焦点:コロナ再拡大の兆し オミクロン派生型、5月に9割 追加接種、加速へ
2022年3月31日 (木)配信毎日新聞社
入学や就職など年度替わりでの人の流れが活発化する中、新型コロナウイルス感染症がリバウンド(再拡大)の兆しを見せている。変異株「オミクロン株」の派生型BA・2への置き換わりが進んでおり、再拡大を後押ししている可能性もある。今夏には参院選を控えており、政府・与党は追加のワクチンの接種をさらに加速させる方針だ。
「感染拡大に入ったかどうか(の判断)は数日待つ必要があるが、リバウンドが起きる可能性があると考えている」。政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長は、30日の衆院厚生労働委員会で再拡大の可能性を指摘した。「(オミクロン株の派生型)BA・2への置き換わりが確実に起きている」とも述べ、「派生型」が再拡大の要因になっているとの見解を示した。
再拡大の兆候は全国で表れている。今月22日までの1週間の感染者数と前週の感染者数を比べると、増加傾向を示す「1以上」は4県だったが、29日までの1週間は前週比「1以上」の都道府県が37に上り、全国の値も「1・04」と1カ月半ぶりに増加に転じている。
現在、国内で主流となっているウイルスは、オミクロン株の「BA・1」系統だ。昨年11月、南アフリカで初めて報告され、瞬く間に世界へ拡散し、日本では昨年末の初確認後、1月に過去最大の流行をもたらした。オミクロン株は感染の足がかりとなるウイルスのたんぱく質に30以上の変異があり、感染者が他の人へ感染させるまでの時間や、感染後に発症するまでの潜伏期間が短いなどの特徴がある。
一方、新たに登場した「BA・2」系統は1人が何人に感染させるかを表す「実効再生産数」が従来のオミクロン株の1・4倍との報告もあり、感染力が増加している可能性がある。デンマークでは、従来のオミクロン株によって起きた流行が落ち着いた後、「BA・2」によって爆発的な感染増加を招いた。重症度やワクチンの効果は従来のオミクロン株と同程度とされるが、感染者がかつてないスピードで増えれば、重症者の増加や医療提供体制の逼迫(ひっぱく)につながる可能性もある。
国内でもBA・2への置き換わりが進みつつある。東京都によると、1月時点のゲノム解析ではBA・1が97%を占めていたものの、今月24日時点では81・5%に減り、BA・2は18・5%に増加した。3月8~14日に変異株を判別するPCR検査を実施した1067件のうち、BA・2疑いの検体は38・5%に上った。
国立感染症研究所が民間検査機関から集めた検体をゲノム解析した結果、BA・2は週内には60%の割合で置き換わり、ゴールデンウイークの5月1週目には93%に達して主流になるとする推計を示している。
京都大の西浦博教授(理論疫学)は、ワクチンの追加接種や子ども(5~11歳)の接種のほか、春休みで学校活動が減ることなどが感染者数を減らす要因になるとみる一方、年度替わりの接触の増加やBA・2への置き換わりなどが増加の原因になるとみている。大型連休を控え、感染拡大にどう歯止めをかけるのか手探りの状態が続く。【金秀蓮】
◇「第7波」なら参院選逆風 岸田首相、ぴりぴり
岸田文雄首相は、感染力が強いとされる「BA・2」の広がりに神経をとがらせている。感染の「第6波」のピークは越えたものの、「第7波」到来を招けば、7月に想定される参院選で与党が逆風にさらされかねないためだ。
「4回目接種の会場の確保とか対応は考えておいてほしい」。首相は30日、東京都の小池百合子知事と首相官邸で会談し、新型コロナウイルスワクチンの4回目接種に向けて準備を始めるよう要請。政府は現在、3回目接種を急いでいる最中だが、BA・2への危機感を共有した形だ。東京都の30日の新規感染者数は前週から約3000人増加した。
首相が21日にまん延防止等重点措置を全面解除したのは、行動制限の長期化は政権批判につながりかねないと考えたためだ。基準を緩和してまで解除に踏み切ったが、その際の不安材料だった感染再拡大の兆候が早くも表れ、首相官邸幹部は「感染者増が医療体制にどう影響していくか。非常に気になる」と語る。
まん延防止措置の再適用について、首相は周囲に「自然体で臨む」と繰り返している。医療体制が逼迫(ひっぱく)する恐れがあり、自治体側から適用要請があれば、応じることを想定する。
だが、「コロナ対策に失敗したように映る」(官邸関係者)として、6月22日公示、7月10日投開票の日程とみられる参院選の前に再適用することは、なるべく避けたいのが政権の本音だ。全面解除後の報道各社の世論調査ではおおむね、内閣支持率は上昇したが、首相周辺は「再適用すれば下落するだろう」と予想する。
このため政府は、病床の増加支援や看護師の派遣単価の引き上げ、検査体制の強化などに躍起だ。ワクチン接種に関しては、3回目と4回目との間隔を「6カ月間」にすれば、4回目は今夏のスタートとなるが、官邸内には5月に前倒しする案も浮上している。
4回目接種の有効性や安全性に関する知見が出そろっていない段階での前倒し案に、ある自治体関係者は「専門家の意見よりも政治主導という感じだ。参院選に向けて必死ということだろう」と話す。【花澤葵】