サン・ロマーノの戦い
聖ゲオルギウスの竜退治
聖ゲオルギウスの竜退治
ルネサンス初期の画家パオロ・ウッチェロは、遠近法が大好き。
槍や道に畑、馬でさえも、なんでも遠近法を示す道具としてしまう。
とにかく、寝ても覚めても遠近法のことを思い、まるで遠近法に恋しているかのよう。
傍から見れば、理解不能かもしれない。
遠近法ばかりに囚われないで、人物や主題をもっと練り込み柔らかに描ききれというかもしれない。
しかし、彼はそんなことにはお構いなし。
彼が描きたいように絵を描いた。
当時や、その後しばらくは、顧みられない不遇のときを得たとしても、ウッチェロはそのこだわりゆえに唯一無二の個性を獲得した。
じっくりと見れば見るほどに、絵が醸し出す独特の空間に嵌ってしまう。
モチーフの扱い方に面白くなる。
”サン・ロマーノの戦い”の三部作の中で一番好きなのは、ロンドンのナショナル・ギャラリー所蔵のもの。
ルーブルとウフィッツィにある物は、この目で見たのだが、残念なことにナショナル・ギャラリーは画集でのみ。
自分では、愛情を込めて”ピンクのサン・ロマーノの戦い”と名付けている。
ともすると、おもちゃ的なウッチェロの作品は、愛すべき”小鳥の囀り(ウッチェロ)”のように憎めない絵。
ただひたすらに、”遠近法、遠近法”と囀り描いたに違いないと思わせる純真さがにじみ出ているように見えはしまいか。