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労働力が自由に移動する世界・・・日本の将来は労働市場の開放に掛っている

2015-05-18 09:50:00 | 時事/金融危機
 

■ ブードゥーエコノミクスのシャーマン達の言説は空しい ■

三橋貴明氏を始めとする「普通では無い経済学」は、「ブドゥ。エコノミクス(呪術経済学)」という呼称がピッタリと嵌ります。

大元はパパ・ブッシュが「サプライサイド経済学」を批判した言葉ですが、「お金を供給すれば需要が拡大する」という主張は、当時のアメリカでも否定的に捉えられていました。しかし、四半世紀が経過した現在、世界は異常な金融緩和を実施しており、まさに「呪術」に支配されています。

特に「自国通貨建ての内国債は破綻しない」と主張する三橋貴明氏らの主張は、彼らが神輿に担ぐクルーグマンですら認めない経済学?の異端中の異端です。クルーグマンは「国債金利はある時点を境に跳ね上がる事が有る」と普通に認めていますし、「日本の人口動態は悪過ぎる」と発言して、日本の長期的な財政や経済の成長には悲観的です。

しかし、「呪術」の恐ろしい所は、人々の弱みに付け込んで洗脳してしまう所にあります。普通に考えれば、日銀が日本国債を全額買い取る様な事態は「財政破綻」以外の何物でも有りませんが、「ハイパーインフレでは無い」と強弁する事で、日本の将来を悲観していた一部の人達に「まやかしの希望」を与え、彼らを「呪術」の虜にしています。

■ 短期的改善が拡大永続するという経済では有りえない事を前提とした「呪術」 ■

彼ら、ブy-ドゥー・エコノミクスのシャーマン達の用いるトリックは至って簡単です。極端な金融緩和や財政拡大によって短期的に発生する経済の改善を、これが永続し、拡大し続ける様な錯覚を与える事で彼らは信者を増やしています。

実際には財政出動は短期的かつ限定的な経済改善効果しか無い事は既に経済学の常識ですし、異次元緩和の様な極端な金融政策は、後々のバブルを生む事で、さらに経済を悪化させる事は歴史が証明しています。

さらに、少子高齢化という解決不能な構造要因を抱える日本経済は、プラス成長を維持する事が根本的に難しく、2%のインフレ率達成は「悪性インフレ」によってのみ可能な事を彼らは巧妙に隠しています。

■ アベノミクスの「第三の矢」を否定してフリーランチを食べ逃げしようとする卑しさ ■

アベノミクスに意味が有るとすれば、それは「第三の矢」の実現にあります。

「規制撤廃と構造改革によって経済効率を高め、経済成長を実現する」という「成長戦略」を三橋氏らは認めていません。

「誰の為の規制緩和か」を考えたら「アメリカの為」「資本家の為」「グローバル企業の為」以外の何物でも無い「第三の矢」を否定する事は一見正しい様に思えます。

しかし、日本の製造業の労働生産性は既に相当高いレベルを達成しており、これ以上は技術的なイノベーションでも起きない限り大幅に高まる事は有りません。そこで、資本と労働力の流動性を高める事で、ブレークスルーを達成しようとするのが「第三の矢」です。

企業は能力の乏しい正社員を一人解雇すれば、そのコストで有能な社員を一人雇えます。あるいは将来有望な若者を二人雇用出来るかも知れません。これは企業側から見れば大幅な生産性の向上につながるかも知れません。

一方で、解雇された元正社員は同じ所得が得られる職に就ける確立は低く、さらに新たに雇用された社員の雇用も将来的には保障されてはいません。労働者は雇用の流動性というメリットとデメリットの両方を受ける事になります。しかし、現状の日本よりも平等性が高いとも言えます。

現在の日本はゆるやかに衰退する安定状態にあり、これを成長に転じるには、構造改革や規制撤廃は不可欠ですが、それは痛みとリスクを伴います。アベノミクスは財政拡大とリフレ政策で大判振る舞いする事で、「第三の矢」という痛みを伴う改革を実現する事を目的としていますが、「第一の矢」と「第二の矢」というフリーランチだけを食べ逃げしようとする三橋氏らの言動は卑しさ以外の何も感じません。

これはかつての「お花畑左翼」が漂わせていた「卑しさ」に共通します。いえ、彼らはより身勝手に進化して現代の左翼の姿なのかも知れません。

この点においては、同じリフレ派であっても、アベノミクスをセットで受け入れようとする「ひろのひとりごと」さん達には、ある種の誠実さを感じます。

■ 「呪術」で現実は変えられない ■

三橋氏の支持者達は、自分達を「保守」と自称しますが、彼らの行動は「おねだり左翼」の行動に極めて近いものがあります。もらえる物は有りがたく貰うけれど、払うのは全体にイヤだし、失うのもイヤ・・・そう声高に主張します。

労働市場の開放や移民にも彼らは否定的です。

日本の人口動態を見れば近い将来、移民なり外国人労働者を受け入れなければ日本の財政や福祉政策は確実に破綻します。2030年には1.8人の労働者が1人の高齢者を支える社会になりますが、税率が40%程度でなければ支え切れません。

これを「無限に国債を発行して日銀に買い取らせれば大丈夫」と言ってのける三橋教は「呪術」以外の何物でも有りません。


■ TPPは労働市場の開放を実現する ■

三橋教の特徴は「では、お前が対案を出してみろ」とすぐに口にする事です。「オレ達は日銀が国債を買いまくれば良いという案を既に出している」と勢い付きます。

案なら既に安倍首相が「第三の矢」として提示していますが、彼らの未来に「財政破綻」の文字は無いのでガン無視です。

三橋教信者は「移民など認められない」と主張しますが、安倍政権の推し進めるTPPは将来的には労働市場の開放を実現するでしょう。

既にEUは加盟国間の労働市場を開放しており、国境も解放しているので国境を越えた通勤(越境通勤)などというものが存在します。スイスの人がフランス国内に毎日通って仕事をしていたりします。

ドイツを始めとするヨーロッパの先進国は日本同様に高齢化による労働力の不足に悩んでいまいた。かつて「移民」による労働力の補てんで国内に貧困層を抱えてしまったこれらの国は、EU域内の労働力と資本の移動の自由化でこの問題を解決しつつ有ります。

確かに能力次第では外人に職を奪われるリスクを伴いますが、全体的に不足する労働力を補うメリットはリスクを上回ります。

■ 既に日本では多くの外国人が働いている ■

かつては日本国内の労働力の移動で、日本は経済成長を達成しました。青森の若者が東京に働きに出る事で労働力を確保していたのです。彼らの税収は青森に還元される事で、国内のバランスが保たれていました。

しかし、これからの日本では国内では労働力を確保しきれませんせんから、外国人労働者に頼らざるを得ません。既に、日本国内ではコンビニやファーストフードなどは外国人労働者無しでは経営が成り立ちませんし、一部の製造業でも日系ブラジル人などの労働力に依存しています。

現在、外国人が日本で労働する場合は、一部の知的労働しか認められていません。コンビニやファーストフードやスーパーのレジの外国人は研修や留学名目で来日して、日本で労働に励んでいます。これは意図的に法律の抜け穴を作って労働力不足に対応しているとも言えます。

彼らは日本で労働し、消費もするので、日本の経済に少なからぬ貢献をしています。ただ、一定の期間を過ぎたら帰国しなければなりません。

■ 「東京に出て働く」というのと「日本に行って働く」というのが同義になる時代 ■

多分、TPPが締結され、次第に労働市場が開放されると、青森の若者が「東京に出て働く」というのと同じ位の感じで、アジアの若者が「日本に行って働く」と口にする時代がやってくるでしょう。

夜中のシンガポールやフィリピンの国際空港は、入国する建築作業員のインド人や、山の様なお土産を持ったフィリピン人の家政婦でごった返しています。彼らの労働市場は既にグロール化しており、周辺国のみならず、アラブやアメリカやヨーロッパで仕事をしている方も大勢居ます。基本的に英語が話せる彼らは英語圏の生活に言語的苦労は有りません。

これはら日本は世界の国々と安い労働力を奪い合う関係になりますが、円安で彼らの収入が低下する日本は不利な戦いを迫られます。

■ 「治安」と「平等」が日本の魅力になるだろう ■

日本にアジアの人達が働きに来る場合、「治安」と「平等」はキーポイントになります。

日本は世界でも有数の治安の良い国家です。女性が働く場合、或いは子供や家族を連れて日本に住む場合、「治安」は大きな魅力になります。

一方で日本人は外国人慣れしていないので「平等」に彼らに接する事が苦手です。特にアジア人を自分達より低く見る伝統が有ります。ただ、中国人や韓国人、インド人などが増えている東京で、彼らをアカラサマに罵る日本人はあまり見かけません。電車で隣合わせても、大声で携帯で電話をする中国人を迷惑そうに見る事はあっても、罵声を浴びせる事はありません。日本人は戦後70年の反省期間にアジアの人達との適正な距離の取り方を身に着けてきたのかも知れません。

この遠慮しがちな無視は、日本で働くアジアの人達にとって決して居心地の悪いものでは無いかも知れません。これは「消極的な平等」と呼べるものかも知れません。

■ 国境が希薄化する時代の国内の対立軸 ■

10年、20年というスパンで日本の将来を展望した時、日本の経済成長も財政も外国人労働者に追う所が大きくなると思います。むしろ、それ無くしては日本の将来は暗い・・・。

2015年 -  2020年   250万人減少
2020年 -  2030年   740万人減少

これは日本の人口の減少予測ですが、今後20年間で1000万人近くが減少します。これに高齢化による社会の効率低下が加わりますから、これで経済が実質成長する事がいかに難しいかは容易に想像が付きます。

TPPを皮切りに外国人労働者の受け入れ議論が活発化すると思いますが、これは日本人の今後の対立軸になってゆく可能性があります。

EUを例に取るまでも無く、現代の社会は「国民国家」の衰退期です。国家とか国民とか国境という概念が経済成長の妨げになるのなら、それは積極的に取り払われて行きます。

国民が国家に貢献する理由の最大な物に、「外国の攻撃から国民を守る」というものがあります。しかし、安保法制が実現する「集団安全保障体制」は、守られる国民と国家の関係を希薄にします。一部の人達は、国境を越えて自由に職を求め、住処を変えて行く時代がやってきます。

その様な時代にあっても「保守的」な人や「反動的な人」は常に存在します。ヨーロッパではネオナチを筆頭にフランスの国民戦線などの支持者達がそれに相当します。彼らは移民や外国人労働排斥を声高に訴えます。これらの人達の多くが、外国人労働者と仕事を奪い合う関係にあるからです。

日本においても今後の政治的な対立は、グローバル派と反グローバル派の間に生まれて来ると思われます。

これは一見「保守」と「革新」の対立に見えますが、一見「保守」に見える人達は、三橋教信者の様なフリーライダーが多くを占める事になります。

「税金が増えるのは嫌だけど、規制改革で競争が高まるのもイヤ」という現実逃避の若者。
「年金が減るのは嫌だけど、フィリピン人介護士に世話をしてもらうのもイヤだわ」という老人。これらの人達がこれからの日本の抵抗勢力となってゆきます。

一方で、本気で日本の財政や社会の継続性を考える人達は、「外国人労働者に魅力的な国」とは何か、「外国人が日本人と摩擦無く生活出来る方法は無いのか」を真剣に考えるはずです。多分、海外経験などが多い人達がこちらのグループに入る事になると思われます。

結局、国や国民に縛られた「旧人」と、国家の概念から解放された「新人」の対立が、これからの日本や世界で激化して行くのでしょう。



外国人労働者の受け入れには多くの治安や国民感情の問題が有る事は私も理解しています。しかし、日本人の若者に大結婚ラッシュが発生して、さらには「子供は3人は絶対に欲しいは、出来れば4人が良いかしら」といった意識改革が起きない限り、外国人労働者の受け入れは不可避な現実となってゆくでしょう。


あるいは、日本得意のロボット技術が労働力不足をを解消するのか・・・・その場合は100年後には日本人はほとんど生息しない国になりそうですが・・・。