■ アベノミクスで失業率が低下した? ■
「アベノミクスで雇用が回復している」という主張はリフレ派から多く効かれます。確かに上の様なグラフを見ると、アベノミクス以降雇用が急激に回復している様に見えます。
しかし、グラフのレンジをもう少し長く取ると別の事が見えて来ます。
上のグラフは1980年からの日本の労働者数の推移です。
1)2007年までは労働人口が増えていた
2)2008年のリーマンショックで労働人口が減少に転じる
3)2008年は麻生内閣(自民党政権)であった
4)2009年9月に民主党政権が誕生する
5)2011年3月に東日本大震災が発生する
この間、労働人口は減り続けています。リフレ派の多くが「民主党政権の失政によって雇用が失われた」と主張しますが、民主党はリーマンショックの後遺症と東日本大震災という二つのマイナス要因が大きく働いていた時期に政権を担当しました。
6)2012年11月に安倍政権が発足しアベノミクスがスタートする
7)安倍政権発足以降雇用者数は増加に転じる
確かにアベノミクス効果で雇用が改善した様です。雇用回復の要因は次の項目が有ります。
A)東北の震災復興が本格化して建設市場で雇用が回復した
B)安倍政権の9兆円の補正予算が実行され建設関連を中心に雇用を拡大した
C)ユーロ危機終息のリスクオフで円安が進行し始める
D)日銀の異次元緩和が円安を加速する
E)製造業を中心に円安によって業績が改善する
F)円安を見越してヘッジファンドを中心に日本株を買い上げる
G)アベノミクスや株高が期待を生んで経済に薄日が差す
H)株高による資産効果で消費が改善する
ここら辺がアベノミクスのスタートダッシュ効果でしょう。2013年の間は消費も堅調でした。
8)2014年4月に消費税が増税される
9)一本調子に拡大していた雇用が若干増減する様になる
10)サービス業を中心に人手不足が顕著になってきた
この頃から一本調子に拡大していた雇用者数は多少増えたり減ったりし始めます。景気拡大期待がひと段落した為だと思われます。失業率も自然失業率程度まで低下しているので、一本調子の雇用回復は終焉したと思われます。
■ 安い労働力の不足 ■
最近リフレ派は「アベノミクス効果で雇用が改善し労働力不足が発生しているので賃金はこれから改善する」と主張し始めました。
確かにサービス業を中心に人手不足が顕著になっています。
上のグラフは日本の人口推移に労働者数(ピンクの線)を重ねたものです。棒グラフの青い所が15歳から65歳の生産年齢人口を示しています。
1)生産年齢は2005年にピークを迎えた
2)2007年から団塊の世代のリタイアが始まった
3)新しく労働市場に参入する若年層が減り続けている
これらの要因によって2007年頃から日本の労働人口が潜在的に不足し始めていましたが、リーマンショックの悪影響でこれが顕在化したのは景気回復の始まった安倍政権発足以降になります。
ただ、建設分野では震災復興が始まった時点で相当な人で不足が発生して賃金の上昇が始まりました。バブル崩壊以降の長期の建設不況で、建設業に携わる人材はピーク時の6割程度に減少していたので、急激は労働需要に対応出来なかったのです。アベノミクスの第二の矢である公共投資は建設労働者の不足によってブレーキが掛ります。公共事業の入札が不調に終わる事が続いたのです。同時に民間工事の人件費も上昇してしまった為に、この当時、ゼネコンは赤字工事が続くようになり悲鳴を上げました。
現在、サービス業で同様の事が起きています。
上のグラフは新成人数の推移を表したものです。2014年は若干改善しましたが、長期的には減り続けています。新成人の数は団塊ジュニアの成人した年の1994年には207万人居ましたが、2014年には126万人となっており60%にまで減少しています。
この影響をモロに受けているのがファーストフード店やコンビニ、そして居酒屋でしょう。若者の人口が毎年3~4万人ずつ減少し、同時に若年層の就職率は改善して行くので
すから、「安いアルバイト労働力」は不測します。
東京近辺で自給800円~900円ではなかなかアルバイトが集まらなくなっています。「すき屋」の牛丼チェーンではアルバイトが反乱を起こして職場放棄しましたが、安い自給で過酷な労働を強いる企業の人手確保が難しくなっています。
一方で、飲食を始めとするサービス業の収益は低下傾向に有ります。人口が減っているのですから当然と言えます。少なくなるパイを奪い合う企業にとって、人件費の値上がりは経営を圧迫します。さらに、アベノミクスで輸入価格が上昇しているので企業収益はさらに悪化します。
さらに客数の減少も顕在化し始めました。上のグラフは牛丼チェーンの客数推移ですが、顕著に減って来ています。値上げの影響で売り上げ高は維持していますが、客は今年に入ってから減少が続いています。
■ サービス業が高齢者雇用の受け皿となり始めた ■
この様な「人口減少による労働力不足」を補う為に、コンビニやファーストフードのチェーンなどで増えて来たのが「高齢者雇用」です。
今まで「若者の職場」と思われていたこれらの店舗で、中高年のスタッフの姿が目立つ様になりました。
興味深いのは、利用者も高齢者が多くなった事で、コンビニなどは高齢者向けの弁当などを取りそろえて需要の取り込みに励んでいます。都内の安いラーメンチェーンなどは昼間は老人達に占拠されてサラリーマンが席に着けない所も出ています。「お、○○さん来たね」なんて老人が知り合いを手招きしたりしています。老人達は長時間居座るので、店の回転率が落ちてしまいます・・・。
「サービスする側もされる側も老人」という光景は、これからの日本では一般的になって行くのでしょう。
■ 労働者が減少し、年金受給者が増加し続ける日本で経済成長は難しい ■
再び日本の人口推移のグラフを見てみましょう。
現在日本の高齢化率(65歳以上人口の割合)は25.8%ですが、2050年頃には40%を超えて来ます。一人の労働者が一人の高齢者を支える社会となるのです。
高齢化率が30%を超える様な社会で経済成長を達成する事は不可能です。(イノベーションが無い限り。
現在日本の潜在成長率は0.3%程度と言われています。日銀が異次元緩和を実行する中でこの程度の成長率しか無いのが日本の実態です。
2030年には空家率が30%を超えるとも言われています。現在、低金利によって郊外でもマンションやアパートが建設され続けていますが、いずれ空家が大量に発生します。
■ 「アベノミクス」という幻想を捨てよう ■
一部のリフレ論者は楽観的に「リフレ政策を続ければ、アベノミクスを推進すれば日本の経済は復活する」と言い続けています。
しかし、リフレ政策に効果が無い事が明らかになるにつれて、日本の経済の実態に注目が集まるでしょう。
クルーグマンやジム・ロジャースなどは日本の人口動態は悪すぎると以前から発言しています。彼らは日銀の異次元緩和が一時凌ぎである事を最初から知っています。その上で異次元緩和の行先を注意深く見守っています。
まともなリフレ論者?の予測は、どこかの時点で金利か為替が反応するという事で一致していますが、その限界が何処にあるのかが彼らの興味の対象です。ここら辺が一部の楽天的なリフレ論者との決定的な違いです。
一部のリフレ論者は「夢を持てば景気も回復すいる。景気は気からだ!!」などと平気で口にしますが、景気は循環するのが当たり前で、好循環は長くは続きません。いつか縮小に入る時に、無理を積み重ねたツケがいかに大きいか、彼らも思い知る事でしょう。
既に、日本の景気は統計に表れているよりも相当悪い。「プレミアム商品券」なんて物を発行して税金で消費を喚起しなければならない程所費も落ち込んでいます。
こんな無理をしても、景気が改善すると国民が思い込んでいる間は内閣支持率は有る程度の水準を維持します。そしてその間に安保法制を国会通過させるのが安倍政権の使命です。私は安保法制の改正は必要だと思っているので、まあイイかと傍観していますが、怖いのは法案成立後の景気です。
秋以降、日本の景気は顕著に後退するはずです。ここで日銀がハイパー次元緩和に踏み込むのか...それは米国債金利の動向次第かと思います。
どうやら次のブラックスワンは債権レポ市場の可能性が・・ここら辺はもう少し勉強してから書いてみたいと思います。