■ 第三帝国の野望 ■
かつて一人の独裁者がヨーロッパの統一を志て挫折しました。しかし、彼の野望は現在達成されたのかもしれません。すくなくとも通貨による経済支配によって・・・。
ヨーロッパ共通通貨として鳴り物入りで登場したユーロですが、その実態は拡大マルクに過ぎません。
1)マルクはドイツの経済力を背景に力のある通貨だった
2)プラザ合理で円はドルに対して2倍に切りあがった
3)当然マルクもドルに対して高騰する可能性が有る
4)ドイツは外需依存度の高い輸出主導経済なのでマルク高はダメージが大きい
5)マルク高を抑制する必要がある
ここでドイツが考えたのが、経済力の低いフランスなど他のヨーロッパ地域と通貨を統合した「拡大マルク」を創設してマルク高を防ぐという方法です。
6)当時経済力の弱い南欧通貨は対ドル、対マルクで下落していた
7)これらの国の通貨をユーロに統合する事で拡大マルクとしてのユーロの価値は下がった
8)ドイツはユーロ(拡大マルク)導入で通過安政策を取る事が出来、輸出を伸ばした
南欧諸国にとってもユーロのメリットは小さくありません
9)信用力の低下した自国通貨から安定したユーロに通貨が切り替わる
10)南欧各国への投資に為替差損のリスクが亡くなった
11)ドイツなどから豊富な投資資金が南欧諸国に流れ込んだ
南欧諸国の経済発展はドイツにとってもメリットがあります
12)南欧諸国は強い通貨ユーロを手にする事で購買力が上がった
13)南欧諸国の購買力の上昇はドイツの輸出を支えた
こうして、一見、ドイツの南欧諸国のウィンウィンの関係で、ユーロは順風満帆かと思われました。
■ 国家間の所得再配分の機能が欠落したユーロ ■
ユーロ導入時からユーロの欠陥は指摘されていました。それはユーロ導入国家間での財政統合が成されていない事です。
ユーロ導入の効果がプラスに働いている時には、この欠陥は目立ちませんでした。
1)ユーロによってドイツの利益は拡大する
2)ドイツの利益は南欧諸国への投資という形で南欧諸国に還元される
3)フランスやスペインはユーロ効果で経済成長が加速しドイツよりも金利が高かった
4)ドイツは南欧諸国への直接投資や国債投資によって高い収益を確保出来た
ドイツやその他の先進ヨーロッパ諸国から南欧諸国に資金流入が続く間は、これが所得再配分の役割を果たし、財政統合と同じ機能を果たしていました。
■ リーマンショックで資金がドイツに還流した ■
ユーロの好循環が崩壊したのはリーマンショックが原因です。
1)世界的な金融危機によって資金の逆転が発生した
2)リスクオフの大きな流れによって南欧諸国から資金がドイツに流出した
3)リスク資産としての南欧債から安全資産としてのドイツ国債に資金が流れる
こうなると共通通貨ユーロの悪い面が一気に露わになります。
■ 財政統合無くしては共通通貨は機能しない ■
ヨーロッパで現在起きている問題は、「円」を日本の共通通貨と考えると理解が容易です。
1)東京は地方に比べて経済成長力が高い
2)地方の資金は利益機会を求めて地方銀行などを通して東京に投資される
3)地方経済から「円」を通して資本流出が起こる
4)地方経済の成長力が低下する
5)東京や都市部の税収が地方交付税として地方に還元される
この様に「円」を共通通貨とする日本では、東京や都市部に資本が集まりますが、その利益は徴税によって集められ、公共投資や社会福祉によって地方経済に還元されています。これが無ければ地方経済は崩壊します。
共通通貨ユーロは、資本還元のルートを持たたないが故に、ギリシャを始めとする南欧諸国は貧しくなる一方なのです。
■ ドイツの殖民地化した南欧諸国 ■
政治的独立性はある程度保たれていますが、共通通貨によって利益が流出する南欧諸国は事実上ドイツの殖民地状態にあるとも言えます。第三帝国の野望が達成されているのです。
ギリシャがナチス時代の事を持ち出してドイツを批判する事を世界は笑いますが、ギリシャ人達の主張はあながち間違いでは無いのです。
■ 財政統合を嫌うドイツ人 ■
ドイツにとって「財政統合」は損失でしか有りません。東京の人は自分達の税金が地方のつまらない公共事業に使われる事に憤りを覚るのと同様です。
ですからドイツはユーロ参加の為のマーレヒト条約を批准する際に、ユーロを離脱出来る条項を国内法に加えています。ユーロ参加国が財政統合に動いたら、ドイツ国民はユーロ離脱を選択する事も出来るのです。
■ 財政統合の為には加盟国の財政が健全である必要がある ■
仮にドイツ国民がユーロ参加国の財政統合を認めるならば、その条件は参加国の財政状態がドイツ並みに健全で、ドイツからの持ち出しが発生しない事が重要となります。
しかし、現在のヨーロッパの状況はこれに逆行します。リーマンショック以降の経済の停滞で、ドイツですら財政支出は拡大しています。フランスやイタリア、スペインやポルトガルは押して知るべしです。
■ 「ユーロ残留 + 借金棒引き」を目指すギリシャ ■
ギリシャは財政破綻が確実ですからいずれはユーロを離脱します。しかし、自国通貨ドラクマに戻れば、ドラクマの価値は一気の減少し、通貨安による輸入インフレが発生します。
ギリシャは食糧自給率が100%を超える食糧輸出国ですが、小麦などは輸入に頼っておりユーロを離脱してドラクマに戻れば強烈なインフレが国民生活を破壊します。確かにギリシャの主要産業は観光ですからドラクマに戻ると格安観光地として観光客が押し寄せますが、ドラクマの下落が続く限り国民の生活は困窮します。
ですからギリシャとしては借金を棒引きしてもらって、さらにユーロに残留する事が最大のメリットとなります。
しかし、これを一旦認めてしまうと、ポルトガル、スペイン、イタリア、さらにフランスまでもが謝金棒引きを求め始めるので、ドイツを始めとするユーロ加盟国はこれを許す訳には行きません。
ギリシャの債務は40兆円程度ですからギリシャ一国のデフォルトならば、ユーロ全体でどうにでもなります。しかし、これにスペインやイタリアが追随したら、全世界規模の国債危機に発展してユーロどころか世界経済が崩壊します。
ですからEU諸国はどうにかしてギリシャをデフォルトさせずに解決したい。しかし、既に国内経済が崩壊状態にあるギリシャにおいて財政の立て直しは不可能です。
ギリシャを巡る泥自在はユーロ圏の財政統合か、あるいはユーロ崩壊よりも財政統合がベターな選択しだとドイツ国民が考える様になるまで延々に続くのでしょう。
その前に第二のリーマンショックが発生し、ユーロは崩壊の瀬戸際まで追いやられると思います。実は既にドイツ国民の選択権は無いのです。
第三帝国の野望はユーロ導入時に既に、ついえているのです・・・。