■ 2016年にずれ込みそうな日銀のテーパリング ■
日銀の異次元緩和の目的は「2%のインフレ率の達成」です。
1)「ゼロ金利の罠」が発生している状況では金利はゼロ以下にはならない
2)実質金利をゼロ以下にするにはコンスタントに適度なインフレの達成が必要
3)異次元緩和は通貨を大量発行する事で通貨価値を意図的に棄損してインフレを達成する
4)国内の需要は限定的の為、主に為替市場の円安効果により輸入物価が上昇する
出だしこそ順調に見えた異次元緩和ですが、「円安のひと段落」と「原油価格の下落」でインフレ率達成が先延ばしされる事が確実となりました。原油価格が回復し始めたので2016年度中に日銀の目標は達成されるかも知れません。
■ 日銀はテーパリングに踏み切れるか ■
極端な量的緩和など非伝統的金融政策の難しいのは「出口」です。
1)物価目標を達成する前に市場は日銀のテーパリングを意識する
2)緩和マネーの減少を予測して資産市場で資金の逆流が発生する
3)株価が大きく下落したり、不動産価格が下がったりする
4)資産市場が「バブル状態」にある場合には「バブルの崩壊」を引き起こす可能性が有る
リーマンショックの遠因の一つに日銀の量的緩和の縮小があったと言われています。資産市場がバブルに近い状態では、日銀が「出口」と口にしただけで市場は過敏に反応します。
■ 実態経済の回復を伴わないインフレ目標の達成 ■
仮に2016年度中にインフレ率が目標の2%に達したとしても、その原因が輸入物価の上昇というコストプッシュインフレである限り、実態経済の回復は限定的です。実際の現在の日本の世帯消費はマイナスを更新し続けており、国民は消費を手控えて物価上昇に対抗しています。実質所得が低下しているので当然とも言えます。
リフレ論者の多くが、「実質所得の上昇はインフレの達成からしばらくして始まる」と説明します。輸出企業を中心に雇用と所得が改善しているので政府は「雇用は改善している」と説明しますが、平均所得は低下しています。
要は、正規社員より非正規社員の増加ペースが高いので、雇用の質が低下しながら雇用者数が増加しているのです。企業は輸入原材料のコストアップを吸収する為に固定費を削らざるを得ず、それは賃金や雇用に悪影響を与えます。
現在、原油価格下落の影響で、企業は一息付く状況ですが、既に原油価格は上昇に転じて60ドル/バレルに近づいています。70ドル当たりで落ち着くとは思われますが、原油安の恩恵も限定的となります。
この様に2016年度中に日本の実態経済が回復して、その結果需要が拡大して2%のインフレ率が達成される見込みは高くは有りません。
■ 日銀はゆるやかに国債の購入量を減らしてみる ■
いずれにしても2%のインフレ目標に到達した場合、日銀はゆるやかに国債の購入額を減らす必要に迫られます。異次元緩和を継続した場合、財政ファイナンスの疑いが濃厚になるからです。そうなれば為替市場で円が売られ、円安が加速し、物価上昇のペースが2%を上回る可能性が有ります。
現在、新発国債のほぼ全量に匹敵する額を市場から買い入れている日銀の存在は「池の中のクジラ」です。そのクジラが方針を変えるのですから、うまくやらないと国債市場はパニックを起こします。
最初は購入国債を月額5000億円減らす程度かもしれません。5000億円程度なら金融機関の有り余る資金で十分消化できるはずです。こうして、毎月日銀は市場お様子を伺いながら徐々に国債の購入額を減らして行きます。
■ 日銀の当座預金金利の維持は、テーパリングの為? ■
金融機関は日銀の当座預金に退蔵していた資金で国債を購入するはずです。その為には国債金利が日銀の当座預金金利よりも低い事が必要になります。政府の財政じ状況を鑑みるに、いたずらに国債金利は上げたく無いはずです。さらに、国債金利が上がるり出すと、金融機関が手持ちの金利の低い国債を手放して金利上昇が加速する可能性も否定出来ません。
ですから、日銀は国債金利を低位に維持しながらも国債市場に資金誘導を図るでしょう。その為には日銀の当座預金金利の引き下げが一番効果的でしょう。
こうして民間銀行は短期国債を中心に日本国債の買い入れ量を増やして行くはずです。長期国債は当分は日銀が中心になって買い入れるものと思われます。
■ 償還期限を迎えた国債もしばらくはロールオーバーするだろう ■
出口戦略や、金融政策の正常化というと、日銀が手持ち国債を市場で売却するイメージが有ります。しかし、テーパリングを終了するまでは日銀の市場での国債売却は有りえません。
その間にも日銀の保有する国債で償還期限を迎える物があるはずです。テーパリングで非常に微妙な国債需給の状況下で、政府が借換債を市場で売却する事は難しいと思われます。そこで、日銀はしばらくの間、借換債を直接引き受ける事になると思われます。
■ 消費税増税の不景気と、国債市場の需給安定で国債金利を抑え込む作戦 ■
リフレ論者の脳内イメージでは、「出口戦略」が始まる時は景気回復が本格化した時だと思います。しかし、アメリカの例を見ても、実態経済の回復のスピードは極めて緩慢で、実質成長率がゼロに張り付きそうな状況です。
多分、2016年以降、オリンピックという多少のカンフル剤はあったとしても、日本全体としては景気回復は緩慢なはずです。これは資金需要の不足から市中金利を抑制するので、結果的に日本国債金利を低位で安定させる事が可能となります。
2016年後半からは消費税増税が意識され始めるので、多少消費が改善しますが、消費税が10%に引き上げられる2017年4月以降の消費は悲惨な事になりそうです。その影響はしばらく続きますので、金利は低位で推移するはずです。
金融機関の米国債程度しか運用先が無いので、日本国債市場で資金運用を続けるはずです。
■ 円安によって維持されるゆるやかなインフレ ■
問題は、年々1兆円ずつ福祉コストが増大し、景気が大幅に改善する見込みは無いので税収は40兆円から50兆円の間で推移するであろう事です。消費税増税で多少の時間稼ぎは出来ますが、いずれ財政の増加はそれをも飲み込んでしまいます。法人税が減税されれば、消費税増税の効果は相殺されてしまいます。
仮に2016年からテーパリングが始まるとして、いつまで日本の財政は持つのか・・・?
日銀と財務省の用いている手段は明らかな「金融抑圧」ですが、継続条件は二つあります。
1)ある程度のインフレ率が継続する事
2)日本国債金利が十分低く抑えられている事
異次元緩和以来、インフレ率の上昇は円安による輸入物価の上昇によってもたらされているので、150円代に向けてゆるやかに円安が進行していると都合が良いのでしょう。アメリカが利上げに成功すれば150円代の円安も現実味を帯びて来ます。
■ 問題はBISの制度変更と、2017年問題 ■
私達にはハッピーでは有りませんが日本国債の継続性は2020年頃までは問題が無さそうです。ここら辺は日銀も財務省も周到です。
ただ、問題はBISの制度変更と、2017年問題です。
BISが仮に自国国債をリスク資産する制度変更をするとすれば、その運用開始は2019年以降です。この時、日銀が順調にテーパリングを進め、消費税増税も実施されていれば日本国債の格付けをAA以上に維持する事で、日本の金融機関はリスクゼロで日本国債を保有し続ける事が可能です。多分、これは実現すると思います。
問題は2017年問題です。
これは、ブラックマンデー以降、ITバブル、サブプライムショックとアメリカ経済が10年周期でバブル崩壊を繰り返している事から、次のバブル崩壊を2017年とする経験側的な予測ですが、アメリカが利上げに成功した場合、起こらなくも無い事象だと思われます。
■ 日本国債の継続性よりも、米国バブルや中国のバブル崩壊に注意すべき ■
私は日頃から「日本国債暴落」の危機を煽っていますが、それでも5年後、10年後に日本国債が暴落するとは考えていません。むしろ日銀と財務省は景気と為替を上手にコントロールして日銀のテーパリングを長期化させ、財政ファイナンスを細く長く継続すると思われます。
しかし、怖いのは米国発の経済危機の再発や、中国のバブル崩壊でしょう。
こちらは日銀や財務省ではコントロール不能で、その影響はリーマンショック以上に深刻です。「中央銀行の非伝統的な金融施策を持ってしても崩壊は再発した」という事実は、通貨の信用を大きく損なうものとなるはずです。
なぜならば、次なる量的緩和の効果に誰も期待出来なくなるからです。
多分、日銀も財務省もある程度はこうなる事を予測していると思われます。そしてその対策として、日本の金融機関の国債の残存年数を極端に圧縮する指導をして行くのでしょう。
その後の事は・・・野となれ山となれ・・・。
問題は2020年のオリンピックがどうなるのか・・・。
上手く行けばによっては景気回復の足がかりとなるのかも知れません。
最後は希望的観測となりましたが・・・いずれにしても今のままでは日本の人口動態が悪すぎます。TPPも絡んで、外国人労働者の受け入れが急ピッチで現実化するのでしょう。ここでもオリンピック需要による建設業界の人で不足が追い風になりそうです。
陰謀論的には、まんざら悪く無いシナリオです。