今回はネタバレ全開です。ご注意を!!
■ 一番好きな作品は何かと聞かれたら・・・ ■
50歳も近くなって未だにアニメオタクを抜け出せない私ですが、「一番好きな作品は何か」と聞かれたら、迷わずこの作品の名を挙げます。それは『ウィッチブレイド』。
2006年にGONZOが製作した全24話のオリジナル作品です。
■ アメリカンヒロインの日本版リメイク ■
『ウィッチブレイド』のオリジナルはアメコミです。「古来から伝わるウィッチブレイドを装着した選ばれし女性は最強の力を手に入れる」という単純な設定で多くのスピンオフを生み出しました。
その如何にもアメコミヒロイン的なウィッチブレイドを日本を舞台にリメイクしたのが本作です。シリーズ構成と脚本は『進撃の巨人』や『ジョジョの奇妙な冒険』のシリーズ構成で現在押しも押されぬ地位を確立した小林靖子。
大震災で水没した東京に二人の母娘が引っ越して来ます。母親は天羽雅音(あまは まさね)、娘の名前は梨穂子(りほこ)。6才です。
実は天羽親子は児童福祉庁から逃げています。児童福祉庁は震災で減ってしまった子供達の保護育成の為の役所で、生活力が無いと見なされた雅音から梨穂子を保護して施設で育てる決定が下されたからです。
実は天羽親子は震災の中心地で7年前に保護されます。その時、雅音は一切の記憶を失っており、残された母子手帳から二人が親子である事が判明します。その後、雅音は梨穂子の母親になるべく努力します。出産の記憶の無い雅音にとって、母親の自覚を持つ事ですら容易な事ではありませんでした。しかし、7年という歳月は、二人の間に強い絆を生み出しました。
一度は児童福祉庁に娘を預ける決心をした雅音ですが、あきらめ切れずにパトカーを盗んで梨穂子を追います。結局、事故を起こして留置所に入った彼女を、謎の怪人が襲います。その時、彼女の腕のブレスレットが輝いたと思うと、彼女は最強の女戦士に変身します。
彼女の腕のブレレットこそが、ウィッチブレイドだったのです。宿主の命の危機を感じたウィットブレイドが覚醒したのです。
■ ウィッチブレイドを巡る争奪戦 ■
ウィッチブレイドは古来から伝わる伝説の兵器です。その力を得た者はこの世をも支配するとも言われていますが、誰もがそれを装着出来る訳ではありません。ウィッチブレイドがっ装者を選ぶのです。選ばれた者は「適合者」と呼ばれています。
実はウィッチブレイドは世界的兵器企業である導示重工が所有し研究していました。しかし7年前に紛失し、その行方を導示重工の鷹山局長が追っていました。鷹山らはウィッチブレイドの他に自律型兵器のアイウェポンを開発して輸出しています。
実は留置所で雅音を襲ったのは7年前の震災で流失したアイ上ポンの不良品、エックスコンでした。アイウェポンは人の死体から作られ、エックスコンは通常は人の姿をして社会に紛れて生活しているので発見が難しいのです。
留置所の戦いで気を失った雅音を鷹山の部下が保護します。目覚めた雅音に鷹山は「導示重工の為に働かないか」と持ちかけます。ウィッチブレイドの力に引かれて集まって来るエックスコンを捕獲する仕事です。娘との生活の為に雅音はこの話に乗る事にします。
一方、ウィッチブレイドを手に入れる為に暗躍する組織がもう一つ存在します。ナソエフと呼ばれる子供の為の財団ですが、その裏の顔はバイオ技術を駆使して究極の人間「ネオジーン」を作り出す事を目的としています。
エックスコンだけでは無く、ウィッチブレイドを狙うネオジーン(女性)達とも戦闘を強いられる雅音ですが、ウィッチブレイドの力と、子を思う母親の力でこれらを退けます。
■ 母親を求める者達 ■
ナソエフがウィッチブレイドを手に入れようとする目的は、究極の女性を作り出す為です。遺伝子操作によって作り出された優秀なネオジーンは「姉妹」と呼ばれていますが、彼女達に遺伝子を提供しているのはナソエフの創始者である古水達興(ふるみず たつおき)です。彼は「ファーザー」と呼ばれています。
彼が究極の女性を作り出そうとするその目的は、実は究極の母親を求めていたからです。彼の父は優秀でしたが、母親は市井の貧しい家柄でした。自分の出生にコンプレックスを持つファーザーは、自分の遺伝子を使って究極の女性を作りさす事で、最高の母親を生み出すという歪んだ妄執に取りつかれています。彼は自分の遺伝子から生まれたネオジーンの卵子に再び自分の遺伝子を掛け合わせるというインモラルを繰り返して、遺伝子を純粋化させようという狂気に駆られています。
一方、作られた人間であるネオジーンは優秀ながら欠落しています。その生来の穴を埋める為に幾人かのネオジーンは不可解な行動を取ります。
第一世代の最も優秀なネオジーンである蘇峰玲奈(そほう れいな)は優秀な医者ですが、彼女は感情が欠落しています。自分を客観的に観察する事でそれを補おうとしますが、導示重工の鷹山の元でウィッチブレイドを共同研究している時に、彼女は鷹山に対して「理解不能」の感情を抱きます。それが何か確かめる為、彼女は鷹山と関係を持ち、その後、ウィッチブレイドを持ち出して失踪します。
再び彼女が発見された時、その手には子供が抱きかかえられていました。
さらに、玲奈の遺伝子から誕生した第三世代のネオジーンであるマリアも母親を求めます。記録から玲奈が母親である事を知ったマリアは彼女の元を訪れますが、そこには別の子供が居ます。天羽雅音の娘の梨穂子が・・・。彼女こそ玲奈が産み落とした鷹山との子供だったのです。
玲奈はDNA鑑定の結果を児童福祉庁に持ち込み、雅音の手から梨穂子を引き取ります。本当の母親で無い事を知った雅音は逡巡の末に梨穂子の幸せの為に娘を玲奈に託します。一方、玲奈は本能的に母性を感じてはいますが、それを理解出来ません。
そんな玲奈の元に訪れたマリアは、自分以外の子供の存在を許す事が出来ず、逆上して玲奈と梨穂子に襲い掛かります。マリアの圧倒的な力の前にネオジーン最強と言われた玲奈も太刀打ちできません。彼女は自分が囮になって梨穂子を守ろうとします。マリアに敗れ、息絶えようとする玲奈の元に鷹山が駆けつけます。玲奈は鷹山に子供を守って死ぬのも「悪くないわ」と言い残します。
■ 最強の母親 ■
ウィッチブレイドは装着者を破壊します。雅音は戦闘を繰り返す毎に体内がボロボロになってゆきます。自分の余命が幾ばくも無い事を知る彼女は、梨穂子を父親である鷹山に託そうとします。
一方、そんな母親の運命を知らない梨穂子は、母親と鷹山とどうにかしてくっ付けようとします。実際に雅音と鷹山は引かれ合う間柄になっていますが、冷酷な運命を前に彼らの恋が報われる事は永遠にありません。
死期を悟った雅音に最後の危機が迫ります。脱走した何千機ものアイ上ポン、さらにはネオジーン最強もマリアがウィッブレードの力を求めて集まって来るのです。これらの物を梨穂子の住む世界に残さない為に、母は最期の力で戦います・・・。
■ 小林靖子の脚本が素晴らし過ぎる ■
あらすじだけ書くとB級のSF活劇ですが、そこに描かれた母娘の情や、彼らを取り巻く人々の人情は、戦後日本アニメが培って来た「豊かさ」の全てが詰まっている様です。
特に雅音親子が住むアパートの住人達との交流は、昭和40年代の日常アニメを知る私達にとっては馴染みの深い温度感を持っています。
軽快なテンポながらも、人々の感情に機微を丁寧に掬い上げる小林脚本には舌を巻くばかりです。そうして、こういった細かい積み重ねが、全体の大きなウネリに力を与えて行く構成は、現代の「目立つ事」ばかり気にする脚本家には決して描けない世界です。
■ キャラクターがストーリーを生み出して行く ■
小林靖子は「キャラクターがストーリーを生み出して行く」と語っています。一人一人のキャラクターを脚本家が慎重に肉付けして、さらに観察する事で、キャラクターが自然に語り出す瞬間があるのでしょう。
彼女の脚本においては、物語世界はキャラクター達の為に存在します。どのキャラクターもステロタイプに陥る事無く、物語世界の中で必至に生き抜こうとしています。
スタイルとしてはオーソドックスとも言える演出も、御世辞にも今風とは言えない作画も、むしろじっくりと物語を味わう事を助けています。
何より、「母娘の情」を描いて相当ウェットな脚本に、ちょっと昔風の演出が見事にマッチしています。そう、昭和の空気を感じるからこそ、小林脚本の魅力が引きったったとも言えます。
■ 王道の力 ■
アニメに限らず、多くの表現者が新しくて刺激的な何かを探しています。表現手法もどんどん進化しています。
その一方で、グレンラガンやキルラキルの様な、復古的な演出が持てはやされたりもします。
そんなアニメ業界にあって、『ウィッチブレイド』は、極めてオーソドックスなスタイルで、SF活劇というアニメの王道を貫いています。
使い古されたフォーマットでありながら、優れた脚本を得た事で、アニメが根源的も持つ力強さや分かり易さが最大げんに発揮された作品として『ウィッチブレイド』はもっと評価されるべき作品かと思います。
■ 「パチンコを打っていて初めて泣いた・・・」という書き込みも ■
今回この作品を取り上げたのは、スマホのバンダイチャンネルにアップされていたから。どうやらパチンコ台になったてこ入れの様です。
ネットで「ウィッチブレイド」を検索したら、パチンコファンの声がアップされていました。「今まで色々な名作アニメの台を打って来たが、パチンコで泣いたのはウィッチブレイドが初めてだ。ハイライトシーンのオンパレードで涙が止まらない・・・」なんて書き込みも。
放映当時、青年だった人達も子が出来て親となっている頃でしょう。子を持つ親の目でもう一度この作品に接した時、この作品の素晴らしさを改めて知る事となるかも知れません。
是非、お子さんが居る大人達にこそ見て欲しい作品です。