人力でGO

経済の最新情勢から、世界の裏側、そして大人の為のアニメ紹介まで、体当たりで挑むエンタテーメント・ブログ。

世界的にリフレ政策は「静かなバブル」を作っている・・・姿無き黒き白鳥

2015-05-16 09:27:00 | 時事/金融危機
 

■ 既にバブル状態の不動産 ■





庶民の私達には実感が有りませんが、現在の日本は既にバブル状態にあります。

「・・・?」とお思いの方がほとんどでしょうが、実際に東京中心部から始まった地価上昇は千葉や埼玉など周辺にまで広がっています。

「今までが安すぎたのだからその反動だろう」という反論もあるかと思いますが、バブル崩壊の直後を除けば地価や不動産価格は需給バランスによって決まっているはずです。上のグラフは東京の新築と中古マンションの価格推移です。

2006年から2007年に掛けては海外の投資マネーが流入してミニバブルが発生していまいした。この頃の需要を支えていたのは団塊ジュニアと呼ばれる世代です。ある程度実需を反映したミニバブルだったのです。

冒頭のグラフでは、現在の新築マンション価格はミニバブルの頃の水準を抜いています。




http://www.fan-invest.co.jp/report/index.php より

上のグラフは最近の首都圏のマンション価格の推移と投資利回りです。

1) 低金利を背景にした居住用マンションの購入
2) 相続対策としてのマンション高級
3) 中国を始めとしたアジアの投資マネーの流入

昨今の首都圏のマンション価格の上昇の要因は富裕層の相続対策や、国内外の投資マネーの流入です。得に「相続税対策に有効」という噂が広がりタワーマンションが高齢な富裕層に良く売れました。首都圏のタワーマンションは2014年をピークに供給量が減っているので、マンション価格は上昇を続けています。

問題なのは、これらの投資物件は賃貸物件として貸し出されて運用されますが、賃貸価格は「住む」という実需以上には膨らまないので首都圏の賃貸価格はそれ程上昇していません。結果的に投資用に購入した物件の投資利回りが低下する事になります。

業界では首都圏のマンションバブルは既に終わりに近づいていると噂されています。

■ 異次元緩和はミニバブルしか作れず、そしてそれも何れは崩壊する ■

当ブログではアベノミクスの開始当時から、「異次元緩和では資産市場でのミニバブルしか作れない」と主張して来ましたが、株価が2万円を超えたり、首都圏のマンション価格が上昇した事でミニバブルは実現したと言えます。

では、これが「大バブル」に発展するかと言えば・・・答えはNOです。

何故なら、「実需」が現象し続けているからです。前出のマンション価格もそうですが、平成代バブルの時は持ち家率が低かったので多くの普通の人達がマンションを購入しました。2006年のミニバブルも団塊ジュニアという実需が背景に在りました。

しかし、人口が減少に転じ、特に若者世代の人口が加速度的に減少する時期に入る現在では「実需」は減少こそすれ拡大する事は有りません。結局、現在の投資マンションブームはどこかで終焉を迎えます。

■ 金利はリスクに見合うのか? ■

ここで問題になるのが、金利収益とリスクのバランスです。例えば、現物不動産投資やREITのの利回りがリスクに見合っているかどうか?

確かに銀行金利はタダ同然なのでREITの3%の金利は魅力的に見えます。しかいREITの利回りは確実に低下しています。実はREITのリスクは分配金の低下だけではありません。REITはリーマンショックの原因になった住宅担保証券と同様に市場で売買される金融商品です。利回りが低下すればREITの価格の下がります。要は、何かをきっかけにリスクが急激に拡大する事があるのです。

さて、3%の分配金金利はこのリスクに見合うのでしょうか・・・。


■ 超低金利の問題はリスクに見合わない金利 ■

実は異次元緩和の様な過剰な低金利政策の問題点は、「リスクの過小評価」にあると考えています。

1)ジャンク債の様なハイリスク商品の金利が下がる
2)不動産REITなどミドルリスク商品の金利も下がる
3)銀行預金などローリスクの投資では金利が得られない

調達金利の低下がハイリスク市場の金利を不当に下げる一方で、銀行預金の金利低下が、ミドルリスク市場への資金流入を拡大して、この分野の金利も下がり過ぎてしまいます。

こうして超緩和的金融政策の永続化は、世の中のリスクと金利のバランスを崩してしまいます。この様な状況で金利の上昇が始まると、リーマンショックの様な信用収縮が一気に進行して市場では大暴落が発生します。

■ 銀行は採算が取れない案件に投資出来ない ■

銀行融資でも低金利が貸し出し低下を生み出します。金利体系が健全であるならば、銀行は融資のリスクに見合った金利が得られるはずです。借りる方も、市場金利が健全な水準であるならば、銀行に金利を払う事を勿体無いとは感じません。

しかし、超緩和的金融政策下では、「低金利で資金調達できるはず」という思いが事業者に生じます。しかし、実体経済の成長が弱い中で、事業への投資が収益の増加に繫がる可能性は高くはありません。様は市中金利がいくら低かろうが、事業が抱える本来的なリスクにそれ程変化は無いのです。結果的に銀行の融資担当者は常識的な金利を提示しますが、事業者はその金利では採算が取れないので投資を諦める事になります。

結局、銀行が融資するケースが担保が取れる案件に偏る事になります。異次元緩和によって地価が上昇したので、企業は担保額が増え、多少資金調達に余裕が出ました。ただその効果は限定的で景気を押し上げるものでは有りません。



■ 余剰資金は短期で金利が取れる金融市場に流入する ■


結局、日本にしてもアメリカにしても、中央銀行がジャブジャブと資金供給した所で、実体経済に金利リスクに見合う投資案件は限られています。

結果的に緩和資金は短期的な利益を求めて金融市場や株式市場で運用される事になり、これらの市場をバブル化させて行きます。

■ バブルが崩壊する度に政府債務が拡大する ■

グローバル化の時代には、どこかの国の緩和的金融政策はどこかの国やどこかの市場で必ずバブルを生み出しています。そして、バブルは必ず崩壊します。

リーマンショックを例に取るまでも無く、現在の金融市場は複雑の絡み合っているので、どこかのバブル崩壊は瞬く間に全体へと波及します。

こうしてリーマンショックの様な危機が再び発生した場合、政府も中央銀行もリーマンショック後と同様の対策しか取れません。大穴が開いた市場に多額の資金を突っ込み、破綻した金融機関に公費を突っ込んで一時的に国有化します。

これは民間の空けた穴を政府が埋める事になるので、政府債務は拡大します。一部の銀行などの損失を将来的な国民負担に摩り替えることになるのです。


■ リフレ政策の問題は一時的な成長と、将来的な危機のバランスが取れない事 ■


リフレ政策は経済にマイナスでは無いので、一時的には効果を生み出します。アベノミクスの開始時がそうでしたが、資産価格の回復は富裕層の消費拡大に繫がりました。しかし、それも継続的では有りません。「期待」は一時的なので資産価格の上昇が鈍れば富裕層の消費も鈍化します。

リフレ政策で安定的なインフレの達成が難しい事を日本政府と日銀が証明しつつ在りますが、その結果積み上がった将来的リスクは大きなものがあります。日銀はインフレ目標が達成されなかったとしても、どこかの時点でテーパリングに移らなければいけませんが、長期金利を抑制しながら国債買い入れを減らすという難しい問題に取り組まなければなりません。

■ 既に世界的に長期金利が上昇し始めている ■

4月から株式市場を始め世界の市場が不安定になっています。原因はドイツの長期国債の金利上昇でした。

ECBは量的緩和に踏み切り、欧州経済の低調やギリシャ問題もあってドイツ国債の金利は、5年債金利がマイナスになるなど非常に低下していました。それが4月から反転して金利が上昇し始めたのです。米国債も日本国債も長期金利が底を打って上昇に転じています。

これは日本のVRショックの時と同様に、さすがに安全資産と言えどもどの国の国債金利も長期的には低すぎるという認識が生まれたのだと思われます。

昨今の国債金利は右肩下がりに低下していました(価格は上昇)。買ってしばらくしてから売れば確実に儲かる市場になっていましたが、これこそがバブル状態とも言えます。ふと気付けばドイツ国債の金利はマイナス、つられて日本国債の金利までマイナスになっていた・・・・。

さすがにこの状態がいつまでも続くとは思えないので、金利が下がり過ぎた長期国債を売り始めたというのが現在の状況でしょう。

米国10年債の金利も2%はさすがに低すぎます。金利の正常化も控えているので、バーナンキショック時の水準である3%に向けて調整し始めたのでしょう。

■ バブル状態を警告したイエレン議長の狙い ■

FRBのイエレン議長はIMFのラガード総裁との会談で、「株式市場も債券市場も高すぎる」と発言してバブルを牽制しました。

これは、年内中にも予想されるFRBの利上げに先立って市場の過剰なリスクを振り落としておこうという狙いがあると思われます。2013年5月にバーナンキがテーパンリング開始を匂わせて発生したバーナンキショックと似た効果を狙ったものと思われます。

これに対して債券市場は長期国債を中心に金利が上昇するという真っ当な反応を示していますが、株式市場は少し下げた後に、米国の雇用統計を好感して上昇に転じています。

利上げを前にして本来ならばリスクオフが起こるシーンですが、債券市場から株式市場に資金が上がれるリスクオンが発生しています。これにはイエレン議長も多少当惑しているのでは無いか・・・。

■ 単なる変動なのか、それとも終わりの始まりなのか? ■

緩和的金融政策の弊害として世界的にバブルが発生しています。しかし、それは私達の知っているバブルとは少し姿が違う様です。熱狂が無く静かなのです。

ただ、リスクに対する金利が不当に低下する事で、リスクの水面がどんどんと下がっています。今に「黒い白鳥」が水面下から頭を出すでしょう。

はたして昨今の市場の変調は、終わりの始まりなのか、それとも単なる調整に過ぎないのか・・・。熱狂の無いバブルは、特別な理由も無いままに静かに崩れ去るのかも知れません。ブラックスワンの姿すら分からずに・・・。