温泉クンの旅日記

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加賀井温泉 長野・松代町

2006-11-19 | 温泉エッセイ
< ハシゴ >

「え、あんたもう出たのー!」

 砂利道に並んで置かれた自動販売機のところで、なにを飲もうか迷っている
汗だくのわたしの背中に、「加賀井温泉 一陽館」の主人が素っ頓狂な声をかけ
た。



 気さくなご主人で、来る客来る客に、源泉の湧口や混浴風呂をみせて丁寧に説明
をして「ここはとにかく、いーい温泉だからゆっくりはいんなよ」と言っているの
だ。
 旅館といっても建物はさびれており、いまや日帰りがメインとなっているよう
だ。料金は三百円と格安である。

 古びた木造の粗末な温泉棟であった。古びた閉まりきらないドアがふたつ並び、
手前が男湯、奥が女湯の入り口だ。
 はいると、低い仕切りで内湯が男女にわかれている。畳二枚ほどの細長い石造り
の浴槽の横に、すのこが敷かれ、棚に脱衣の籠がならんでいる。
 遠目で気がつきにくいが、すのこが濡れているので靴下は入り口で脱ぐべきで
ある。靴下を濡らしたわたしがいっておく。



 お湯がなかなかすごい。源泉は透明だが、炭酸カルシウムと鉄分が多いため、
しばらくすると薄い褐色に変わる。成分がかなり濃い温泉だが、どこかやさしい
湯だ。ご主人曰く、効能は相当なありがたいものがあるらしい。

 外の露天風呂は源泉が違う。お湯の色からみて、さきほどはいった松代温泉と
同じようだ。女湯のドアの前を通り踏み石をひろって素裸で歩いていくのだが、
松代と同じ温泉と思い、試してみなかった。混浴で、さきほど案内されたときに、
若い女性がはいっていたような気もする。



 ついさっき眼と鼻の先にある、松代温泉「松代荘」で立ち寄り入浴をしてきた
ばかりなのだ。料金は五百円で、含鉄・ナトリウムカルシウム・塩化物泉。ここの
温泉は群馬の「梨木鉱泉」や函館の「谷地頭温泉」によく似ている泥湯系で、濃厚
かつ高温、きわめて強烈であった。ここの施設は真新しく宿泊料金も公共だから
手ごろである。

 松代の濃厚な泥湯ですでに身体が火照りきっていたから、主人ご自慢の温泉を
あっというまに出てしまったのだ。

「あ、どうも。ジツはここの前にすぐそばの松代温泉にはいってきたものです
から」
 慌てて言い訳するわたしに、ご主人、ジロリと一瞥をおくると、
「なにぃ・・・温泉のハシゴはいかん! 温泉というのは・・・」

 言い訳がまずかったようだ。しばらくは頭をたれて拝聴することにした。イチ
ゲンの三百円の客に、これほどの情熱を持って語ってくれるのが、どこかありがた
かった。
 まず千湯、が目標の果てしない温泉行脚旅ゆえ、一日にそれは、なん湯もハシゴ
するのだ。
 馬鹿みたいな温泉好きだから、食前食後就寝前起き抜けは当たり前だし、酒を
しこたま呑んだ後にもはいる。身体に悪いが、千湯まではこのガツガツハシゴ路線
でいくつもりなのだ。

「温泉はそれぞれの効能があるのだから、ハシゴして悪い反応を引き起こすこと
もあるのだ。火山性の温泉の次にここのお湯に続けてはいり皮膚が黒くなった例も
ある。だいたい温泉ていうのは・・・」
「誠に、ごもっともです。こんどきたときには、必ずゆっくりはいりますから」
 次の客がきた瞬間に、「失礼します」とモゴモゴいって逃げ出した。

 この加賀井温泉が九百九十九湯目である。あと、ひとつ。
 千湯を越したら、「とにかくはいったことのない温泉メイン」のガツガツハシゴ
路線をきっぱりやめて、「吟味した温泉メイン」でゆっくりゆったり路線に転向す
るつもりである。

 もっとも、吟味したい温泉が遠ければ、一日になん百キロもひた走る馬鹿ドライ
ブはかわらないけれども。
 それでも千湯までのように「数をこなす」ことを第一義としないので、ちょっぴ
りはゆったり気分を味わえる。・・・と思うのだ。

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