Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

大ハ長調交響曲の演奏史

2021-08-29 | マスメディア批評
ベルリンでのシューベルトの大ハ長調交響曲の演奏史を聴く。先ずはフルトヴェングラーの定番とされた1951年のイエスキリスト教会での録音を疑似ステレオLPで鳴らす。正直なところ最初のホルンでの主題の呈示から驚いた。こんな吹かせ方をしていたのだ。その後は一が万事で独自のシューベルト解釈となる。全体の流れとして評価が高かったのもよく分かるのだが、我々のようにブレンデルのシューベルトとかの新たな視座を持っている者には可成り辛いものがある。しかしそれ以上にベルリナーフィルハーモニカーがテムポを落としても弾き切れず、更にその大きな動機をひと固まりとしてのアンサムブルも引き締まらないことに驚いた。全く目指しているものが異なっていて、全体の流れの中での潮流のようなものに底に流れがあったりのその渦が表現されているに過ぎない。勿論今日では到底受け入れられない合奏だ。

あまりにも参考にならないので、もう一つの定番カール・ベーム指揮1963年の恐らく同じ教会での録音をYouTubeから聴いた。こちらはヴィーナーフィルハーモニカーの日本公演でも喝采を受けた指揮であって、ある意味我々世代ではデフォルトとなっている解釈である。なるほどベームの交響楽曲における構成感の作り方とかが前面に出ていて、そのリズム取りの硬直感は否めないもののこれという主題の描き方や動機の扱いは見事である。反面、シューベルトがここまでセマンティックな音楽的内容を切り落として抽象化して交響曲を創作としたとは思えない箇所の連続となっている。何故この世代が反復を省略しなければいけなかったかもこれで自明だろう。

なるほど12年後のベルリナーフィルハーモニカーは既にカラヤンの楽団ではあったのだが、まだ後のようなサウンドは完成していない感じで、合奏の仕方もそれ程新規軸ではない。新フィルハーモニーの小杮落しがあった年である。

ベルリンでのオープニングコンサートの批評がぼちぼち出て来ている。最早次の次元に入っていることは間違いない。興味深い評は、ペトレンコ自体は少し遊ばせようとしたかに見えたが、行って仕舞ったというもので、まさしくミュンヘンでの「トリスタン」初日を思い起こす情景である。なるほど、ミュンヘンとベルリンの楽団では馴染み方も異なり、更に今回が最後の初日だったのと、再開の初日だったのとは大きな差がある。しかし、そこには緊張とかいうよりも意欲がみなぎる感じが強くて、行って仕舞うという情景だ。

とても引いた見方をすれば、やはりキリル・ペトレンコの肉体的精神的な充実度だと思う。フルトヴェングラーにおいても戦前の演奏はそんな感じだったと思う。音楽的に力が抜けていないという訳ではないのだが、遊びがあまりないという感じだろうか。その一方まだまだその可能性を汲みきれないという批評である。

インタヴューでペトレンコがヒンデミートなどに関してのフルトヴェングラーの録音等への言及があり、明らかにシューベルトをも意識していた。そこでこれはもう一度聴いておかないといけないと思った。個人的には生で聴いた名曲はもう二度と聴かないようにしていたり、歴史的録音等と比較して意味の無い音楽会には出かけないようにしてきたので、名曲演奏会は殆ど行ったことが無い。披露などチャイコフスキーはムラヴィンスキー、巨人などはバーンスタイン、田園、運命などはベーム指揮と聴体験が限られている。そして今回はフルトヴェングラーの歴史的録音も最後になるかと思う。もう今後聴く機会はないかと思って、真剣に聴いてみたのだ。

上の二つの録音を聴いてみて、明々白々なことは、もはや1951年のそれとも1963年のそれとも2021年のベルリナーフィルハーモニカーの腕が月に鼈のように巧いということで、嘗てシカゴがトップだとか言われた1980年頃からも全く事情が変わっているということだ。

サイモンラトル時代は同じような面々が演奏していてもそれが芸術的な意味を持ち得なかったが、最早違う。もし11月に日本公演があったなら、恐らく日本の楽界は引っくり返っていたと思う。最早次元が違う。そして同じプログラムを繰り返す内に細部も大きな流れも更にこなれてとんでもないライヴが出現してくると思う。三回分の切符を持っていることを幸運に思う。



参照:
Das Ende einer Unterhaltung, ULRICH AMLING, Der Tagesspiegel vom 28.8.2021
歴史的な意味を今日に 2021-08-28 | 音
ヴァルトビューネの指揮姿 2021-08-27 | 雑感
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