<宿酔いにはこのソフト>
(思ったよりも、ひどい宿酔いだ・・・)
昼時をかなり過ぎたころに伊東駅の改札を出たのだが、まるで食欲がない。かなりの呑みすぎだ。昨晩は途中で日本酒に変えたのが失敗だった。何杯呑んだかなどと無理に思いだすと、ますます具合が悪くなりそうなのでやめておく。
年がら年中宿酔いをしているのであるから、対処は心得ている。たいていは昼メシを食べれば治る。ひどい場合で食欲がまるでないときは、コーラを飲めばあら不思議、快方に向かう。
今日はもうコーラも試したが快方に向かわないのだから始末に悪い。頭が痛くなることはない、腹のあたりが猛烈にむかついているのだ。
思考能力ゼロ、喰いたいものが浮かばない。まあ、食事は無理にとらなくていいか。うん、そうだ。アイスクリームならなんとなく食べられそうだ。
たしか、パーラーみたいな店が一軒あったな。煙草吸えるようならそこにしよう。
江戸屋の角から湯の花通りにはいって道なりに進み、狭い車道を渡るとキネマ通りのアーケードにつながる。
アーケード街にはいってから歩いてすぐに、右手に足湯ならぬ「手湯」があったらそこを右に曲がれば三十メートルほどの角にその店「スイートハウスわかば」はみつかる。
テーブルに灰皿があるのを見きわめてから、店にはいった。
いったん店のなかほどまで進み、客層をみて喫煙しやすそうな入り口付近に戻って席に座った。あちこちのテーブルに煎茶の湯呑が置かれていたのが気になる。急に渋いお茶も飲みたくなってきた。
「お食事ですか」
メニューをぼんやりじっくりと見ていると、小走りにやってきた元気そうな若奥さんふうの女性が訊いた。
「いや、なにか冷たいもの、アイスクリームみたいな・・・やつが」
「でしたら、この店一番人気のソフトクリームがお薦めですけど」
あ、いかん。キラキラした瞳でじぃっと見つめられたせいか、じゃあそれでいいというふうに、思わず頷いてしまった。なにしろ思考能力ゼロだもんね。
「あ、あのォ」
またも小走りに去りかける後ろ姿につい声をかけた。
「え、なにか」
「お茶なんかついてきたりしますか」
「ソフトにはつきませんが、つけちゃいましょうか」
「できれば!」
すみませんねぇ、とまたへこへこ卑屈に頷いてしまう。ついでに梅干しもつけてくれるとワシすごい嬉しい、とはさすがに言えない。
運ばれたソフトをみて、煙草に噎せかえり絶句してしまった。
(これって嘘だろォ・・・)
まるで雪だるまみたいなでかいソフトで、まず目が点になり、ついで目を剥いてしまう。
(ソフトの大盛りというか特々盛じゃねえか)
この瞬間、知っている誰にもみられたくない。スィーツ大好きなおっさん以外の何者でもない。
乳製品、とくに牧場で搾りたての牛乳をゴクゴク飲むのは、旅の最初のころはなかなかの楽しみであった。ところがその牛乳が原因で、百発百中腹の調子がおかしくなることがやがてわかり、残念なことに旅先でも敬遠するようになってしまった。
なんでも、牛乳に含まれている「乳糖」という成分を分解する酵素が、子どものころには充分に体内で作り出すのだが、齢を加えるにしたがって酵素の量が減ってしまう。
女性よりも男性、成人男子ではいずれは牛乳が苦手になるのだそうだ。
わたしも牛乳はまるでダメになってしまったが、アイスクリームとかソフトクリームのほうは、あまり腹にこない。
アイスクリームとソフトクリームの原材料はほとんど変わらない。違いは空気含有量と製造温度で、アイスは製造温度が低い。したがって、硬い。
ソフトは空気含有量が多いので柔らかである。
とはいうものの「乳糖」も多少含まれているから、少量にこしたことはないのだ。ハーゲンダッツのアイスの量は適量である。そういえば北海道の長沼のソフトは嬉しいことに小のサイズがあったな。
注文してしまったのでもう四の五の言ってもしかたがない、というより溶けてしまう。
スプーンを突き刺してたっぷり掬いとり味をみる。
思ったより濃厚でなめらか、甘みも上品である。冷たくて旨い。えい、いけるとこまでいくしかないか。スプーンを止めたらそれまでなので、次々と口に運ぶ。
もう、だめ。限界。白旗のギブ・アップ。
一、二割残して挫折して、場違いなお茶を喫し煙草に火をつけた。我ながらよくぞ敢闘したな。これなら、コメダのミニでないシロノワールくらいペロリと食べられるかもしれない。
酒呑みには、およそありえない巨大ソフトとの格闘に熱中してしまった。負け戦ではあったが、そのおかげで図らずもひどい宿酔いが霧消したことにいま気がついたのであった。
念のため、トイレの場所だけ確認しておこうか。
→「読んだ本 2011年11月」の記事はこちら
→「北海道旅日記(3)」の記事はこちら
(思ったよりも、ひどい宿酔いだ・・・)
昼時をかなり過ぎたころに伊東駅の改札を出たのだが、まるで食欲がない。かなりの呑みすぎだ。昨晩は途中で日本酒に変えたのが失敗だった。何杯呑んだかなどと無理に思いだすと、ますます具合が悪くなりそうなのでやめておく。
年がら年中宿酔いをしているのであるから、対処は心得ている。たいていは昼メシを食べれば治る。ひどい場合で食欲がまるでないときは、コーラを飲めばあら不思議、快方に向かう。
今日はもうコーラも試したが快方に向かわないのだから始末に悪い。頭が痛くなることはない、腹のあたりが猛烈にむかついているのだ。
思考能力ゼロ、喰いたいものが浮かばない。まあ、食事は無理にとらなくていいか。うん、そうだ。アイスクリームならなんとなく食べられそうだ。
たしか、パーラーみたいな店が一軒あったな。煙草吸えるようならそこにしよう。
江戸屋の角から湯の花通りにはいって道なりに進み、狭い車道を渡るとキネマ通りのアーケードにつながる。
アーケード街にはいってから歩いてすぐに、右手に足湯ならぬ「手湯」があったらそこを右に曲がれば三十メートルほどの角にその店「スイートハウスわかば」はみつかる。
テーブルに灰皿があるのを見きわめてから、店にはいった。
いったん店のなかほどまで進み、客層をみて喫煙しやすそうな入り口付近に戻って席に座った。あちこちのテーブルに煎茶の湯呑が置かれていたのが気になる。急に渋いお茶も飲みたくなってきた。
「お食事ですか」
メニューをぼんやりじっくりと見ていると、小走りにやってきた元気そうな若奥さんふうの女性が訊いた。
「いや、なにか冷たいもの、アイスクリームみたいな・・・やつが」
「でしたら、この店一番人気のソフトクリームがお薦めですけど」
あ、いかん。キラキラした瞳でじぃっと見つめられたせいか、じゃあそれでいいというふうに、思わず頷いてしまった。なにしろ思考能力ゼロだもんね。
「あ、あのォ」
またも小走りに去りかける後ろ姿につい声をかけた。
「え、なにか」
「お茶なんかついてきたりしますか」
「ソフトにはつきませんが、つけちゃいましょうか」
「できれば!」
すみませんねぇ、とまたへこへこ卑屈に頷いてしまう。ついでに梅干しもつけてくれるとワシすごい嬉しい、とはさすがに言えない。
運ばれたソフトをみて、煙草に噎せかえり絶句してしまった。
(これって嘘だろォ・・・)
まるで雪だるまみたいなでかいソフトで、まず目が点になり、ついで目を剥いてしまう。
(ソフトの大盛りというか特々盛じゃねえか)
この瞬間、知っている誰にもみられたくない。スィーツ大好きなおっさん以外の何者でもない。
乳製品、とくに牧場で搾りたての牛乳をゴクゴク飲むのは、旅の最初のころはなかなかの楽しみであった。ところがその牛乳が原因で、百発百中腹の調子がおかしくなることがやがてわかり、残念なことに旅先でも敬遠するようになってしまった。
なんでも、牛乳に含まれている「乳糖」という成分を分解する酵素が、子どものころには充分に体内で作り出すのだが、齢を加えるにしたがって酵素の量が減ってしまう。
女性よりも男性、成人男子ではいずれは牛乳が苦手になるのだそうだ。
わたしも牛乳はまるでダメになってしまったが、アイスクリームとかソフトクリームのほうは、あまり腹にこない。
アイスクリームとソフトクリームの原材料はほとんど変わらない。違いは空気含有量と製造温度で、アイスは製造温度が低い。したがって、硬い。
ソフトは空気含有量が多いので柔らかである。
とはいうものの「乳糖」も多少含まれているから、少量にこしたことはないのだ。ハーゲンダッツのアイスの量は適量である。そういえば北海道の長沼のソフトは嬉しいことに小のサイズがあったな。
注文してしまったのでもう四の五の言ってもしかたがない、というより溶けてしまう。
スプーンを突き刺してたっぷり掬いとり味をみる。
思ったより濃厚でなめらか、甘みも上品である。冷たくて旨い。えい、いけるとこまでいくしかないか。スプーンを止めたらそれまでなので、次々と口に運ぶ。
もう、だめ。限界。白旗のギブ・アップ。
一、二割残して挫折して、場違いなお茶を喫し煙草に火をつけた。我ながらよくぞ敢闘したな。これなら、コメダのミニでないシロノワールくらいペロリと食べられるかもしれない。
酒呑みには、およそありえない巨大ソフトとの格闘に熱中してしまった。負け戦ではあったが、そのおかげで図らずもひどい宿酔いが霧消したことにいま気がついたのであった。
念のため、トイレの場所だけ確認しておこうか。
→「読んだ本 2011年11月」の記事はこちら
→「北海道旅日記(3)」の記事はこちら
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます