■ サブプイライムショック以降、下がり続けるアメリカの住宅市場 ■
FRBはQE3に踏み切りました。
内容は毎月400億ドル(3兆円強)の住宅担保証券(MBS)をFRBが購入するというもの。
つい先日まで、アメリカの住宅市場は底を脱した報道されていたのに、
結局、アメリカの不況の原因は、住宅市場がガタガタな事。
これって、サブプライムショックからの流れが、全く改善されない事を示しています。
FRBはTARPで購入したMBSをゴールドマンなど民間に売却して
資金供給で放出した資金を回収しています。
これを又もや買い戻すのですから、結局、状況は何も変わっていません。
■ 実体経済を刺激するには、住宅価格の上昇が不可欠 ■
アメリカの消費は、購入した住宅の値上がりに伴う個人の信用の増加に支えられて来ました。
サブプライムショックで、個人消費の原資となる住宅価格の上昇がマイナスになったままなので、
アメリカの消費は停滞し、実体経済が回復する兆しは見えません。
FRBは量的緩和で湯水の様に資金供給をしていますが、
民間に資金需要が無いので、供給された資金が実体経済を潤す事無く、
金融市場に停滞して、プチバブルを作り出している状況は日本と同様です。
アメリカの個人消費を喚起する為には住宅市場の回復が不可欠です。
■ FRBのMBS買い入れは、住宅市場の回復に繋がるのか ■
はたしてFRBのMBS購入は、住宅市場回復の糸口になるのでしょうか?
ご存知の様に、アメリカではフレディーマックやファニーメイが
金融機関から、住宅ローンの債権を買上げます。
金融機関は、ローンのリスクが低減できるだけでなく、
資金回収が直ぐに出来るので、新たな貸し出し余力が生まれます。
一方、ファニーメイやフレディーマックが買い上げた住宅債権は、
バラバラに分解され、住宅担保証券(MBS)という金融商品になります。
このMBSを金融機関が買う事で、フィレディーマックやファニーメイに資金が還流し、
その資金が新たな住宅債権の購入資金として、住宅ローン市場に流れ込みます。
要はMBSの販売が滞れば、住宅市場への資金が枯渇します。
ですから、FRBのMBS購入は、住宅市場に資金を提供し、
住宅市場の活性化から、アメリカの実体経済を回復させる試みと言えます。
■ ゴールドマンなどは既にMBSを買い貯めていた ■
FRBはリーマンショック直後、不良債権化したMBSを金融機関から大量に購入しました。
今年の2月くらいにFRBは金融機関から買い上げたMBSを売却しています。
ゴールドマンを初め、主だった金融機関が入札に参加しました。
これだけを見ると、MBS市場が安定を取り戻したので、
FRBが民間にMBSを売却して、資金を回収した様に見えます。
売却の過程で、利益が出れば、FRBのMBS購入は成功したと言えます。
その頃、ゴールドマンサックスを始めとする金融機関は、
MBSへの投資を再開していました。
投資信託の運用先を見ても、MBSの比率が国債に比べて拡大しています。
この様に、今年の初め頃は、MBS市場は回復の兆しがある様に見えました。
ところが、今度はFRBがMBSの購入を発表しました。
これは、MBS市場の回復を装う為にゴールドマンなどが購入したMBSが
再び、ダブ付いている事を示すのでは無いでしょうか?
MBS市場の回復を演出したが、結局は失敗してFRBが尻拭いをするのでしょう。
再びMBSの暴落が発生しない様に、MBSを買い支えるとメッセージを発しているのです。
■ 極めて消極的なQE3 ■
実体経済刺激の為には、政府支出を増やす事が近道ですが、
共和党が議会を支配している状況で、財政の拡大は望めません。
それどころか、2012年末には、強制的に財政を縮小する「財政の壁」が迫っています。
ですから、月額400億ドルでMBS市場を支えるという、
かなり消極的な量的緩和しか、FRBの取れる手段は無かったとも言えます。
「財政の壁」が現実化して、米経済の失速が明確になれば、
住宅市場が下落して、MBSに再び暴落圧力が掛かるかも知れません。
ですから、FRBは先手を打ってMBSの防衛を行い、
ショック状態に備えているのでは無いかとも思えます。
■ 円高に量的緩和では無く、為替介入で対抗する政府と日銀 ■
QE3でアメリカのマネタリーベースは拡大しますので、
当然、ドル安円高が発生します。
安住財務大臣は「円高には為替介入で対抗する」と発言しています。
本来、日銀が、FRBやECBに足並みをそろえて量的緩和を行えば、円高は是正されますが、
日銀も大幅な量的緩和をしない予定です。
「為替介入=米国債購入」という従来の流れであれば、
日本は、アメリカの財政を支えるATMの役を続けるとも言えます。
■ 日中緊張で、円安圧力が生じている ■
中国での反日暴動が過激化した9月13日頃から、
為替相場の円高は、一段落しています。
それでも79円台というレートが維持されています。
ユーロ危機、アメリカのQE3、東アジアの緊張が同時に発生しているので、
為替相場が大きく動くことはありません。
ここら辺は、どうもタイミングを合わせているとしか思えない節もあります。
■ 表面上に現れない危機が高まっている ■
量的緩和によるユーロやドルの下落は限定的で
投入された資金で、株式や商品、債券市場は一時上向きます。
表面的には成功と思える量的緩和ですが
そのストレスは、どこかに溜まっているはずです。
それは、穀物価格の上昇であったり、原油価格の上昇として、
確実に各国の国民の生活をい圧迫します。
中東や中国に限らず、世界中の人々の間にストレスが高まっています。
アメリカ国民の目を暫くは、大統領戦に釘付けです。
そうしている内にも、アメリカでは「財政の壁」が着実に近づいています。
さて、世界は、アメリカの議会は、どの様な選択をするのでしょうか?
派手な事件に気を取られているうちに、
世界経済は重大な局面を迎えるのかも知れません。