<松江「月ヶ瀬」の抹茶セット、アーンドしじみラーメン(1)>
長年の懸案であった古曽志の割子蕎麦を堪能できたので、息抜きにお茶を飲むことにした。東京橋と幸橋の間の、名前も知らない橋を渡る。東京橋側には、堀川めぐり発着場がある。橋を渡ってそのまま真っすぐ行った正面突きあたりが昨日泊まった皆美館だ。
橋を渡り切った幸橋方面側には、いつも珈琲を飲む、蔦の絡まる洋館風の喫茶店「珈琲館」があるのだが、絶品蕎麦のあとだから抹茶で喉を潤したい。
この「月ヶ瀬」という店で抹茶が飲めるのだ。
一応メニューをみてから抹茶セットを注文した。
抹茶だが、この店では客が点てるのである。
久しぶりに茶筅を最初はゆっくり、そして手早く廻し、ぴたりと「の」の字を書くように決める。茶の表面が裏千家のカプチーノ風と違い、三日月状の池ができる。
じっくり一服を喫するうちに、遠い昔のあの日のことを懐かしく思いだす。
銀閣寺から哲学の道を南禅寺方向に歩いていると、疏水を渡ったところに抹茶を飲ませてくれる屋敷風の店をみつけた。料金も思ったほど高くない。店だが、記憶に間違いなければ、あの和菓子で有名な「叶匠寿庵」だったと思う。
門を入り、待合所にいくと女性ばかりの客が十名ほど控えていた。和服の女性も二、三名いて、他の女性もシックでキレイな格好である。観光客であるわたしといえば、よれよれジーパンの軽装だからなんとなく居心地が悪いが引き返すのも癪だ。
空いた席に座るとすぐに、
「お待たせいたしました。皆さま、こちらにどうぞ」
いったん外に出て、打ち水がされた石畳を女性一団の最後尾からついていく。
靴を脱ぎ、広めの茶室に入ると、亭主がわたしをみて「では、お正客は唯一の男性であるあなたになりますので、こちらの席へ」と導かれた。
(えっ、しょうきゃく、ってナニさ?)
釜近くに正座して座ると、えらいことになったと背中に汗が噴き出してくる。
茶の湯の上級クラスのしとやかな女性ばかりの教室に、作法知らずの低能チンパンジーが紛れ込んだようなものである。(これ、単なるイメージだから、文字通りじゃないからね)
正客だから、点てられた茶を喫するのも一番なら、道具拝見も一番で、見本なしでこなさねばならぬ。慣れない正座でシビレル脚に噴き出す脂汗をたらたら流しながら、左に座った優しい女性の囁きだけをたよりの、とにかく赤面と屈辱の小一時間だった・・・。
京都から帰ってから一念発起、近所の茶の湯(表千家)の先生に弟子入りを願って集中的に作法を習得し、千利休が絡むあらゆる書物を読み漁ったのだった。なにしろそのころは若かったもんねぇ。
一服目を「ズルッ」と啜り切り、さてもう一杯点てるかなと思ったが、ふと、周りから「ズルズル」という啜り音がして気になる。見れば、和風喫茶なのにラーメンをジツに旨そうに啜っているひとが多いのに驚く。
メニューを確かめると、たしかに「アゴ(飛魚)だしラーメン」とか「しじみラーメン」とあった。
うーむ・・・割子蕎麦と抹茶だけならラーメンもいけたが、股旅ものの旅人みたいにパクパク食べた団子二本が余計だったなあ。でも、宍道湖がある松江のしじみラーメンはあきらめるには魅力的すぎる。
よし、小一時間ほど歩きまわって団子二本を消化してしまおう。決めた。
― 続く ―
→「松江、古曽志蕎麦」の記事はこちら
長年の懸案であった古曽志の割子蕎麦を堪能できたので、息抜きにお茶を飲むことにした。東京橋と幸橋の間の、名前も知らない橋を渡る。東京橋側には、堀川めぐり発着場がある。橋を渡ってそのまま真っすぐ行った正面突きあたりが昨日泊まった皆美館だ。
橋を渡り切った幸橋方面側には、いつも珈琲を飲む、蔦の絡まる洋館風の喫茶店「珈琲館」があるのだが、絶品蕎麦のあとだから抹茶で喉を潤したい。
この「月ヶ瀬」という店で抹茶が飲めるのだ。
一応メニューをみてから抹茶セットを注文した。
抹茶だが、この店では客が点てるのである。
久しぶりに茶筅を最初はゆっくり、そして手早く廻し、ぴたりと「の」の字を書くように決める。茶の表面が裏千家のカプチーノ風と違い、三日月状の池ができる。
じっくり一服を喫するうちに、遠い昔のあの日のことを懐かしく思いだす。
銀閣寺から哲学の道を南禅寺方向に歩いていると、疏水を渡ったところに抹茶を飲ませてくれる屋敷風の店をみつけた。料金も思ったほど高くない。店だが、記憶に間違いなければ、あの和菓子で有名な「叶匠寿庵」だったと思う。
門を入り、待合所にいくと女性ばかりの客が十名ほど控えていた。和服の女性も二、三名いて、他の女性もシックでキレイな格好である。観光客であるわたしといえば、よれよれジーパンの軽装だからなんとなく居心地が悪いが引き返すのも癪だ。
空いた席に座るとすぐに、
「お待たせいたしました。皆さま、こちらにどうぞ」
いったん外に出て、打ち水がされた石畳を女性一団の最後尾からついていく。
靴を脱ぎ、広めの茶室に入ると、亭主がわたしをみて「では、お正客は唯一の男性であるあなたになりますので、こちらの席へ」と導かれた。
(えっ、しょうきゃく、ってナニさ?)
釜近くに正座して座ると、えらいことになったと背中に汗が噴き出してくる。
茶の湯の上級クラスのしとやかな女性ばかりの教室に、作法知らずの低能チンパンジーが紛れ込んだようなものである。(これ、単なるイメージだから、文字通りじゃないからね)
正客だから、点てられた茶を喫するのも一番なら、道具拝見も一番で、見本なしでこなさねばならぬ。慣れない正座でシビレル脚に噴き出す脂汗をたらたら流しながら、左に座った優しい女性の囁きだけをたよりの、とにかく赤面と屈辱の小一時間だった・・・。
京都から帰ってから一念発起、近所の茶の湯(表千家)の先生に弟子入りを願って集中的に作法を習得し、千利休が絡むあらゆる書物を読み漁ったのだった。なにしろそのころは若かったもんねぇ。
一服目を「ズルッ」と啜り切り、さてもう一杯点てるかなと思ったが、ふと、周りから「ズルズル」という啜り音がして気になる。見れば、和風喫茶なのにラーメンをジツに旨そうに啜っているひとが多いのに驚く。
メニューを確かめると、たしかに「アゴ(飛魚)だしラーメン」とか「しじみラーメン」とあった。
うーむ・・・割子蕎麦と抹茶だけならラーメンもいけたが、股旅ものの旅人みたいにパクパク食べた団子二本が余計だったなあ。でも、宍道湖がある松江のしじみラーメンはあきらめるには魅力的すぎる。
よし、小一時間ほど歩きまわって団子二本を消化してしまおう。決めた。
― 続く ―
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