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「近代国民国家」と「愛国心」・・・「愛国心」で得をするのは誰?

2012-09-25 11:40:00 | 時事/金融危機
 

■ 日中韓の若者達が競い合っている「愛国心」て何? ■

尖閣・竹島問題は、その領有の歴史的正等性において、
両国国民の目を、アジアの中世以降の歴史に向けさせています。

一方、日本の国民は、久しく忘れていた「愛国心」を
一連の事件によって、呼び起こされ、
日夜、ネットで中国や韓国の若者と「愛国心」の強さを競い合っています。

ところで、この「愛国心」とは、いったい何なのでしょうか?

「愛国心」という名称が一般化したのは、日本では明治維新以降の事と思われます。
近代以前は「郷土愛」や「主君に対する忠誠心」はありましたが、
「愛国心」を傾ける、「国家」という存在はありませんでした。

「愛国心」とは何かと考えた時、
「近代国民国家」の成立と無縁には語れません。

そこで本日は、ヨーロッパとアジアの歴史的繋がりから、
「近代国民国家」とは、一体何なのかを、
「東インド会社」や「資本家」という視点で考察してみたいと思います。

■ 植民地支配と東インド会社 ■

イギリスはスペイン無敵艦隊を破って、海洋覇権国家の道を歩み始めます。
インドを初め、世界各地を植民地化し、
植民地からの富を搾取して繁栄を謳歌します。

植民地時代の当初は、軍人は「職業」でした。
しかし、植民地の拡大と共に、多くの「兵士」が必要となります。
そこで、イギリスやオランダ、その他の国々で、
植民地経営を代行する会社が作られる様になります。

それが、「東インド会社」です。

1602年、「東インド会社」はオランダで世界で始めての「株式会社」として発足します。
東インド会社の巨大な利益は、「株主」に配当されると同時に「国家」の上納されます。

「東インド会社」は、国王(国家)から、「交戦権」と「交易権」を与えられ、
「私兵」を募集して、世界の海に出発して行きます。

オランダやイギリスの東インド会社は、
スペインやポルトガルが先に築いた権益を、
戦闘によって、奪って行きます。

日本においても、最初に日本の利権を開拓したのはポルトガルです。
ポルトガルの植民地支配は、イエズス会の布教活動と表裏一体でした。
ポルトガルが占領した地域に、カトリックを広げて行く事は、
国王が神の僕であるスペインやポルトガルでは
神に対する義務であったとも言えます。
ですから、日本でもイエズス会の神父たちはカトリックを布教して行きます。

ところが、江戸幕府はキリスト教を「脅威」と捉えていました。
一向宗を見ても明らかな様に、中世においける大きな宗教組織は、
必ず武装して、為政者達と敵対する存在に成長します。

ですから、徳川幕府は、キリスト教の布教を禁じます。
幕府はキリスト教の布教と、植民地支配が表裏一体である事に気付いていたのでしょう。

島原の乱で、キリスト教徒達が反乱を起した時、
幕府の要請で、島原城を海上から艦砲射撃したのは、
オランダ東インド会社の船でした。

カトリックと異なり、プロテスタントのオランダでは、
殖民地開拓とキリスト教の布教は切り離されていました。
ですから、オランダ東インド会社は、
幕府に取り入って、日本の交易権を得る為に、
島原のカトリック教徒を攻撃する事を、何ら躊躇しません。

この様にして、ポルトガルやスペインが築いたアジアの利権は、
東インド会社によって、オランダやイギリス、フランスの利権へと変わって行きます。

■ 「阿片」を売り物にした東インド会社 ■

東インド会社の貿易は、イギリスとインド、そしてアジアの三角貿易でした。

1) イギリスで作られた綿織物がインドに運ばれます
2) インドの阿片が中国などの運ばれます
3) 中国の陶磁器、お茶、絹などがイギリスに運ばれます

この様にして、習慣性のある阿片は、中国に瞬く間に浸透して行きます。

■ 阿片の専売権を獲得したサスーン商会 ■

イギリス東インド会社から阿片の専売権を獲得したのは
中東出身の商人、デビット・サスーンです。
彼は1832年に「サッスーン商会」を設立します。
サスーン商会は「阿片」の他に「紅茶」も支配していました。

サスーンは上海に本拠地を置き、
インド阿片の70%を独占ます。

サスーン家は後にロスチャイルド家と縁戚関係を結んで行きます。

その頃、サスーン商会と並んで中国貿易を支配していたのは、
トーマス・グラバーの親玉の、「ジャーディン・マセソン商会」です。
「シャーディー・マンセン商会」は坂本龍馬が長州藩に手配した武器を提供しました。

■ 阿片の利益をイギリスに送金する為に設立された「香港上海銀行」 ■

サスーン商会やシャーディー・マンセン商会が阿片や武器の売買で稼いだお金を
イギリスに送金する為に作った銀行が、「香港上海銀行(HSB)」です。
創業は1865年でした。

■ 阿片禁止と資本家としての発展 ■

阿片中毒者の増加に手を焼いた中国政府は、
1920年に阿片を禁止します。

阿片商人達は、手持ちの阿片を清国政府に買い取らせ、
清国政府はこれを公開で処分しますが、
その後も密輸が絶えず、そこでも阿片商人達はあら稼ぎします。

一方、サスン家は、阿片貿易で得た資金を上海の不動産投資に投入し、
そこでも財を成します。

インドでは、多くの工場を操業するなど、
次第にサスン商会は資本家として成長して行きます。

一方、「シャーディー・マンセン商会」は現在もバミュウダ諸島に本拠地を構え、
最近は中国との取引も盛んに行われています。

■ 「国民国家」の成長と、「東インド会社」の終焉 ■

この様に、東インド会社とその周辺で蠢く資本家達は、
アジアやその他の地域の利権を独占して行きます。

一方で、植民地では次第にヨーロッパ諸国の搾取に反発する動きが活発化して行きます。
インドではムーア人達の大規模な反乱が起こり、
東インド会社の植民地経営は次第に陰りを見せ始めます。

一方、この頃、ヨーロッパ諸国では、「国民国家」の思想が浸透して行きます。

ナポレオンの台頭以降、ヨーロッパの王国は、市民の台頭に頭を痛めます。
そこで、国王達は、それまで独占していた権利を、徐々に国民に移譲して行きます。

こうして「近代国民国家」が誕生して行きます。
国家は、徴税権と検察権を持つ一方で、国民を保護します。
各国で軍隊が組織され、国民が徴兵の義務を負うようになります。

それまで、職業軍人が果たした役割を、
多くの国民が担う様になったのです。

これら、国民から徴兵された兵士達は、
国家の財産を守る為、殖民地へと派兵されてゆきます。

この段階で、「東インド会社」は、植民地の経営権を国家に移譲します。
オランダ、イギリス、フランスなどの東インド会社は、その使命を終えて解散します。

■ 資本家の権利を守る国民国家の兵士達 ■

この時点で、非常に不思議な状態が発生します。

植民地の利権の多くは、資本家達に握られています。
しかし、その植民地を防衛するのは、国民から徴兵された兵士達なのです。

本来、東インド会社は「私兵」によって、植民地支配のコストも支払っていました。
ところが、資本家達は、そのコストを国家に付け替えてしまったのです。

軍隊を維持する資金は、国民が税金という形で負担します。

「近代国民国家」とは、「国家とは国民の物である」という幻想の下に、
国民の富と労働と命が、資本家達の利益に還元されるシステムでもあったのです。

■ 尖閣問題で改めて浮き彫りになる、資本家と国民の関係 ■

さて、長々と書いてきましたが、尖閣問題について考えて見ましょう。

私達は「日本の資本や企業が危機に曝されている」と捉えます。

しかし、私達の多くは、中国に直接投資している訳でも無く、
中国の株式を持っている訳でもありません。

トヨタや日産、パナソニックの工場が中国にあるだけです。
ただ、これらの企業は確かに日本企業です。

多くの国民が、これらの日本企業で働き、賃金を得ています。
これらの企業も、本社を日本に置き、利益の一部を日本国に納税しています。

一方で、納税額より多くの利益が、
株主に還元されています。
確かにトヨタや日産の株主の半分以上は日本人で。
しかし、現在の日本の巨大企業の多くはでは、
株式の半分近くを外国人投資家が握っています。

外国人投資家とは、個人の集団では無く、
海外の多くの銀行やファンドでしょう。
そそて、それらの金融機関の大元を辿って行くと、
ロスチャイルドやロックフェラー系の巨大銀行に辿り付きます。

国民の労働と税金、場合によっては命によって守られるのは、
突き詰めれば、国際金融資本家達であるという事実は、
近代国民国家の成立期から、何ら変わっていないのです。

さて、日本の大企業は円高の影響を避ける為、
本社の海外移転を模索しています。

法人税が値上げされれば、日産は香港に本社を移すと言われています。
パナソニックはシンガポールで本社物件を探していると言われています。

■ 「愛国心」という罠 ■

近代国民国家は、国民の「愛国心」に支えられて来ました。
しかしその「愛国心」によって利益を得るのは、金融資本家です。

今、尖閣や竹島問題を契機として、
日本でもネットを中心に「愛国心」が盛んに鼓舞されていあます。

「近代国民国家」と「愛国心」は切っても切れない関係の様に思われています。
はたして、それは「自明の理」なのか、
それとも、巧みにプロパガンダされた「錯覚」なのか?

日本と中国の間で緊張が高まる現在、
私達の「愛国心」は、誰に利益を生み出すのか、
少し、頭を冷やして考える事も必要かもしれません。

図らずも「ポスト近代国家」に突入したと言われる日本と、
「限りなく資本主義国に誓い社会主義国家」である中国の対立は、
「近代国民国家」というシステムの本質を考える上で、非常に興味深いものがあります。