<長崎カステラ>
長崎土産には、やっぱりカステラを買うことにした。だいたいカステラを貰って喜ばず、迷惑がるようなセレブはわたしのまわりにはいない。
前に来た時に買った松翁軒(しょうおうけん)のカステラの評判が非常に良かったので、またそこで買おうと思う。松翁軒は創業三百年を超える老舗である。
ただ、場所がわからない。記憶では眼鏡橋の近くだった。
眼鏡橋のところにいつも屋台を出している、名物のアイスクリーム屋がある。
「あの、この辺に松翁軒というカステラ屋があると思うんですけど・・・」
アイスクリームをひとつ買って、尋ねた。
「松翁軒・・・ありますけど、カステラだったらやっぱり匠寛堂(しょうかんどう)が評判ですけど」
おばさんは近くに座っている地元ふうの叔父さんに、同意を求める。
「匠寛堂は皇室に献上しているしね、やっぱりモノが違うよね」
皇室献上品が旨さの尺度とはまるで思わない。まあ、自分では食べないであげてしまう土産なので、それでもいいかな。
「ふーん、そうなんですか。で、その店はどのへんにあるんですか」
おばさんは、振り返って目と鼻のところにある店を指さした。
アイスクリームを食べながら店先を覗いていると、店のひとがでてきて、
「どうぞ、試食もございますし、中にはいってご覧になってくださいな」
と、連れ込まれてしまう。
店のなかに並ぶ商品はどれも高いものばかりだった。なんと桐の箱にはいったものもある。一番安いのでも、松翁軒に使おうとしていた予算の二割増しくらいか。「五三焼 佳好帝良」と、カステラをいかにもコ難しい当て字で書かれている商品名だ。
五三焼とは、カステラの原材料の配合が「卵黄五、卵白三」の割合からきている。
ありがたい商品説明を聞いているうちに、絶妙のタイミングでお茶と試食のカステラが運ばれてきて、さらに断りにくくなってくる。客はわたし一人に店員は三人で、多勢に無勢である。
試食のカステラはいかにも皇室献上物らしく、甘みが上品である。
(しょうがない、試食のカステラもたしかにまあまあ旨いし今回はここのを奮発するか)
図々しく追加の試食を頼むと、一番安いのを二本、宅配で買ってしまう。
勘定を払いながら、予定していた松翁軒の場所を訊いた。松翁軒の二階に喫茶店があったのを思い出したからだ。
松翁軒の、カステラ屋にしては重厚なビルである。
店の左側に二階の喫茶店につづく階段がある。
メニューを見ていたら、なかにカステラセットというのがある。せっかくだから、松翁軒のカステラも食べておこうと、それにした。
煙草を吸いにくい雰囲気だが、だいじょうぶとのことである。もしかして、あのアイスクリーム屋は、いくつかの店を提携しているような気がしてきた。きっとちゃんぽんの店を訊いたら、決まった店を勧める・・・そんな気がしてきた。
運ばれてきた、セットのカステラをみて吃驚した。かなりの厚みがあり、しかもふた切れもある。さっきの店で試食のカステラの追加などしなければよかった。
ひとくち食べて、やっぱりこちらのほうが庶民のわたしには合っている、正直、こちらのほうが旨いと思った。
みっしりした質感と、焼き上がりの表面の味、底面のざらめの歯触り、くどくもなく上品すぎぬ渾然とした飽きない甘みである。
カステラは滅多に口にはいらない貴重なお菓子だった子ども時代を過ごしているので、ふた切れ目もなんとか食べきった。ふぅ。
こんなにしこたまにカステラ食っちゃうと、呑兵衛の看板を下ろさにゃいかないかも。
→「長崎のトルコライス」の記事はこちら
→「長崎ちゃんぽん」の記事はこちら
長崎土産には、やっぱりカステラを買うことにした。だいたいカステラを貰って喜ばず、迷惑がるようなセレブはわたしのまわりにはいない。
前に来た時に買った松翁軒(しょうおうけん)のカステラの評判が非常に良かったので、またそこで買おうと思う。松翁軒は創業三百年を超える老舗である。
ただ、場所がわからない。記憶では眼鏡橋の近くだった。
眼鏡橋のところにいつも屋台を出している、名物のアイスクリーム屋がある。
「あの、この辺に松翁軒というカステラ屋があると思うんですけど・・・」
アイスクリームをひとつ買って、尋ねた。
「松翁軒・・・ありますけど、カステラだったらやっぱり匠寛堂(しょうかんどう)が評判ですけど」
おばさんは近くに座っている地元ふうの叔父さんに、同意を求める。
「匠寛堂は皇室に献上しているしね、やっぱりモノが違うよね」
皇室献上品が旨さの尺度とはまるで思わない。まあ、自分では食べないであげてしまう土産なので、それでもいいかな。
「ふーん、そうなんですか。で、その店はどのへんにあるんですか」
おばさんは、振り返って目と鼻のところにある店を指さした。
アイスクリームを食べながら店先を覗いていると、店のひとがでてきて、
「どうぞ、試食もございますし、中にはいってご覧になってくださいな」
と、連れ込まれてしまう。
店のなかに並ぶ商品はどれも高いものばかりだった。なんと桐の箱にはいったものもある。一番安いのでも、松翁軒に使おうとしていた予算の二割増しくらいか。「五三焼 佳好帝良」と、カステラをいかにもコ難しい当て字で書かれている商品名だ。
五三焼とは、カステラの原材料の配合が「卵黄五、卵白三」の割合からきている。
ありがたい商品説明を聞いているうちに、絶妙のタイミングでお茶と試食のカステラが運ばれてきて、さらに断りにくくなってくる。客はわたし一人に店員は三人で、多勢に無勢である。
試食のカステラはいかにも皇室献上物らしく、甘みが上品である。
(しょうがない、試食のカステラもたしかにまあまあ旨いし今回はここのを奮発するか)
図々しく追加の試食を頼むと、一番安いのを二本、宅配で買ってしまう。
勘定を払いながら、予定していた松翁軒の場所を訊いた。松翁軒の二階に喫茶店があったのを思い出したからだ。
松翁軒の、カステラ屋にしては重厚なビルである。
店の左側に二階の喫茶店につづく階段がある。
メニューを見ていたら、なかにカステラセットというのがある。せっかくだから、松翁軒のカステラも食べておこうと、それにした。
煙草を吸いにくい雰囲気だが、だいじょうぶとのことである。もしかして、あのアイスクリーム屋は、いくつかの店を提携しているような気がしてきた。きっとちゃんぽんの店を訊いたら、決まった店を勧める・・・そんな気がしてきた。
運ばれてきた、セットのカステラをみて吃驚した。かなりの厚みがあり、しかもふた切れもある。さっきの店で試食のカステラの追加などしなければよかった。
ひとくち食べて、やっぱりこちらのほうが庶民のわたしには合っている、正直、こちらのほうが旨いと思った。
みっしりした質感と、焼き上がりの表面の味、底面のざらめの歯触り、くどくもなく上品すぎぬ渾然とした飽きない甘みである。
カステラは滅多に口にはいらない貴重なお菓子だった子ども時代を過ごしているので、ふた切れ目もなんとか食べきった。ふぅ。
こんなにしこたまにカステラ食っちゃうと、呑兵衛の看板を下ろさにゃいかないかも。
→「長崎のトルコライス」の記事はこちら
→「長崎ちゃんぽん」の記事はこちら
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