万引き家族 是枝裕和監督
カンヌ映画祭で最高賞のパルムドールを撮った映画というので、ぜひ見たいと思っていた。
渋谷の井之頭通にあるアップリンク(小ぶりで個性的な映画を上映する)に出かけました。
噂にたがわぬ、日本映画にはあまりない、展開に迫力のある映画だった。
ベタ褒めですね!
真鍋厚さんの評を見ると、「貧困映画」や「社会派」映画とするだけじゃ、全くこの映画の本質を言い当てられない。
家族とは何かを深く考えさせられた。
いま日本にまん延している家族問題は、、、「経済の貧困」もあるが「関係の貧困」じゃないかと問うている。
「万引き家族」が盗んだものは、商店からスタッフの目を欺いて盗んだ商品や、車の中に放置されていた祥太や、ベランダで凍えていたユリだけじゃない、、、異常な家族から異常な絆(きずな)まで盗んだ。
その絆は、本物の家族のきずなが壊れているので、盗んだ=拾った絆だったが、偽物家族の中で本物以上に強いものになった。
この映画をセンチメンタルな絆を作る物語、、、ととらえると全く違う。
この映画は前半、後半に分けられる。
前半に万引きする様子や手口、それとこの疑似家族が何処でどう拾われてきたか、どれくらい貧困生活なのか、延々と見せられる。
後半に、、、たたみかけてくる迫力あります。
後半の始まりは、子供の祥太がミス(わざと)をして警察に捕まり、この一家が検察で尋問されるシーンからです。ひとりひとり尋問されて、過去などが暴かれるのだが、各々の思いなどがあらわれてきて、この尋問がいいのだ。このシーンはどこかで見たことがあるなー、と思ったら古いことだが「羅生門」でひとつの事実を各々が語ると、語る人が違うと、微妙に真実というものが違って見える。社会の思い違いを鋭く突いていく、、、その鋭さが是枝監督なんだなーと感じ入ったしだい。
そして、母親役の安藤さんが演じる信代が、、、検察官に「子供がいない女には、母の気持ちなんかわからないでしょう」と言われて、、、ぐっとこらえるが、涙が出てくる、そのシーンが、この映画のクライマックスだと感じました。涙が出てくるが、泣きたくない、その感情を髪の毛をかき上げる、その動作に叩き込んだ。言葉にならない感情を、、、安藤さんが200点満点で表現した!
信代のこのシーン、この演技が全てだと断言します。
「海外の監督達」がいみじくも言っていた、私の映画の中で「女を泣かせるシーンがあったら、あの信代をやらせたい!」とまで言わせた、超名演技だった。
思い返しても、、、感じ入ります。
想いこもったら、あーなるだろうなーーー!
だけど、、、あの場面を映画の中によく作ったなーと感激しました。何かと言うと、その「子供がいない女には、母の気持ちなんかわからないでしょう」は女同士のやり合いの場に良く出てきます。男から見るとバカみたいな言葉だが、ひとり身の女性にはグサッときます。「ひどい差別言葉」なのだが世の中に普通に出回っていて、なぜか糾弾、非難されない「言葉」だからです。なぜか、、、いわずもがなで否定できない事実をいちゃおしまいよ~~~。子供を産まなかったという否定できないことと、気持ちがわからないということは、本来は別なのだが、負い目に付け込んで決めつける手口が汚いのだ。よくぞ映画で出したなって拍手したくなります。この監督はよくわかってらっしゃる!
日本の社会は「母親」と「石女・ウマズメ」を表立っては差別していないけど、「母親」の側は「石女」を蔑視していることが多い。だから、この映画の中で圧倒的に意味つけして、子供がいない女>>>母の気持ちはわからない、に注目させている。2つの言葉のどちらに重きがあるかはわかるだろう。気持ちがわかる、わからないは個人差によるが、否定できないような立場「子供がいない女」だからこの言葉に意味がある。揶揄、軽蔑、叱咤、あらゆる差別意図が込められている。だから「子供がいない女」にはホントは意味がない。「お前の母ちゃんでべそ」といったような差別、軽蔑言葉の最強バージョンなのだろう。
樹木希林さんは、この家族の中で要役(かなめやく)です。
個々の演技が良かったから、この映画が成り立った。
皆さん良かった、、、だけど信代役のあのシーンがピカいちです。あの言葉になっていないものが、「欺瞞家族」への回答でしょう。
そうそう、祥太やユリが行方不明になっても、本物の家族から捜索願が出ていなかった、、、という設定だった。シナリオの芸が細かいでしょ。現実にも多いのでしょう。
ぜひ、ご覧ください!
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