温泉クンの旅日記

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ある晴れた朝天ぷら屋に

2012-05-09 | 食べある記
  <ある晴れた朝天ぷら屋に>

「ある晴れた朝突然に」というなんとも魅力的な題名の、ジャン・ポール・ベルモンド主演のフランス映画があった。昔の洋画は題名に力が入っていたのだ。



 そんなわけで・・・ある晴れた朝突然に、天ぷらを食いたくなった。
 それも総菜屋の冷えたやつではない、熱々の天麩羅を、である。それを適当な値段で食べされてくれる店のアテがあるからこそ思ったとも言える。

 新宿三越の裏手には、手頃な値段で天ぷら定食を食べられる庶民的な店がなんと二軒もある。
「つな八」と「F屋」である。銀座の「天」が付くお高い店などとくらべても遜色はない老舗だ。



 どちらも人気があるのだが、わたしは初めて入った「つな八」のほうをつい選択してしまう。この店、創業八十余年の老舗だ。開店が午前十一時と早いのも嬉しい。

「お煙草はお吸いになりますか」
 ランチタイムは全面禁煙の店が多いなか、こういう質問はなんとも嬉しくて思わず頬がゆるむ。
「はい、吸います」
 入り口に一番近い、眼の前のカウンターが喫煙席のようでそこに座った。



 飲みものはなにか、と訊かれて「お茶で」と答える。まだ昼前である。こんな時間から呑み出すと意志の弱いわたしは「もうなんでもいいや状態」となって予定が大幅に狂う。
 わたしの右隣がビール、左の訳ありみたいなカップルが酒を頼んでいた。

 次々と入ってくる客を入り口で手際よくさばいている。
 一階にはカウンター席の島が喫煙、禁煙とふたつあるが、階上かどこかにテーブル席と座敷席があるようだ。

 ランチのコースは全部で六種類である。詳しく書いておこう。
 まずはリーズナブルなランチ三種類。
「昼膳」は海老二本、白身魚、野菜二品、小海老の掻き揚げで、千二百六十円。「天麩羅膳」は海老二本、魚介、穴子、小海老の掻き揚げ、口替りがついて千九百九十五円。「旬野菜膳」は野菜六品、野菜掻き揚げで、千五百七十五円。

 贅沢ランチとして「特選 江戸前膳」は車海老、いか、魚介二品、野菜二品、穴子、小海老の掻き揚げ、口替りで、三千九百九十円。「綱八膳」は車海老二本、殻付帆立貝、蛤の姿揚げ、旬の魚介旬野菜三品、小海老の掻き揚げ、口替りで五千二百五十円。「おまかせ膳」は旬の素材を板前が選ぶという、贅沢なコースの七千八百七十五円が続く。

 なあに見栄張らず、腹具合と懐具合で選べばいいのだ。
 わたしは一番安い「昼膳」を選択する。なにしろまだ昨日の酒がすこし残っているのだ。



 右隣のビールの若い客は「天麩羅膳」を、左隣のカップルは「江戸前膳」と追加で盛り合わせの刺し身を二皿と、かなり奮発している。
 ビールの若い客のさらに先の年配の二人は景気がよいらしく、追加で椎茸と鮎を注文している。

 からりと揚がった海老が届く。



 この、からりと絶妙に揚げるのが職人技だ。素人はこうはいかない。
 ご飯もとても美味しい。軽い二日酔いなので蜆の味噌汁が身体に優しい。



 左隣の髪の薄いオジサンが、天ぷらはなぁー天麩羅鍋に一番近いカウンター席で食べるに限る、と連れの若い女性に力説している。
 うむうむそのとおり、ついわたしも頷いてしまう。

 ピーマンと白身魚が皿に載った。



 白身魚でご飯が進み、軽くお代わりする。
 香のものもご飯にぴったりの味で食が進む。

 かぼちゃと、小海老の掻き揚げ。



 重みのあるかぼちゃの衣の熱さが歯と口蓋に沁みる。
 ぷりぷりした小海老の掻き揚げは、やはり揚げたてに限る。
 わたしの昼膳はこれでネタの打ち止めである。
 お茶をお代わりして、煙草に火を点ける。そしていかにも満足そうに、ゆったりと煙草を吸った。

 鮨も高いが天ぷらも高い。
 だいたい揚げたての天ぷらを食べたいと思っても財布を覗いてみるとおいそれとは実行できない。
 でも、リーズナブルな店もあるのである。

 つな八を出てすぐの創業百年を超すF屋は、開店が四十分ほど遅いのでずらりと行列が出来ていた。開店時間を同じくらいにしてくれればたまには行ってもいいのだが・・・。
 待てよ・・・ということは、昼飯前に昼飯を食べ終わったわけで、すこし恥ずかしい。


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