副題:介護事業所と地域の役割相乗型連携による高齢者の地域居住に関する研究 『日本家政学会誌』Vol.68 No.6
特養など、いわゆる終の棲家への施設入所となると、高齢者は家族や地域から分断された空間で過ごすことになる。そういった施設高齢者の社会関係の維持・再構築を意図した取り組みを実施し、効果を整理しながら、施設高齢者が社会とのつながりを意識しながら生活することの影響を検証している。「逆ショートステイ」という聞きなれない言葉で表現されているが、取り組み例を紹介していることもあり、とても分かりやすい報告であった。
引用
・逆ショートステイが高齢者にもたらした良い効果…①保障性・安定性・快適性・安心性・貴族性(施設以外にも、自分を迎えてくれる場所がある、と体感できる。) ②入所前の生活との継続性 ③意識の変化(生活主体者としての意識の変化が起こった。) ④家族関係の再構築 ⑤生活の安心感と施設への帰属性
・逆ショートステイが家族にもたらした良い効果…①精神的効果(入所させたことへの罪悪感を払拭できた等) ②逆ショートステイ実施体制づくりの協力 ③施設生活への協力(家族が施設に抵抗なく足を運べるようになった等)
コロナ禍の今、施設で生活をしている高齢者の社会との分断は、より一層強いものになっていると実感している。面会の機会も制限され、外出も緊急時以外は控えることを余儀なくされている。そのため、生活にメリハリがなくなり、「出されたものを食べる、流れているテレビを眺める」といった、味気のない生活が「日常」となってしまうのである。施設職員も、家族の出入りがないためか、居室などの掃除はおろそかになり、居住空間というには忍びない状態であることも、残念ながら体感している。施設職員の慢性的な人員不足が解消されない限り、質の高いケアは実現できないという主張も否定はしない。しかしながら、この論文を読み、社会と切り離されていることがどれだけの弊害を生んでいるのか、身につまされる思いである。