その他 2017年10月17日 (火)配信読売新聞
医療には、不思議に思うことがいくつもあります。その一つが「医薬分業」のあり方。具体的には、医師が発行する処方せんや、患者が持つ「おくすり手帳」の内容です。
外来の患者は、医療機関で処方せんを受け取り、それを調剤薬局に持っいって薬を受け取る。そういう院外処方が一般的になりました。おくすり手帳に、過去に受け取った薬の記録を貼り付けておけば、今回の薬を使って不都合がないか、薬剤師がチェックしてくれるわけです。
しかし、ここに大きな問題があります。処方せんにも、おくすり手帳にも、病名や病状が書かれていないことです。それでは、その薬を本当に使ってよいか、十分にチェックできないのです。
進められてきた医薬分業
かつては病院や診療所を受診すると、そこで薬も受け取るのが一般的でした。法律上は、明治政府による1874年(明治7年)の「医制」以来、医師が処方せんを発行して薬剤師が薬を出すという医薬分業が建前だったのですが、医師が調剤していた漢方医学の習慣、薬局の不足などにより、骨抜きになっていました。
やがて問題になったのは「薬価差益」です。薬の種類ごとに医療保険で決まっている薬価(公定価格)に比べ、医療機関が卸会社と交渉して仕入れる薬の値段のほうが、かなり安かったのです。そうすると、医療機関は薬で利ざやを稼げるので、もうけるために薬をたくさん出す傾向が生じているという批判が強まりました。
その問題の解消を大義名分に1990年代から医薬分業が本格的に進められました。処方せんを発行するのは医療機関。薬を売るのは調剤薬局。それぞれの経営を分離すれば、金もうけのために薬をたくさん使うことはなくなるだろう、というわけです。
政府は分業を進めるため、院外処方にすればそれなりの診療費が医療機関に入るように診療報酬の付け方を変えました。その結果、今では院外処方が主流になり、調剤薬局が大幅に増えました。厚生労働省は、薬の卸値の実勢を調べ、薬価と卸値の差額の大きい薬は薬価を下げてきたので、医療機関が院内で処方しても薬価差益が小さくなったという事情もあります。
薬剤師によるチェックも狙う
医薬分業のもう一つの大義名分は、薬の処方内容を薬剤師がチェックするという点です。医師が薬の処方を間違えることはあります。薬剤に関する知識不足で間違えたり、似たような名前の薬と間違えたり、用量を間違えたり……。診療所の場合は薬剤師がいることがまれですが、院外処方なら、調剤薬局の薬剤師のチェックが入るわけです。
「おくすり手帳」はとくに、複数の医療機関にかかっているときに役立ちます。薬の中には、別の薬と一緒に使うと、効き目が妨げられたり、作用が強くなりすぎたり、有害な現象が生じたりするものがあります。そういう「相互作用」や「併用禁忌」を薬剤師が電子データベースを使いながらチェックします。処方内容自体に矛盾点がないかも点検します。