかにし、学校教育における組織的なきょうだい児支援の在り方について検討することを目的としている。

方法として、教員に対する質問紙調査を実施している。自由記述では、苦悩しながらもきょうだい児と向き合おうとされている教員の姿を知ることができ、現状を丁寧に取り上げている印象を受けた。

 

引用

・学校生活における影響については、3割弱のきょうだい児に行動面や学習面などに関する影響がみられると教員は感じており、(中略)きょうだい児が必要以上に努力する様子や常に周囲に気を遣うなど学校生活上の過剰適応と捉える記述も示された。

・調査を通じて、教員が家庭の事情を詳細に把握することの困難さがあることが分かった。(中略)教員はきょうだい児の生活背景の一部を捉えることは可能であるとしても、(中略)きょうだい児の生活状況に応じて個別に直接的な支援を提供するには制約がある現状が想定される。

・今回の調査では、きょうだい児への対応については教員個々の努力による解決が図られており、学校専門職との連携を踏まえた組織的な対応事例は限られていることがわかった。

 

領域を問わず、支援の一番最初の最初は「有志」や「熱い想いのある人」など、個人の裁量(力量?)によって担われている。きょうだい児支援はようやく学術的にも注目をされるようになり、「専門的に」「組織的に」の取り組みの第一歩になり始めているのだと思う。

医学が発達し、一命をとりとめることが可能になった新生児が増え、医療的ケア児への支援が進んでいる。医療的ケア児には、きょうだいがいるかもしれない。そのきょうだいが支援の一端を担うことも少なくないであろう。それを考えると、医学、社会福祉学、教育学、心理学などなど、横断的な支援の検討がより一層、重要になってくるのだと思う。

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「在宅療養支援診療所の医療ソーシャルワーカー自身のスピリチュアリティに関する考察」大賀有記・他

2022-06-11 09:24:23 | 社会福祉学

副題:「人が人を支援する意義」『社会福祉研究』第23巻

スピリチュアリティを研究の視点とし、ソーシャルワーク分野におけるスピリチュアリティについて考察を深めている。

その方法として、在宅療養支援診療所の医療ソーシャルワーカー(MSW)を対象にインタビュー調査を実施しているため、在宅医療を活動領域としているMSWの実践活動を知ることもできる。

引用

・スピリチュアリティは人間の革新であり、それは自己・他者・超越的存在との関係において見出されていくものといえるだろう。

・在宅療養支援診療所の在宅MSWは、【多様な最後の受け入れ難さ】が社会的背景としてあるなかで、本人の意思を実現できないことが少なくはなく【意思決定支援の意義の再検討】という課題に直面している。その一方で在宅MSWとしての役割・機能が十分に発揮できないことや患者の死という【喪失体験を収めていく】過程を通して、【生と死の関係性を考える】ことが分かった。

・通常のソーシャルワーク支援の中にはスピリチュアリティの要素が十分入っている(ことが見いだされた)。

・スピリチュアリティの動きを認識することにより、在宅MSWとクライエントとの間でつながりと責任の感覚が共有され、それがより豊かな支援につながる可能性がある。

 

「スピリチュアルケアをしよう」と構えて、形を整えて、あらたまった時間を設けて…という方法でなくても、支援者がその意識を持ち、かかわりの中で重んじていくことで、自然と実践はされている。というようなことは、他の書物等でも述べられている。

しかし現実には、その言葉を知らず、本当は適切なケアができているのに、「自分たちは何もできなかった」と肯定できていない支援者が多くいる。支援者の実践を整理し、肯定し、豊かにしていくためにも、スピリチュアルケアという言葉は活用できると、本論文を通して知ることができた。

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「在宅医療ソーシャルワークの意義に関する考察」大賀有記『社会福祉研究 第22巻』

2022-06-03 16:47:21 | 社会福祉学

副題:-スピリチュアリティに配慮したソーシャルワークの観点を参考にー

 

在宅診療を行う在宅療養支援診療所のソーシャルワーカーの活動についての文献から、その役割や機能についての記述を整理することを目的としている。

数少ない先行研究を丁寧にまとめ、分かりやすく分類している。在宅医療におけるソーシャルワークを知るためには、とても有効な論文である。

 

引用

・ソーシャルワークは生きている人全体を対象とし、彼らが生を全うするまで支援を継続する責任をもつ。

・(先行研究を整理した結果として)在宅医療ソーシャルワーカーの専門性は、①クライエントの主体性を尊重した医療実践に影響を与えること、②クライエントを包括的に理解し、その日常生活を脅かさないような医療と看護のあり方を提案すること、③人(ミクロ)と環境(メゾ・マクロ)の双方に働きかけ、その関係性を調和させるソーシャルワーク実践を行うこと、④生活の場における積極的なニーズの把握とその継続的対応を行うこと、⑤メゾ・マクロレベルに偏重することなくミクロレベルの実践をすることにより個々人が尊重された生活を送ることができること、といえる。

 

この論文が発表されたいま現在、「在宅医療ソーシャルワーカー」「在宅医療ソーシャルワーク」という言葉が、戸惑いもなく用いられ、そして受容されていることにとても感銘を受けた。

私が現場で実践をしていた頃そして、初めて調査をした頃(1999年~2010年)、とてもあいまいでフワフワとした存在であったものが、

この論文のようにひとつにまとめられるほどに、量的にも質的にも蓄積されていることが本当に本当に嬉しい!!

 

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『保育所運営企業の「生き残り戦略」に関する実証的研究ーグランデット・セオリー・アプローチに基づくカテゴリーの生成―』

2022-03-09 16:03:57 | 社会福祉学

古谷淳/著 日本社会福祉マネジメント学会誌 第1巻第2号(2021)

 

 保育産業は、社会福祉法人と営利企業がしのぎを削っている。待機児童は年々解消されてきており、少子化が進む中では、

「生き残り」が必須の課題となってくる。ここにフォーカスし、営利企業の経営者たちにインタビュー調査を実施し、「生き残り戦略」として講じていることをまとめている。

引用

・大規模展開の企業では、大規模であるからこそ捻出できる莫大な費用を研究開発に投資することで、独自の方針に基づいた保育を子どもたちに提供していた。

・小規模展開の企業では、衣類の洗濯や習いごとへの送迎など小回りの利いた手厚い保育サービスを実施していた。

 

子供と保護者のためによりよい環境を…というのは、営利企業であっても社会福祉法人のような非営利な組織であっても、同様に持っている理念であろう。「保育所(園)は、好きなところを選べない」というのは、未だ残っている課題であることは、私自身も痛感している。

住んでいる場所、保育に充てられるお金に影響されることなく、利用者が主体となって選べることこそ、最良の保育サービスの提供なのだと思う。ここについて、公と民が対立するのではなく、ノウハウを共有し、柔軟に取り組んでいってくれればと願う。

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「ケアマネジャーはらはら日記」岸山真理子(2021)

2022-02-12 09:22:13 | 社会福祉学

 

 

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「ふすまのむこうがわーひきこもる彼と私のものがたりー」芦沢茂喜(2021)

2021-11-25 15:49:04 | 社会福祉学

ひきこもり生活をしている人たちへの支援活動をしてる筆者の、2冊目の活動録。

事例を通して、当事者やその家族とのやりとりが具体的に紹介されている。

スムーズにいく(支援者にとって困難とは感じない…)ことが少ないのが、ソーシャルワーク実践ではあるが、

そのプロセスにおいて、支援者側も変わっていく必要があることを気づかせてくれる。

平たい文章で書かれており、とても読みやすい印象を受けた。

 

引用

・相談を受けると、もっと早く相談に来れば良かったと話す家族に出会います。相談行動を早く取らなかった自身の行動を責めるように話す家族がいます。私はそのような家族に、①相談に至るまでの期間は家族が本人と向き合い、格闘した大事な期間であること、②今回、相談行動を取れたのはそれが家族にとっての良いタイミングだったことを話し、③家族が相談行動を取ってくれたことで本人と出会う機会を持てることへの感謝を伝えることにしています。

・私は本人が将来の不安を話した時、「大丈夫」と返すことにしています。「根拠は?」と聞かれたら、「根拠はありません。でも、私は大丈夫だと思います。」と答えています。根拠がないのに、なぜ大丈夫と言えるのか?無責任ではないのか?そんな疑問も出てくると思います。ただ、私はこう思います。大丈夫だという根拠なんて、そもそもない。それを根拠だと言っても、本当にそれが根拠になるのかは時間が経ってみないと分からない。大丈夫という根拠がなければ、大丈夫ではないという根拠もない。根拠が両方ないのであれば、無責任でも大丈夫と思っていた方が良いと。

 

「相談を中断させない」ことの重要性を前書でも記していたが、それに加え本書では、「ゴールをつくらない」「ひきこもった原因をわかろうとしない」ということも記している。そして「根拠のない大丈夫」という声かけは、筆者が実践から得た(体得した/体感した)、もしくはソーシャルワーク実践のもがきから生まれた、当事者への最大級のエールを表現した「言葉」であると、感じた。

 

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「新たに介護職に入職しようとする人々が有する就労動機」坪井良史(2021)

2021-09-14 15:22:37 | 社会福祉学

副題:介護職員初任者研修におけるアンケート調査分析

『社会福祉学』第61巻第4号

 

 初任者研修受講者に対する質問紙調査を通して、介護職に従事しようと思った動機を調査、分析をしている。

 

引用(調査回答結果から)

・やりがいを重視する回答者と生計維持を重視する回答者は同程度となった。

・「若年層および中年層:生計維持重視」「若年層:やりがい重視」「高年層:やりがい重視」の三つの受講者像が明らかになった。

 

新型コロナウイルスの感染拡大の昨今、飲食業等からの転職者が増えているように感じる。慢性的な人手不足でありながらも、丁寧に教育を提供できる体制がないゆえに、離職率の高さは変わらずである。やりがいを求めて熱意をもって入職してくる人たちに対して、「背中を見て覚えろ」という姿勢でいる管理職が未だ存在していることに、個人的にとてもむなしい思いを抱いている今日このごろである。

「介護職は専門職である」ーその信念にもとづいて、介護福祉士の受験要件が変わり、職能団体の研修も多様なカリキュラムが用意されるようになった。賃金アップはすぐには難しいだろうが、「介護離職者をゼロにする」と唱える前に、介護離職者をゼロにするためにその担い手になる介護職に、光をあてる策をもっと具体的に示して欲しい。このような学術的な論文がその一助になるのだと、信じていきたい。

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「意思決定能力を欠如した高齢患者の胃瘻造設の代理意思決定をめぐる「揺らぎ」に関する研究」竹森今日子(2021)

2021-08-19 09:30:00 | 社会福祉学

副題:家族の語りの分析を通して

『社会福祉学』第61巻第4号 2021年

 認知症等により、自分で意思決定ができない家族に代わり、胃瘻造設をするか否か、を検討・決定する家族について、聞き取り調査を実施し、

その思いと決定までのプロセスを「揺らぎ」というキーワードで分析している。

 

引用

・(考察より)家族に共通していたのは、「胃瘻を選ぶべきか否かわからない」という「揺らぎ」であった。

・胃瘻に関する知識と経験が乏しい家族にとって、意思に限らず、看護師、さらには家族や知人などの身近な人から得る胃瘻に関する情報も、胃瘻の理解として取り入れやすいが、取り入れた情報内容によって「揺らぎ」が増減する傾向もみられた。

・(分析から)「揺らぎ」が代理意思決定時のみに限定された感情ではなく、現在に至るまで「患者の利益」を追求し続けている家族の誠実な反応であることを意味している。

 

 新しい知見が得られたという研究ではないが、聞き取り調査からの分析~考察について、丁寧にことばを大切にしている印象を受けた。

 医療技術が発達し選択肢が増えすぎることで、家族を苦しめている側面もある。そのことを理解し、適切な情報(過不足のない情報)を提供し、決定までの気持ちの揺らぎ/浮き沈みを受け止めていくことが必要だと、あらためて感じた。

 

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