いのしし くん。

政治、経済から音楽全般の評論
ultimate one in the cos-mos

心証と思い込み。impression and possession

2015-11-28 19:48:16 | 日記
 (1)東京都庁爆発物事件で殺人未遂ほう助に問われた元オウム真理教信者の菊池直子被告の控訴審裁判(2審)で東京高裁は1審の有罪判決を破棄して「無罪」を言い渡した。

 具体的な物的証拠のない裁判で判決理由は「被告は指示通りの作業を実行するに過ぎない『立場』で、テロ計画を知らされたとうかがわせる証拠はない」(判決報道)というものだ。(『』は本ブログ注、以下同じ)

 (2)事件は「教団元幹部らが都知事宛てに送った郵便物が爆発し、開封した都職員が負傷(指切断ー本ブログ注)した」(報道)もので「被告は事件前に山梨県内の教団施設から爆発物の原料となる薬品を都内のアジトに運んで事件の手助けをした」(同)として起訴されていた。

 被告側は薬品の中身を知らずに計画も聞かされていなかったと無罪を主張していた。指紋などの物的証拠もなく、すでに地下鉄サリン事件で逮捕、死刑が確定していた元幹部たちの当時の事件にかかわる証言が有力根拠の裁判となっていた。

 (3)20年前の事件についてほとんどの元幹部の証言が「あいまい」(報道)な中で、中心としてかかわった元幹部(死刑囚)が当時の内容について「詳細で具体的」(判決報道)に証言をして、1審では有罪となり2審高裁では逆に「他の多くの証人が当時の記憶を思い出すのに苦労する中、『不自然』に詳細で具体的」(同)な証言として、これを信用できないとして無罪の判決とした。

 ちなみに1審は裁判員裁判で2審は裁判官裁判であった。1審から傍聴したジャーナリストの江川紹子さんは「控訴審は(信者をマインドコントロールした)オウムの特殊環境に置かれていたことも考慮して彼女の『内心を推し量った』」(報道)として、1審判決(有罪)には無理があり2審無罪判決を支持した。

 (4)江川さんのように裁判をすべて傍聴していないので判決の是非については踏み込むことはしないが、元幹部の証言が「不自然に詳細で具体的」で信用できないというなら、一方被告の17年に渡る逃亡生活は何を物語るのか、「マインドコントロール」、「オウムの特殊環境」だけでその「内心を推し量って」こちらの方は信用できるのか、公平性、公正性に不安はある。

 被告の「薬品は運んだが爆弾の原料とは知らずに、計画も聞かされていなかった」(報道)という主張の信ぴょう性と反比例する17年間の逃亡生活の意味について、こちらも客観的な説明ができるものであったのか知りたいところだ。

 (5)すでに地下鉄サリン事件で死刑判決が確定している元幹部の20年前の事件の証言が「詳細かつ具体的」であることを「不自然」とするのは裁判官の「心証」(impression)の問題のことであり、一方で被告の教団内の「立場」から同事件について「知らなかった」、「聞かされていなかった」ことを信用できるという『内心を推し量った』「心証」はどこからくるものなのか、双方の「立場」(元幹部と使い走り、死刑囚と被告)の違いだけで解明できるものなのかは、これも「不自然」で(unnatural)ある。

 (6)検察にも弱みはある。そもそも菊池直子被告は地下鉄サリン事件がらみで全国重要指名手配されて17年の逃亡の末逮捕されたが、肝心の地下鉄サリン事件では証拠不十分で不起訴となっている。

 組織実体がよくわからない教団がらみの事件でむずかしい捜査の側面はあるが、当時の捜査の精度がどうだったのか、同教団によるサリンテロという前代未聞の事件で何が何でもの「思い込み」(possession)捜査の無理が真相解明の壁となっている。

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