社会で防げ子供の薬の誤飲 包装見直しの検討始まる 効果的な啓発課題に 「医療新世紀」
2016年9月27日 (火)配信共同通信社
乳幼児の医薬品誤飲事故が後を絶たない。予防の基本は保護者が注意することだが、従来のような啓発だけでは限界があるとして、子どもが開封しにくい工夫をした「チャイルドレジスタンス(CR)」と呼ばれる包装容器導入に向け、関係団体が検討を始めた。専門家は「誤飲の実態を広く知らせ、社会全体で防ごうとの意識を今から育てるべきだ」と指摘する。
▽減らない事故
「中毒110番」で誤飲の相談を全国から受ける日本中毒情報センターには、子ども(5歳以下)の医薬品誤飲の情報が年に8千件以上寄せられる。医師が処方する医療用医薬品の誤飲が増加傾向。何でも口に運び、大人のまねもする1~2歳の事故が7割程度を占め、降圧剤や向精神薬の誤飲では少量でも重症化の事例がある。
厚生労働省などは「医薬品は子どもの手が届かない所に保管を」などの注意喚起を繰り返してきたが、誤飲は減っていない。2011年には東京都が、子ども向け水薬で、ふたを押し下げながら回さないと開かないといった仕様のCR容器の普及を求める提言をまとめた。だが目立った進展にはつながらなかった。
昨年12月、消費者庁の消費者安全調査委員会がCR包装容器導入の本格的な検討を厚労省に求める報告書を公表し、事態は動いた。同委は医薬品を封入する包装シートの見本を使って開封実験まで行い、子どもは開けにくいが高齢者には使用困難でない包装容器を実現できる可能性はあると結論付けた。
▽意義を知れば
子どもの誤飲防止策を研究してきた国立成育医療研究センター(東京)の石川洋一(いしかわ・よういち)薬剤部長は「CR包装容器の製造自体は難しくないが、保護者はもちろん社会全体がCRは必要だと認識しないと普及は難しい」と話す。
理由の一つは、大人でも慣れるまでは多少の開けにくさなどを感じることだ。石川さんは、CR包装の薬が登場しても「使いにくい」などと不評で、その後につながらなかった例を幾つも見ている。一方で、東京都の保護者調査ではCR支持者が大半。「誤飲が多発しており、事故を防ぐ目的の容器だと知れば、使ってもいいと考える人が多い」と石川さんは話す。
CRはコスト増にもなる。厚労省研究班の代表として薬の包装容器の見直し策を検討した土屋文人(つちや・ふみと)・日本病院薬剤師会副会長(国際医療福祉大特任教授)は、薬の製造段階で包装を変えるほかに「薬局での調剤の機会を活用する道も考えられる」と指摘する。
例えば、家に乳幼児がいるなど必要な人だけに、薬の包装シートにCR化シートを貼るなど「個別に安全策をプラスする方法は、費用負担の面からも理解を得やすいのでは」と土屋さんは言う。
▽具体的な情報を
製薬会社でつくる日本製薬団体連合会は、厚労省の要請を受け、安全性委員会でこの問題の検討を8月に開始。同委の千葉昌人(ちば・まさと)副委員長は「検討がある程度進んだ段階で、薬剤師会などの専門家団体と連携し、対策を考えていきたい」と話す。
何らかの見直しが行われるまでは家庭での対策が重要。だがその啓発にも課題がある。
親向けに子どもの病気の啓発活動をしている「知ろう小児医療守ろう子ども達の会」の阿真京子(あま・きょうこ)代表(42)は「『注意しよう』などの漠然としたメッセージでは親の心に響かない」と指摘する。
どういう状況で誤飲が起きたか、防げたのはどんな場合か。具体的で詳細な情報が有効だ。阿真さんによると、誤飲した子どもの親は自責の念が強く「親同士が集まる場でも体験を積極的には語らない」。共有されにくい情報をいかに集め、効果的に伝えるかが問われている。(共同=吉本明美)
2016年9月27日 (火)配信共同通信社
乳幼児の医薬品誤飲事故が後を絶たない。予防の基本は保護者が注意することだが、従来のような啓発だけでは限界があるとして、子どもが開封しにくい工夫をした「チャイルドレジスタンス(CR)」と呼ばれる包装容器導入に向け、関係団体が検討を始めた。専門家は「誤飲の実態を広く知らせ、社会全体で防ごうとの意識を今から育てるべきだ」と指摘する。
▽減らない事故
「中毒110番」で誤飲の相談を全国から受ける日本中毒情報センターには、子ども(5歳以下)の医薬品誤飲の情報が年に8千件以上寄せられる。医師が処方する医療用医薬品の誤飲が増加傾向。何でも口に運び、大人のまねもする1~2歳の事故が7割程度を占め、降圧剤や向精神薬の誤飲では少量でも重症化の事例がある。
厚生労働省などは「医薬品は子どもの手が届かない所に保管を」などの注意喚起を繰り返してきたが、誤飲は減っていない。2011年には東京都が、子ども向け水薬で、ふたを押し下げながら回さないと開かないといった仕様のCR容器の普及を求める提言をまとめた。だが目立った進展にはつながらなかった。
昨年12月、消費者庁の消費者安全調査委員会がCR包装容器導入の本格的な検討を厚労省に求める報告書を公表し、事態は動いた。同委は医薬品を封入する包装シートの見本を使って開封実験まで行い、子どもは開けにくいが高齢者には使用困難でない包装容器を実現できる可能性はあると結論付けた。
▽意義を知れば
子どもの誤飲防止策を研究してきた国立成育医療研究センター(東京)の石川洋一(いしかわ・よういち)薬剤部長は「CR包装容器の製造自体は難しくないが、保護者はもちろん社会全体がCRは必要だと認識しないと普及は難しい」と話す。
理由の一つは、大人でも慣れるまでは多少の開けにくさなどを感じることだ。石川さんは、CR包装の薬が登場しても「使いにくい」などと不評で、その後につながらなかった例を幾つも見ている。一方で、東京都の保護者調査ではCR支持者が大半。「誤飲が多発しており、事故を防ぐ目的の容器だと知れば、使ってもいいと考える人が多い」と石川さんは話す。
CRはコスト増にもなる。厚労省研究班の代表として薬の包装容器の見直し策を検討した土屋文人(つちや・ふみと)・日本病院薬剤師会副会長(国際医療福祉大特任教授)は、薬の製造段階で包装を変えるほかに「薬局での調剤の機会を活用する道も考えられる」と指摘する。
例えば、家に乳幼児がいるなど必要な人だけに、薬の包装シートにCR化シートを貼るなど「個別に安全策をプラスする方法は、費用負担の面からも理解を得やすいのでは」と土屋さんは言う。
▽具体的な情報を
製薬会社でつくる日本製薬団体連合会は、厚労省の要請を受け、安全性委員会でこの問題の検討を8月に開始。同委の千葉昌人(ちば・まさと)副委員長は「検討がある程度進んだ段階で、薬剤師会などの専門家団体と連携し、対策を考えていきたい」と話す。
何らかの見直しが行われるまでは家庭での対策が重要。だがその啓発にも課題がある。
親向けに子どもの病気の啓発活動をしている「知ろう小児医療守ろう子ども達の会」の阿真京子(あま・きょうこ)代表(42)は「『注意しよう』などの漠然としたメッセージでは親の心に響かない」と指摘する。
どういう状況で誤飲が起きたか、防げたのはどんな場合か。具体的で詳細な情報が有効だ。阿真さんによると、誤飲した子どもの親は自責の念が強く「親同士が集まる場でも体験を積極的には語らない」。共有されにくい情報をいかに集め、効果的に伝えるかが問われている。(共同=吉本明美)