2017年10月13日 (金)配信共同通信社
日本で働きながら技術を学ぶ「外国人技能実習制度」に11月から介護が加わり、今後現場で働く外国人が増える見通しだ。深刻な人手不足に悩む施設や事業所では、歓迎の声が上がる一方、安価な労働力とみなされる懸念も消えない。すでに経済連携協定(EPA)の枠組みで来日した介護福祉士や在日外国人ヘルパーらは欠かせない存在になっている。日本の介護を支える外国人たちに迫った。
「きれいな花ですね」。奈良県天理市の特別養護老人ホーム。インドネシア人の介護福祉士ナンシー・ノルタンティさん(32)が、高齢者の女性に笑顔で話し掛ける。
介護職における外国人の受け入れは、2008年にインドネシアとのEPAから始まった。フィリピン、ベトナムも加わり、これまでに約3500人が入国した。
ナンシーさんはEPA第2期生。大学で学んだ日本語を生かしたいと、09年に来日した。施設で4年間実習し、難関の国家試験に合格。期限なく日本で働けるようになった。「親も誇りに思ってくれている。ここでずっと働きたい」。ほぼ毎月仕送りし、母国で暮らす家族3人を支える。
業務を交代する時間になるとナンシーさんが、日本語で記録した利用者の様子を丁寧に読み上げる。細やかな引き継ぎに、同僚の信頼も厚い。入居者の村井静子(むらい・しずこ)さん(85)は、「なんでもすぐに気付いてくれる」と彼女を慕う。
勤務中に手が空くと、人目のつかない部屋で祈る。多いときで1日2回。イスラム教徒の大切な時間を、施設側も尊重する。
経営する医療法人健和会は、現在16人の介護士を雇い、すでに8人が国家資格を取得。厚生労働省によると、合格者の3割程度が帰国しているが、同施設を辞めて母国に帰ったのは1人しかいない。
岡田智幸(おかだ・ともゆき)事務局長は、「外国人の力は必要。命を預かる現場だけに、時間がかかっても定着を目指したい」と意気込む。技能実習生も20人弱受け入れる方針だ。研修施設も整備し、ナンシーさんらを交えて支援できる環境整備を進める。
外国人労働者の紹介を手掛ける人材派遣会社N.T.トータルケア(大阪市)は、技能実習生の来日を見越した施設から、すでに介護で100件を超す求人依頼があるという。
高橋太朗(たかはし・たろう)社長は「外国人を受け入れる体制や準備もなく、ただの労働力としてしか考えない施設は必ず失敗する。介護業界にとって、試練の1年になります」と話した。
※外国人技能実習制度
外国人を日本の企業や農家などで受け入れ、習得した技術を母国の経済発展に役立ててもらう制度。1993年に創設。期間は最長3年だが、11月から最長5年になり、農業や機械加工、自動車整備などに介護が加わる。昨年末時点で実習生は約23万人で、国籍別ではベトナム、中国、フィリピンの順で多い。労働基準法や最低賃金法の適用を受けるが、違法な時間外労働や賃金の不払いといった問題が指摘されている。