温泉クンの旅日記

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読んだ本 2013年10月

2013-10-30 | 雑読録
  <読んだ本 2013年10月>

 台風26号は、ちょうど首都圏の朝の通勤時間帯を直撃した。
 外は傘も使えないほどの横殴りの暴風雨で、東京に向かう東海道線は止まり、横須賀線はかろうじて少ない本数で運行していた。
 ところが、突然に雨がやみ雲が割れて晴れ間が顔を出し、あろうことか虹まで出現したのである。



 数分で消えてしまったが、眼が醒めるほど綺麗な虹との遭遇は、朝から縁起がいい。

 これはもう出かけねばなるまいな。なにしろ、その日は午前中に大事な予定がふたつあるのだ。
 この判断が誤っていたのである。
 恐ろしい強風のなか駅に向かうのだが、息が苦しくなるほどの向かい風で一向に進まない。歩こうとして持ち上げた片足が風であらぬ方に持っていかれ、まるでディスコダンスを踊っているようになって失笑してしまう。

 ようやく戸塚駅に行くと、唯一動いている横須賀線の本数が少ないため、入場規制をしていた。駅員に訊くと、非常事態なので振替切符無しの通勤定期をみせるだけで、他の地下鉄や京浜急行などを使ってかまわないという。
 地下鉄を使って上大岡駅へいき、悪天候に抜群に強い京浜急行に乗ることにした。
 そして京浜急行に乗り込んだとたん、多摩川の風速が限界値を超えたということでなんと京浜急行を含めすべてが運行停止。

 一時間半ほど待って運転再開、横浜駅に入線する前に「JR運行再開」のアナウンスを聞いてよせばいいのに気が変わり、急遽JRに乗り換えることに決めたのだが・・・。これが致命傷の決断となってしまった。

 結局、ヨレヨレのヘトヘトの腹ペコでオフィスに到着したのは、家を出た6時間後の、昼休みも過ぎた午後一時半。
 戸塚より遠い藤沢に住む同僚は、じっと自宅待機をしていて午前十一時に出社したというのに・・・。
 急がば廻れの金言はさすがに凄い・・・いまだバリバリ活きていて有効なのだ。ジタバタ努力しないほうが結果は良かったのである。
 ああ、猫の横で寝転がって待機していればよかった。



 さて、今月に読んだ本ですが、10月はなかなかの8冊、累計で68冊でした。

  1.△冷血 (下)            高村薫   毎日新聞社
  2.○血に非ず  新古着屋総兵衛影始末一 佐伯泰英 新潮文庫
  3. ○百年の呪い 新古着屋総兵衛影始末二 佐伯泰英 新潮文庫
  4. ○日光代参  新古着屋総兵衛影始末三 佐伯泰英 新潮文庫
  5. ◎泥鰌と粋筋             高橋治 角川文庫
  6. ○悪と仮面のルール          中村文則 講談社
  7. ○何もかも憂鬱な夜に         中村文則 集英社文庫
  8. ○南に舵を  新古着屋総兵衛影始末四 佐伯泰英 新潮文庫

「泥鰌と粋筋」は高橋治の食に関する辛口なエッセイで、これは買い求めて手元に置いておきたくなってしまった。連達な文章の随所に、テーマごとの古今の俳句が散りばめられている。
 大根の菜飯のところなど、腹の虫が鳴きだしてどうにも食いたくなってしまった。

  『・・・一体、大根というのは、あの真白な体の中に、どんな魔を秘めているのかと、
   薄気味悪く思えるほどだった。
    同じような性質が大根の葉にもある。切って捨ててしまう葉をさっと茹でる。
   それを手でいく分か水分が残る程度にしぼり、細かく刻む。そうしておいて土鍋の
   底に敷きつめ、醤油をまんべんなくかけ、温かい飯を上からのせる。
    それだけの手間で、土鍋を直に火にかける。想像すると、焦げてどうにもならない
   ものが出来上がりそうに思えるが、これが十分や十五分では焦げない。大根の葉は
   それだけ水分を含んでいるのかと感心するほど、長くぐつぐつ煮える音がする。
    やがて、底の方からチリチリと焦げるような音が聞え出し、匂いも焦げこさく
   なって来る。その段階ではまだ早い。どう考えても黒焦げになっているに違いない
   と思えるところまで待って、火をとめる。その辺が頃合いで、しゃもじで底をはがすと、
   パリパリと音がして飯がはがれて来る。その軽い焦げと大根の葉を飯全体にまぜこんで
   食うのだが、この味は一度知ったら中毒するほどのものである。

    但し、途中で三段階くらいに火を細めて行く加減が難しい。こればかりはなん分、
    なん分と教えたところで出来るものではない。・・・(略)・・・』


 天草で限られた季節に食べられるという野生のびわと、希少な晩柑とかいう果物もなんとも気になった。
 章によっては、どうにも腹が減ってしまう本だ。



「冷血(下)」は危惧したとおり面白くならなかった。直前に読んだ、同じような警察小説「64」が面白すぎたせいもあるかもしれない。

「悪と仮面のルール」は暗めの筋が続くのだが、半ばを過ぎて少しずつ明るめになり最後の光明で救われた。
 短いが、次の文章のところで眼がピタリと止まってしまった。

  『人間は誰もが、自分が主役の人生を進む。それぞれの主役が集まり、それぞれの
   価値観や思いが入り乱れ、この世界は動く』


 わたしも二十代のころに、これとまったく同じことを考えていたからだ。

「何もかも憂鬱な夜に」は通勤で読むには暗すぎるし、だからといって家で読むのもどうかなあ。
「新古着屋総兵衛」シリーズは十代目の総兵衛の話だが、前シリーズの六代目のほうが今のところいいような気がする。


  →「読んだ本 2013年9月」の記事はこちら

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