■ 高失業率でも社会が崩壊しない南欧諸国 ■
国家がデフォルトの危機に瀕しているギリシャですが、国民にあまり悲壮感が見られない様です。これがオランダやドイツやイギリスで起きれば、労働組合は台規模なデモ隊を組織するでしょうし、ヒャッハーな若者達が街で暴れまわるはずです。
リーマンショック以降、南欧諸国の失業率は高止まりしています。特に若年層の失業率が高く、スペインなどは50%を超えていました。それでも彼らが生活出来るのは何故か・・・これはギリシャのみならず、日本の将来を考える時にも何な重要な問題を含んでいる様に思われます。
■ 巨大な地下経済を有する南欧諸国 ■
『BIUTIFUL ビューティフル』というスペイン映画をご覧になった事はあるでしょうか?
映画を越えた何か・・・BIUTIFUL(人力でGO 2011.07.02)
末期ガンに犯された一人のチンピラが、家族を守る為に必死に生きる話ですが、ここで描かれるスペインの地下経済の実態が凄まじい。アフリカや中国からの不正入国者の商売のうわまいを跳ねる一方で、彼らの商売が警察に摘発されない様に警官に袖の下を渡したりします。決して豊かな生活をしている訳では無いチンピラですが、より弱い立場の者達から搾取して生活を営んでいます。
日本にも良く似たヤクザ社会が存在しますが、イタリアンマフィアに代表される南欧諸国の地下社会は規模も大きく、社会的影響力も日本の比では有りません。
■ 経済統計に表れない地下経済 ■
地下経済の規模は経済統計には含まれませんが、昨今、ヨーロッパでは地下経済もGDPの統計に含める動きが進んでいます。そうしないと経済の実態が統計と大きくかい離してしまうからだと言われています。
■ セーフティーネットを形成する地下経済 ■
スペインで若年失業率が50%と聞くと、「彼らはどうして生活しているのだろう?」と不思議に思いますが、実は多くの者達が地下の経済活動に従事して生活を支えています。
日本でも会社勤務が無理な方々の少なからぬ人達がヤクザ稼業に身を置いていますが、この規模がもっと巨大なのが南欧諸国です。地下経済の雇用は、非公式なセーフティーネットとして南欧諸国経済と、若者達の生活を支えているのです。
■ 家長制度の強さも南欧社会の特徴 ■
南欧社会の特徴として「家長制度」の強い事が挙げられます。ファミリーのボスには子供達は逆らえないのです。イタリアのコメディー映画などでは「ハイ、パパ!!」とか「ハイ、ママ!!」なんてシーンが笑いのネタとして良く出て来ます。30歳を超えた男が父親や母親には絶対に逆らいません。
家長はただ威張っているだけでは無く、子供達が困っていれば彼らの生活を助けます。こうしてファミリー全体がセーフティーネットの機能を持っている事も南欧社会の特徴です。ファミリーは血縁による「一家」の枠を超える場合も有ります。マフィアなどもファミリーの一形態なのです。
■ 強い家長制度が世代間格差を固定化し経済成長を阻んでいる ■
一方で強過ぎる家長への権力の集中は、所得の世代間格差を固定化し、経済成長を阻む要因にもなっています。家長やその周辺の権力者達は自分達の権力や利益を独占して手放しません。結果的に若者達の所得は低く、仕事も従属的な物が多くなります。
南欧諸国でも非正規雇用は拡大していますが、その多くは若者達で、年長者達は盤石な正規雇用に守られています。年長者達正規雇用者はインサイダーとして、若者達の非正規雇用者をアウトサイダーとして排除sちえいるのです。
これは日本の現在の雇用環境に良く似ています。日本も家長制度が強く残っているので、アメリカなどよりは南欧諸国に雇用は似ているのかも知れません。
■ 経済支援が地下経済に漏出する ■
表の経済の生み出した価値の多くが地下経済に漏出する状況では、税収も伸びず、経済成長も限定的です。
ヨーロッパの北部と南部の経済格差の一因には、南欧諸国の地下経済の悪い面が大きく影響しています。政府や行政の施策も、地方に行くにつれて賄賂と汚職にまみれて効率化が失われて行きます。(日本も同じですね)
ギリシャや南欧諸国にECが経済支援を繰り返しても、思った様な効果を上げられないのは、支援金の少なからぬ量が地下経済に漏出してしまうからだとも言えます。
■ 実は世界の多くの国々では家長制度や地下経済が現在でも根強く残っている ■
EU加盟国と言えば近代国家や近代社会秩序を創造しがちですが、イタリアやスペインやポルトガルといった地域では、家長制度や地下社会を始めとする古い社会制度が今でもしっかり機能しています。
実は世界ではこの様な国家の方が多いのではないでしょうか。スペインやポルトガルの旧植民地もこの傾向が強いと思います。フィリピンなどが良い例かと。
さらには中国や韓国といった儒教国家も家長の権限は絶対で、人々は国家よりも家族や地縁の強く縛られ、或いは依存して生活しています。ちょっと韓国は微妙な感じですが、中国は年金などの社会制度が不備でも、ファミリーがこの代用を務めています。
だから、日本に買い物に来た中国の方達は、親類縁者に多くのお土産を買って帰るのです。
■ 国家以外のセーフティーネットの重要性 ■
私達は「国のセーフティーネット」は重要だと考えます。北欧などを理想的な社会だと捕えています。
しかし、それは国民が相応に負担を受け入れ、高い福祉コストに耐えられる財政が維持されるから保たれるセーフティーネットだとも言えます。
例えば、国家が財政破綻の危機に陥れば、社会福祉コストは削減され、国家の提供するセーフティーネットの機能は当然弱まります。さらに、財政破綻に至ると、かつてのソ連の様にに年金の支給も停止される事態に陥ります。
この様な状況にあっても、家長制度などの地域社会のセーフティーネットが残っている国では有る程度生活が出来ます。働けない老人が露頭に迷えば家族や地域が世話をしてくれます。若者が失業すれば、地下社会の仕事であっても斡旋してくれます。
ギリシャが財政破綻の瀬戸際にあって、それでも国民に悲壮感が感じられないのは、地域のセーフティーネットの存在があるからだとも言えます。
逆に彼らは、それ故に北欧諸国の様に国家のセーフティーネットの維持に執着せず、財政の継続性を軽視するのかも知れません。
・・・日本は、かつては勤勉な国民と呼ばれていましたが、なんだか最近は南欧化している様に感じられます。尤も、戦後、社会構造は個人主義が極端に進んでいますから、地域社会のセーフティーネットは田舎以外では消失しています。
掛け声ばかりの「地方再生」では無く、地方の優位性はこんな所にあるのかも知れません。都会の人には「窮屈」に感じられる地方の社会ですが、いざとなった時に地方は強みを発揮するのかも知れません。そして、自給自足経済が生きている点が地方の一番の強みになるはずえす。
近代化が全てでは無い事は、10年後、20年後の日本人や世界の人々は思い知るかも知れません・・・。
<参考資料>
http://www.murc.jp/thinktank/economy/analysis/research/report_131111.pdf
「債務問題下の高失業を吸収する南欧の経済慣行」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)