夜噺骨董談義

収集品、自分で作ったもの、見せていただいた品々などを題材に感想談など

贋作考 水仙 伝岸田劉生筆 大正14年 その2

2022-09-12 00:01:00 | 掛け軸
さて当方の郷里の画家である伊藤弥太という画家が師事していたのが岸田劉生でした。



贋作考 水仙 岸田劉生筆 大正14年 その2
絹本着色額装  黄袋+タトウ
全体サイズ:縦414*横441 画サイズ:縦240*横270



岸田劉生は「麗子像」「道路と土手と塀(切通之写生)」 などの油彩の画家として有名ですが、実は数多くの日本画を遺しています。昭和4年に38歳の若さで亡くなりましたが、その早すぎた晩年には、墨画、日本画にもその才を発揮しています。 



賛には「大正乙丑(きのとうし 大正14年 1925年)五月於南禅寺畔小畫房 劉生畫 押印(白文朱方印:「劉生」)とあります。



1923年(大正12年)、関東大震災にて自宅が倒壊し、京都に転居しています(後に鎌倉に居住)。この頃(鵠沼時代)がいわば岸田劉生の最盛期であったとされていますが、この作品は京都市の北区から入手しています。



岸田劉生の京都移住に伴い、草土社は自然解散の形になりましたが、劉生を含めメンバーの多くは春陽会に活動の場を移しています。

*草土社のメンバーは木村荘八・清宮彬・中川一政・椿貞雄・高須光治・河野通勢ら

**当方で額の修理などを依頼してる神田の草土舎は上記の草土社に由来するものだそうです。本作品の額も修理も草土舎に依頼しています。

いい額に納まっています。吊る紐を通すのは金具ではなく皮ですね。このような額は古い額にはときおり見かけます。裏面は貼り直す必要があるでしょう。
→前述のように草土舎に依頼して修理しました。



岸田劉生の油彩はむろん高く評価されていますが、意外に日本画も高く評価されています。劉生が特に興味を持ったのは宋・元の写生画、南画、浮世絵であったそうです。

本作品と同印章が押印された作例には下記の作品らがあります。

「彩果五題(パイナップル)」木版



冬瓜茄子之図
1926(大正15/昭和1)年 絹本着色 37×50.6 額装 三重県立美術館蔵



上記2作品は同時期の作で同じ印章が押印されていますが、本作品と印影が一致するとは言い難い点があります。ただしこれでけではジャッジできないものです。

  

さて岸田劉生の作品には贋作が多いのですが、そのことについて下記のような著書があります。

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「岸田劉生の日本画 木村荘八」より

(前略)余事ながら、近頃岸田劉生の偽物の多いには、弱つたものである。ぼくなんかはどうかすると此節、月に十幅は欠かさず岸田を見るだらう。ところが十の中の七迄は偽である――殊に油絵に至つては。油絵こそはさうさうフラフラした真品があらう筈もないのだから。(中略)
  
又日本画は何処で誰に製造されるものやら、これに二系統あるやうで、一つは比較的古く、上質の唐紙へ粗く描き流した南画風のものが多く、きまつて二重丸の中へ岸田と刻した俗な印章が捺してある。(かういふ印章は故人は使つてゐない)それからもう一手は、これは近頃出来の――あるひは現に今も作られつゝあるだらうところの――悪質の偽作で、相当岸田ものを習つて作る仕事らしく、現に印章が二つ(写真に依つて?)偽造されてゐるから注意を要する。劉生之印とある稍大形の角印及び劉生とある小形の角印がいけない。双方ともほんものと比べて見ればわかることには、印の角々のきまりが堅い。劉生之印のほんものは角形の底の一線が心持半円に外へふくらみを持つてゐるのに、偽印はペタンとして薄情に一直線である。さういふペタンとした印を見たら眉唾と考へていゝ。

殊にこれは丹念に劉生好みの陶器や果物など図した手頃の描ものや色紙が多いので、けんのんなことである。(用紙、墨、共に、これは真作よりも上質なのは、バカバカしい限りである。)

岸田の作品は高値を呼んでゐるさうである。世の中のことはわからないもので、岸田を岸田銀行の頭取のせがれだなどといひ、先々金満紳士だつたと思つてゐる人もあるやうだけれど、実はその反対で、徹頭徹尾腕一本で叩き上げた彼は男だ。絵一つで叩き上げた。――絵はよく売れた男である。しかし今日の遺作が売買されてゐる程、それ程の値ではなかつた。値のことは我々、かゝりが違ふので、まあ岸田程のものとなればいくら高く問はれやうと、それが当り前見たやうなものゝ、たゞさうなると得たりや応とばかりヘンな岸田劉生が相当世の中に行はれてゐるらしいのは、難渋なものである。

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「劉生之印のほんものは角形の底の一線が心持半円に外へふくらみを持つてゐるのに、偽印はペタンとして薄情に一直線である。さういふペタンとした印を見たら眉唾と考へていゝ。」という点では真印と相違はないが、本作品はなんともいえない「生」の字に違いがあるので、あくまでも一致とは言い難いようで「難渋なものである。」という作品でしょう。

**岸田劉生ゆかりの神田の額装店「草土舎」に依頼して額を修繕して出来上がりました。





裏面もきれいになりました。










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