きちんと作りこんだ劇団大阪らしい作品だ。緊張感もある。「マンハッタン計画」(こんなのがあったのだ!)の全貌に迫る。そこに集められた彼らが、何を考えてそこにいたのかを、彼らの日常のスケッチから描く。みんなで集まりたわいもない話をしたり、はしゃいでみたり。でも、やがて、彼らの発明が戦争を終結させ、世界に平和をもたらしても、彼らはもう無邪気にははしゃげない。
この作品は、日本人の側からではなく、ア . . . 本文を読む
モデルにした『東電OL殺人事件』にはあまりこだわらないほうがいい。これはあくまでも武藤さんによるフィクションとして、見たほうがよいと思うからだ。だが、あまりにあからさまに引用してあるから、せっかく魅力的な作品なのに、そのバランスが崩れたのが惜しい。ワイルダーの『わが町』や、漱石の『こころ』と、あの事件は違う。引用では済まされない。ノンフィクションをフィクションのなかに混じりこませるのは、作者の強 . . . 本文を読む
1914年、京城(もちろん、今のソウルのことです)。日韓併合で、日本の植民地と化した朝鮮。そこでただひたすら木を植える男が主人公。浅川巧という日本人技師だ。朝鮮の山々を守りたい。彼は、ここに本来の美しい自然を取り戻したい、と願う。冒頭の彼が日本からこの地にやってきたシーンがいい。何にでも興味津々の彼が、駅から家までの道すがら通りの店先であっちにフラフラこっちにフラフラするシーンが楽しい。彼に付き . . . 本文を読む
この古典を、今、現代に蘇らせることにどんな意味があるのだろうか。そんな猜疑的な目で見ながら、スクリーンに対峙した。だが、そんな偏見はすぐに払拭される。とても丁寧に、原作に忠実に映像化している、のだろう。(原作は読んでいない) 作り手の誠実さがひしひしと伝わってくる映画だ。風景も美しい。このうら寂しい風景が美しいのだ。こんな閉ざされた自然の中で、彼女がどんなふうにして自分の生き方を最後まで貫くのか . . . 本文を読む
尾崎紅葉の古典作品を三名刺繍さんが、自分の世界観の中に封じ込めて再構築したレトルト内閣流の新解釈『金色夜叉』。これはなんとも激しい。金と欲にまみれた男と女のドロドロの世界を、自意識過剰の横暴男の勘違い行動から見せていく。この間貫一は凄い。お宮に対する彼の想いは常軌を逸する。こんな男に惚れられたら身の破滅だ。エキセントリックで、自己中、思い込んだら、周囲のことなんかどうでもいい。そんな自分に酔う。 . . . 本文を読む
16年前に書かれた『ここからは遠い国』の続編。地下鉄サリン事件を扱い、教団を脱走した2人の男たちのその後を描いたあの作品の、さらにその後を描く。もう一度あの事件を今取り上げる上での岩崎さんの覚悟はフライヤーからも伝わってくるが、この時期にまさか菊池直子が捕まるなんて、ちょっとタイムリーすぎて、変な気分だ。
とは言え、この作品はオウム真理教を描くのでも、サリン事件を直接に描くのでもない。この作 . . . 本文を読む
なんて優しい世界だろうか。阪神淡路大震災で被災した男が見る夢が描かれる。あの日の夜。ひとりで過ごす時間。死んでしまったものたちが、彼のもとを訪れる。そこでともに過ごす時間が描かれる。3話からなる連作だが、お話は続いているから1本の長編作品として理解してもかまわない。主人公も同じだし。
これは死者との対話であり、死者に導かれて旅する話でもある。『銀河鉄道の夜』とか、そう言えば大竹野の『サラサー . . . 本文を読む
とても野心的な作品である。ベテラン劇団である息吹が、こういう若々しいチャレンジをする。そういう姿勢が、もうそれだけでとても素敵だ。創立54周年を迎えるという彼らが、それでも守りには入らずに果敢に挑戦を続ける。貪欲にもっともっと新しいことを求め、自分たちが作ったことのない芝居を夢見る。ここ数年はドーンセンターのパフォーマンススペースという何もない空間で、狭いスペースを劇場にして、まず劇場作りからス . . . 本文を読む
80年代演劇のこのこだわりは、今の時代にはあまりにセンチメンタルすぎて、伝わりきらない。あの頃、あんなにも涙を流した感動の作品なのに、まるで胸に迫らないのが驚きだった。あの頃どうしてこの話に泣けたのだろうか。それは南河内万歳一座のエネルギッシュな舞台の熱気がセンチメンタルを突き抜けたことで生じたものなのか。でもそれはこの醒めた時代には、もう通用しないものなのか。
演出の浦部さんは、敢えて一歩 . . . 本文を読む
『源氏物語』を原作にしたミュージカル・スタイルの作品。邂逅らしい題材の選び方だ。しかも、膨大な原作の中から、朧月夜と源氏を主人公にするという発想もすばらしい。晩年の源氏を描きながら、それを相変わらずの軽くてチャラい男として見せるというのもおもしろい。林真由子さんが演じる、いくつになっても軽薄で、女から女へと渡り歩く永遠のプレイボーイ、光源氏という設定は、原作のファンからは顰蹙かもしれないが、オリ . . . 本文を読む
2000年から今年の1月までに書かれた(というか、発表された)短編を、1冊にまとめたもの。「森絵都デビュー20周年記念作品」なのだそうだ。それって、まるで歌手か何かのようだが、彼女は小説家である。そんな彼女のさまざまな一面が垣間見える短編集だ。
どちらかというと、軽い作品が多い。ショートショートのようなものもある。だが、そこには彼女の確固とした姿勢が貫かれているから読んでいて気持ちがいい。生 . . . 本文を読む
宮川サキとSun!! による2人芝居。作、演出は横山拓也。中崎町のムーブ・ファクトリーは初めてだったが、こういう小さな空間は好きだ。このスペースに合わせて、横山さんは簡素で、さりげない芝居を提供する。
とても小さな話だ。酔っ払いの独り言のようなものだ。ひとりぼっちで、とても寂しい。だから、ひとりで酒を飲む。マスターを相手にして1人語りを繰り返す。宮川サキはいつもながら、上手いから、すぐにその . . . 本文を読む
『桐島、部活やめるってよ』の姉妹編のような作品を目指したのだろう。今度は、主人公は女の子だけで7編からなるオムニバスだ。卒業式の1日を舞台にして時系列に並べられた短編連作は、お話自体はかなり嘘くさくてまるでリアルではない。大体設定自体が作り物っぽいし、嘘っぽい。あの卒業式の送辞なんてありえないし。小説の中だけのお話として、すべて理解するけど、それでも、もう少し心地の良い嘘を見せて欲しい。明日には . . . 本文を読む
これはたぶん「タイムトラベルもの」なのだが、なかなかよく出来ているし、一風変わった映画だ。一度、死んでしまったはずの人間が、死なずに生き続ける。だが、事故で再び死ぬ。なのに、死なない。人体実験に供されて、体は弱り、やがて再び、というか三度だが、死ぬ運命にある。拘束され、仮死状態のまま棺桶のような狭い空間に(死体安置所か)閉じ込められる。すると、そこでタイムトラベルして、未来に行き、そこで自分が死 . . . 本文を読む
浜本正機監督の久々の新作映画だ。ただそれだけで見逃せない、と思う。でも、この素材である。しかも、「幸福の科学」が製作するプロパガンダ映画である。様々な足枷手枷があったはずだ。作家としての自分の考えなんか、ここには展開出来る余地はない。それでも、浜本監督がメガフォンを取った作品なのだから、見逃せない。
正直言うと、あまりの惨さに悲しくなった。これでは映画とは言えない。『EKIDEN 駅伝』『あ . . . 本文を読む