<湯野上温泉>
「髭が剃りたいなあ・・・」
運転のかたわら、栗のイガみたいに掌に刺さる顎と頬を擦りながら思う。わたしは髭が濃い。普段は寝る前に電気シェーバーで綺麗に剃って朝もう一度剃るのである。旅先には重いのでシェーバーは持っていかない。今朝は泊った温泉の洗い場が混んでいて剃らなかったのだ。どっかの温泉に立寄るとするか。
俗に「ファイブ・オクロック・シャドウ」と言って、朝剃った髭が夕方になるとうっすら伸びて男の顔に影をつくるのだが、わたしの場合には「スリー・オクロック・シャドウ」なのだ
何度か泊ったことのある芦の牧温泉はあっさり通り過ぎ、湯野上温泉に立寄ることにした。湯野上にはその昔に蕎麦民宿みたいなところに一度泊ったきりである。
会津鉄道会津線の湯野上温泉駅は、全国でも珍しい茅葺屋根の駅舎で有名である。
駅舎内には囲炉裏もあり、ちょっとタイムスリップしたような雰囲気が味わえる。近くに大内宿という観光スポットもあるので、いついっても観光客がいっぱいだ。
「清水屋旅館」は客室十二室と、小体な宿である。
昭和なムード一杯でエレベータもなくトイレのない部屋もあるが、自家源泉による源泉掛け流しの温泉と「一宿一飯のおもてなし」を提供する良心的な宿だ。
国道と線路に挟まれた細長い立地である。
玄関を入ると三和土のところに三人組の男性がいた。靴を履いたままなので日帰り温泉に入るわけではなさそうだ。
靴を脱いでスリッパに履き替え、フロントにいる妙齢の女性、つまりおばさんに日帰りで入浴したいと告げて、ついでに剃刀を求めた。
すぐに剃刀が出るかと思えば見つからないらしく、おばさんはどこやらに電話を掛けて在り場所の指示を受けている。
「見つかった?」
剃刀が見つかったのと同時のタイミングで、階段から美人の若女将が降りてきた。どうやら三人組は若女将を待っていたのだ。三人組は前に宿泊した新潟からの客のようで、近くへ通りかかったのでお土産を持ってきたらしい。下心見え見えだが、なんとなく微笑ましい。
「剃刀、いくらですか?」
おばさんが返事をする前に若女将が「ああ、サービスしておきますので。いいですから」という。なんともありがたい。
浴室をまず覗いた。
よし、誰もいないぞ。最速で裸になり、熱めの湯を足先から丁寧に掛けていく。
顎まで、唇ぎりぎりまで湯に沈めていく。
すこし格好悪いので他に先客がいないにこしたことはない。濃い髭を湯で充分に温めないと剃刀が引っかかって痛いのである。弱アルカリ単純泉で高めの泉温だから丁度いい。
静かなので隣の女性浴場から年配女性と若い女性の話声が聞えてくる。年配の女性のほうがどうやら身体がすこし不自由で若い女性は付き添っているようだ。なにを言っているのかまでは聞き取れない。
曇りガラスの窓のすぐ向こう、眼と鼻の先を電車が轟音をあげて走っていく。
着替えると、離れたところにある露天風呂にいってみる。
線路が湯船のすぐそばにあるのが面白い。
女性専用の時間があるそうだが、電車から見られないように暗くなってからだろう。
いくつもあるが、泉質はすべて一緒だ。
さすがに汗が引かないくらいに温まっているので、また脱いで入る気はしない。それに混浴だそうなので、さきほど隣の浴室にいた女性客がくるかもしれない。
安い素泊まりでも夜食をサービスしてくれる気配りの宿・・・機会があれば泊ってみてもいいかな。いや、ぜひ泊ってみたい。
→「ばすちゃんとかけそば」の記事はこちら
→「三澤屋の高遠蕎麦」の記事はこちら
「髭が剃りたいなあ・・・」
運転のかたわら、栗のイガみたいに掌に刺さる顎と頬を擦りながら思う。わたしは髭が濃い。普段は寝る前に電気シェーバーで綺麗に剃って朝もう一度剃るのである。旅先には重いのでシェーバーは持っていかない。今朝は泊った温泉の洗い場が混んでいて剃らなかったのだ。どっかの温泉に立寄るとするか。
俗に「ファイブ・オクロック・シャドウ」と言って、朝剃った髭が夕方になるとうっすら伸びて男の顔に影をつくるのだが、わたしの場合には「スリー・オクロック・シャドウ」なのだ
何度か泊ったことのある芦の牧温泉はあっさり通り過ぎ、湯野上温泉に立寄ることにした。湯野上にはその昔に蕎麦民宿みたいなところに一度泊ったきりである。
会津鉄道会津線の湯野上温泉駅は、全国でも珍しい茅葺屋根の駅舎で有名である。
駅舎内には囲炉裏もあり、ちょっとタイムスリップしたような雰囲気が味わえる。近くに大内宿という観光スポットもあるので、いついっても観光客がいっぱいだ。
「清水屋旅館」は客室十二室と、小体な宿である。
昭和なムード一杯でエレベータもなくトイレのない部屋もあるが、自家源泉による源泉掛け流しの温泉と「一宿一飯のおもてなし」を提供する良心的な宿だ。
国道と線路に挟まれた細長い立地である。
玄関を入ると三和土のところに三人組の男性がいた。靴を履いたままなので日帰り温泉に入るわけではなさそうだ。
靴を脱いでスリッパに履き替え、フロントにいる妙齢の女性、つまりおばさんに日帰りで入浴したいと告げて、ついでに剃刀を求めた。
すぐに剃刀が出るかと思えば見つからないらしく、おばさんはどこやらに電話を掛けて在り場所の指示を受けている。
「見つかった?」
剃刀が見つかったのと同時のタイミングで、階段から美人の若女将が降りてきた。どうやら三人組は若女将を待っていたのだ。三人組は前に宿泊した新潟からの客のようで、近くへ通りかかったのでお土産を持ってきたらしい。下心見え見えだが、なんとなく微笑ましい。
「剃刀、いくらですか?」
おばさんが返事をする前に若女将が「ああ、サービスしておきますので。いいですから」という。なんともありがたい。
浴室をまず覗いた。
よし、誰もいないぞ。最速で裸になり、熱めの湯を足先から丁寧に掛けていく。
顎まで、唇ぎりぎりまで湯に沈めていく。
すこし格好悪いので他に先客がいないにこしたことはない。濃い髭を湯で充分に温めないと剃刀が引っかかって痛いのである。弱アルカリ単純泉で高めの泉温だから丁度いい。
静かなので隣の女性浴場から年配女性と若い女性の話声が聞えてくる。年配の女性のほうがどうやら身体がすこし不自由で若い女性は付き添っているようだ。なにを言っているのかまでは聞き取れない。
曇りガラスの窓のすぐ向こう、眼と鼻の先を電車が轟音をあげて走っていく。
着替えると、離れたところにある露天風呂にいってみる。
線路が湯船のすぐそばにあるのが面白い。
女性専用の時間があるそうだが、電車から見られないように暗くなってからだろう。
いくつもあるが、泉質はすべて一緒だ。
さすがに汗が引かないくらいに温まっているので、また脱いで入る気はしない。それに混浴だそうなので、さきほど隣の浴室にいた女性客がくるかもしれない。
安い素泊まりでも夜食をサービスしてくれる気配りの宿・・・機会があれば泊ってみてもいいかな。いや、ぜひ泊ってみたい。
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