■ シェールガス開発はジャンク債市場で資金調達していた ■
私はアメリカの「シェール革命」にはブームの初期から懐疑的でした。採掘コストが高過ぎる事も理由の一つですが、「メディアが騒ぎ過ぎるブームには裏が有る」という陰謀論者の理論で、シェールガスブームを検証して来ました。
シェールガスの開発会社はウォール街で資金調達していましたが、ジャンク債市場が多くの資金を提供しています。エネルギー企業が発行したジャンク債は市場の18%を占める様ですが、原油価格が長期的に65ドル/バレルで推移すれば、40%がデフォルトするとも予測されています。
FRBが供給した大量の資金は、本来金利の高いリスクの高い会社の債権=ジャンク債の金利をリスクに見合わない水準まで低下させました。金利上昇はこの様なリスクを無視した市場に最初に影響を与えるので、ジャンク債の金利が上昇し始めればシェール企業の多くは資金調達コストが増大します。
シェールガス企業はジャンク債市場で資金調達する事で「自転車操業」を繰り返していたので、資金調達コストが上昇すれば自転車操業が出来なくなり、一気に資金繰りが出来なくなり倒産する企業が続出するでしょう。
市場はシェールガス企業の破綻を先読みして動くので、来年実行されるであろうFRBの利上げに先だって、ジャンク債市場でエネルギー関連企業の社債が暴落し、ジャンク債市場事態が混乱する事は想像に難くありません。
■ サブプライム層への自動車ローンも相当怪しい ■
アメリカの好景気を演出している自動車売上の好調ですが、こちらも緩和マネーに支えられています。現在アメリカでは所得の低いサブプライム層がほとんど審査もされずに自動車ローンを組んでいます。「顧客離れを食い止めるために米大手自動車販売店では、最大6年の自動車ローンを組んで高級車を購入する消費者にゼロ金利を保証している所が多い」というのですから、相当不健全です。
これらの自動車ローンは自動さローン担保債権として金融市場で流通しています。リーマンショックの元凶ともなった住宅ローン担保債権(MBS)同様に、ごった煮債権の安全性に気付いた人達は、この市場から資金を引き揚げ始めています。
14年4-6月期の米自動車ローン残高は、前年同期比+11.7%の8390億ドル(約87兆円)とすでに過去最高を更新しています。この内デフォルトするのは一部のローンですが、合成債権に加工されていた場合は、自動車ローン担保債権全体が一時的に信用を失います。
■ 金融緩和の副作用=リスクに対して低すぎる金利 ■
多分、シェールガスや自動車ローン以外にも金融緩和の副作用を溜めこんでいる市場があるはずです。
FRBは米株のIT関連株が高過ぎる水準にあると警告しています。フェースブックやアップル、アリババなどの株式の相場がはたして適正なのか・・・。
これらの潜在的危機は、FRBの量的緩和政策の副作用です。あまりにも金利が低下した為に、リスクを無視した金利の投資でなければ金利が稼げなくなっているのです。デフォルトリスクを考えれば本来もっと高い金利を要求すべきですが、市場が適正金利を形成する能力を緩和的金融政策を奪っています。
■ ブラックスワンは別の場所に居そうだ・・・・ ■
ジャンク債市場の暴落や、自動車ローン担保債権市場の暴落がリーマン級のショックを生むかと言えば・・・・多分NOでしょう。
サブプライムローン危機からリーマンショックを生み出したのは、ヘッジファンドを中心とする高すぎるレバレッジでした。リーマンショック以降はヘッジファンドもかつての様なレバレッジを掛けてはいません。自動車ローン担保証券の市場もMBS程の規模は有りません。
では何がブラックスワンに変貌するのかと言えば、私は案外「利上げの失敗が作り出す次なるバブル」では無いかと思います。
もし、仮にアメリカが利上げに失敗して市場が混乱し、FRBが再びゼロ金利に金利を引き下げざるを得ない状況が生まれた時、市場には「失敗したらFRBが助けてくれる」という甘え生まれます。これが次なるバブルに繋がるのでは無いか・・・。
FRBが利上げに成功しても失敗しても、バブルの芽が膨らみそうな予感がします。ただ、市場は様々な脆弱性を積み上げているので、バブルの花が開く前に根が腐る可能性も否定は出来ません。