温泉クンの旅日記

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佐原、超老舗の黒切蕎麦

2016-02-03 | 食べある記
  <佐原、超老舗の黒切蕎麦>

(ふーむ、あの池波正太郎も来たというが満更嘘ではないのかもしれない・・・)





 この蕎麦屋、時代小説好きなら堪らない佇まいである。素通りはできずにぴたりと足を停めてしまうだろう。店の建物は明治期に江戸様式で再建されたもので、県有文化財に指定されている。
 引き戸を開け江戸情緒の片鱗がそこはかとなく漂う店内に入り、右手の狭い二人掛けの小上がりの席に座った。左手の広い畳席も半分ほど客で埋まっている。急な階段の上、二階にも席があるらしいがいまは使われていないようだ。



「おい、まずは熱い酒(の)を二本ばかりくれ」、鬼の平蔵ならそう言いたくなる店の雰囲気であるが、わたしは車の運転があるのでそうはいかない。
 メニューをざっと見るふりだけして、いつもの盛りそばを注文する。



 蕎麦屋の老舗だが、室町時代、応仁の乱(1466年―1477年)の前年という寛正六年(1465年)に創業した京都「本家尾張屋 本店」が一番古い。飲食店の老舗といえばとにかく京都には敵わない。もっとも、蕎麦切りが始まったのは諸説あって安土桃山の天正年間のころとか、江戸時代にはいってからとか言われるので室町では蕎麦掻きみたいにして食したのだろう。
 次には寛永元年(1624年)の木曾中山道「越前屋」、そして1735年とも1750年ごろと言われる江戸の「藪蕎麦」と続くらしい。小堀屋はもともと醤油醸造業だったのが、天明の火事をきっかけに天明二年(1782年)に蕎麦屋に転業したそうだから老舗の五本指には間違いなく入るだろう。



 ひょいと裏返したメニューに「黒きりそば」を発見して、イケネェしまったぞと慌てる。雰囲気に呑まれて名物をすっかりど忘れしたのだ。ええい二枚くらいいけるだろうと、黒切蕎麦も追加注文したが、いかにも観光地値段みたいに高いのがすこし気になる。

 黒切蕎麦は北海道の日高昆布を練り込んだ、この店名物の変わり蕎麦である。黒切は通年だが、柚子皮を練り込んだ冬季限定の柚子切蕎麦もある。 この店には、なんでも享和期に記された秘伝書があり、つゆと、蕎麦、うどん、素麺など五十七種類の麺の製法が書かれているそうだ。

 先に盛り蕎麦が届いた。



 いつものように蕎麦つゆを少量啜る・・・好みよりほんの少しだけ甘いか。山葵が少ないから途中で七味をたっぷり振って味を調えるとしよう。



 蕎麦を数本摘み味わう。どことなく更科系っぽく、腰もあり、味はなかなかといったところだ。



 盛りを食べ始めたところで、黒切蕎麦が到着した。黒々とした照りで、一見イカスミパスタか、まるで竹炭の墨でも練り込んだような艶だ。



 蕎麦を摘み味わう・・・盛りよりははるかに腰があり、うっすらと昆布の風味があるが蕎麦自体の味はどこかに逃げたか隠れてしまっている。蕎麦らしくない黒切の出番を後にして、先に無難な盛り蕎麦から食べ切ることにする。

 江戸のころ昆布は北前船西回り航路で天下の台所大坂まで運ばれて、真昆布・利尻・羅臼などの上物はもっぱら京大阪で消費され、格下の手ごろな値段の日高昆布が江戸に流通したそうだ。
 手ごろな値段といっても昆布はそれなりに高価だ。出汁を引いただけで捨てるのももったいない。初代は考える。これで変わり蕎麦が造れれば名物になるのではないか・・・。
 これなら色のわりに風味がたりないのも頷ける。と、これはすべてわたしの勝手読みである。

 美食家の平蔵なら「蕎麦もうめぇが、この黒切てぇのが風味が良くてオツな味で滅法酒に合う。気に入ったぞ、オヤジまた来る」、「あの、ただいまお釣りを」、「いいから取っとけ」なんてなるかも。
 どちらかというと盗人顔で懐の寒いわたしはそうはいかず、とりあえず残さず食べたので腹はいっぱいにはなったが「名物になんとやら」で、変わり蕎麦ジャンルの黒切はわたしにはまるで合わずこの一度きりでいいようだ。
 なんにしても、待ち時間無しで得難い雰囲気の店に入れてすんなり二枚も蕎麦を手繰れただけでも僥倖と思わねばなるまい。



 本店のすぐそばの元千葉銀行の古めかしい立派な建物が、蕎麦屋の別館になっているらしい。その別館前の古本屋で「飛びきり旨いたい焼き」が手に入ると、これは後で知ることになるのだ。




  →「たい焼き、老舗 VS 古本屋」の記事はこちら
  →「佐原の町並みを歩く(1)」の記事はこちら

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